"旅行代を全額68万円出したのに現地で「年寄りはすぐ疲れて足手まとい」と別行動された" 第8話
11回の無料宿泊
「私は、美咲さんとホテルに泊まったことは度もありません」
本は無言で頷き、端末をテーブルへ置いた。画面には付、施設名、客、減免額が並んでいる。、京都、沖縄、軽井沢。3で11回、計286万円。すべて《主株主本同》として処理されていた。
本来、オーナー族向けの招待制度を使うには、対象株主本の宿泊か、事の承認が必になる。直は本社の管理職権限で申請し、私が同すると入力していた。
私の承認欄には、毎回《確認済み》とだけ記されていた。本が確認した限り、私からの申請も話記録も1件もない。11回という数字は、うっかりやい違いでは説できなかった。
「これも、役員候補者向けの待遇じゃなかったの?」
美咲は直へ詰め寄った。
「あなたがホテルを取るたび、従業員に慮する必はない、族が経営している会社なんだからと言ったでしょう」
結婚1周に利用した沖縄のスイートは、美咲が直の世を信じたきっかけだったという。空港送迎も記の料理も無料になり、直は「会社が次の幹部として扱い始めた」と説していた。美咲はその夜の写真を友へ送り、夫が評価された証しとして何度も語ってきたらしい。
だが実際に使われていたのは、直の役職ではなく、同していない私の名だった。
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「俺は創業者の息子だ。いずれ役員になるが、系列ホテルを使っただけだ」
「でも、申請にはお義母さんが緒だといてある」
美咲の声はもう、私を責めるときのようにはくなかった。自分が豊かな暮らしをしているとっていた元から、借り物のが剥がれていく。そのが顔に表れていた。
本が記録をさらにくと、11件のうち3件には、接客の注報告が添付されていた。無償の客アップグレード、貸切呂の変更、満席のレストランへの追加席。望が通らないと、美咲は「主は次の役員です」と従業員へ告げていた。
「そんな言い方はしていません」
美咲が反射に否定した。
「スタッフ2名の記録が致しています」
本の返答は静だった。
直は報告を閉じようとしたが、本が端末を引いた。
「これは会社の記録です。個の判断で消すことはできません」
私は息子を見た。旅代を自分が払ったと妻にわせたことは庭内の嘘で済む。しかし、私の名を使い、会社の費用を負担させ、従業員へ圧力をかけたなら話は別だった。
直が守ろうとしているのは、母親でも妻でも会社でもない。自分が能な夫であり、将来の経営者であるという側だけだった。その形を保つために、私はをすにされ、美咲は嘘を信じるにされ、従業員は黙るにされていた。
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「本さん、この記録は通常の順でコンプライアンス担当へ提してください」
「母さん、待ってくれ」
「私はあなたを処分しません。株主だからといって、事をで決めるつもりもありません。会社が証拠を確認し、会社の規則で判断します」
「来週の取締役会で、俺の役員推薦が決まるんだ。今これをされたら、全部なくなる」
「なくなるのではありません。これまで隠していたことが、審査されるだけです」
本がコンプライアンス担当役員のへ記録を送ると、直の社用スマートフォンが鳴った。画面を読んだ彼のが止まる。
《事実確認が完するまで、取締役候補者としての審査を止します》
美咲が隣からその通を見た。さっきまで「次の役員」と呼んでいた夫を、今度は何も言わずに見つめていた。
直は青ざめた顔で、私へスマートフォンを差しした。
「母さん、今ならまだ止められる。さんに、族内で解決したと伝えてくれ」
私は首を横に振った。
「私が止めたのは25万円だけです。あなたの世を止めたのは、あなた自でしょう」
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