"9年間消えた娘と「お姫様の部屋」" 第5話
『ゆいちゃん、終わったらお姫様の部においで』
修平の声は、テープ越しでもはっきりと聞き取れた。
『約束覚えてるよね。終わったら、トイザらスにしいリカちゃん形を買いにこう』
エリコは涙を拭うを止め、怪訝そうに眉をひそめた。
彼女はレコーダーのスピーカーを見つめ、瞬きをする。
「お姫様の部……?」
彼女はさく呟き、巻き戻しボタンを押した。
テープがキュルルと巻き戻る音を待ち、もう度再ボタンを押す。
修平の声のトーンが、普段のエリコがっているものとはらかに違っていた。
それはまるで、幼い子供のご嫌を取るような、異常に甘くねっとりとした声だった。
それに、ユイナは「お姫様」というものにはあまり興がなかったはずである。
彼女が好きだったのは、物や恐竜、ユニコーンや犬といったき物だったのだ。
エリコは首を傾げ、考を巡らせた。
もしかすると、修平が父親として、娘の興を女の子らしい別の方向へ向けようとしていたのだろうか。
親というものは々、子供に違うおもちゃで遊ばせようと誘導するものだ。
ご褒美としてのリカちゃん形も、いい子にしていたの約束としては分に筋が通る。
エリコはレコーダーを置き、目のの箱のを両で探り始めた。
しかし、底の方までいくら探しても、リカちゃん形は見つからなかった。
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別の箱に入っているのだろうか、と彼女は考えた。
それとも、修平があので元に残したのだろうか。
彼にとっても、いが辛すぎてどうしても梱包できなかったおもちゃがあるはずだ。
彼女はもう度だけ録音を再し、目を閉じて言句にを澄ませた。
『お姫様の部においで』
やはり、何度聞いても奇妙な言葉だった。
修平がユイナの部を、そんなに気取った名で呼んだことは度もなかったのだ。
あれは、父親と娘のだけの秘密の遊びだったのだろうか。
それとも、自分が忙ので忘れてしまっただけの、特別な呼び名だったのだろうか。
実際のところ、夜勤のいエリコよりも、ユイナとく過ごしていたのは修平の方だった。
エリコはくため息をつき、レコーダーの止ボタンを押した。
今は考えても仕方のないことだ。
彼女はレコーダーを箱に戻し、自分の活に必な荷物を片付け始めた。
数が慌ただしく過ぎていった。
エリコは見らぬキッチンの棚に、使い慣れた器をつずつ並べていく。
寝のさなクローゼットには、ハンガーにかけたを順番に吊るしていった。
い壁には、かつての族の写真を慎に飾った。
最にな類を理しようと、彼女は持ち込んだキャビネットの引きしをけた。
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用していたクリアファイルを確認していくで、彼女はな忘れ物に気づいた。
仕事に絶対に欠かせない、護師免許の更類が見当たらないのである。
エリコは焦りをじ、元にある全てのフォルダーを度ずつ確認した。
自分の名がマジックでかれたの箱も当たり次第に探したが、やはり見つからなかった。
彼女は顔をげ、壁に掛けた計を見つめた。
計の針は、午830分を指している。
今夜の夜勤は、10から始まる予定だった。
あの類がないと、病院側に自分の資格が現も効であることを証できない。
病院の事務局は、そういう公な類の提には非常に厳しいのである。
エリコは舌打ちをし、買ったばかりのしい話にを伸ばした。
受話器を取りげ、暗記している修平の携帯番号にダイヤルする。
コール音が3回鳴った、ガチャリと彼がた。
「エリコ、どうかしたか?」
修平の声は、どこか議そうだった。
エリコは受話器をに押し当て、で事を説する。
「護師免許の類が見つからないの」
彼女はキャビネットを睨みつけながら言った。
「に忘れてきたみたい。今から探しにってもいい?」
話の向こうで、「ああ」と修平が答えるまでに、自然なしのがあった。
「俺は今、被害者族の会に向かうために、をたところなんだ」
修平は淡々とした声でそう告げた。
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