"旅行代を全額68万円出したのに現地で「年寄りはすぐ疲れて足手まとい」と別行動された" 第13話
古いバッグの旅
3週、修理から古いバッグが戻ってきた。
擦れた革のはそのままに、傷んでいた持ちと内布だけが丁寧に替えられている。品のようには見えなかったが、私はそれが嬉しかった。35に刻まれた傷まで消してしまえば、隆と苦労をねたまで別のものになる気がしたからだ。
翌朝、私はそのバッグを肩に掛け、京駅で旧友の佐々千鶴と待ちわせた。き先は沢。2泊3の予定を決めるとき、千鶴は私の齢を理由に観先を減らしたりせず、歩く距と休憩所を緒に確認してくれた。
「疲れたら、どちらかが言いすこと。慮したほうが負けね」
「それなら、きっと千鶴が先よ」
笑いながら幹線へ乗り込んだとき、箱根のホテルで1だけロビーに残された朝が、ふと胸をよぎった。けれど、同じ旅鞄を持っていても、今の私は誰かの都にわせて連れてきてもらったのではない。切符も宿も、自分で選んだ旅だった。
宿泊先は、ホスピタリティが運営する28施設のうちの1つだった。予約に本支配から連絡が入っていたらしく、フロントの女性は私の名を見ると緊張した表を浮かべた。
「様、お部をスイートへ変更させていただけますが」
「ありがとう。でも今回は、友と予約した部を楽しみに来ました。
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いつものお客様と同じようにお願いします」
私は黒いオーナーカードではなく、普通のクレジットカードで自分の分を支払った。特別扱いを拒むためではない。を隠して誰かを試すためでもない。ただ、今は株主としてではなく、72歳の澄子として旅をしたかった。
部の窓からは、がりの並みが見えた。濡れた瓦根の向こうに夕が差し、浅野川の面が細くっている。千鶴が湯みを2つ並べる、私はスマートフォンをいた。
会社の事通には、しい取締役候補3名の名が記されていた。直の名はない。彼の候補資格は正式に取り消され、なくとも2は再審査されない。その決定を覆してほしいという連絡も、私から会社へ入れるつもりはなかった。
通を閉じると、直からいメッセージが届いた。
『今、会社への返還の1回目、5万円を振り込みました。報告だけです』
言い訳も、援助の依頼もかれていない。私はしばらく画面を見たあと、『確認しました。続けてください』とだけ返した。
失った信用は、1度の謝罪や5万円で戻るものではない。それでも、を取り戻すためではなく、自分が使った286万円を返すために働き始めたのなら、その歩みまで否定する必はなかった。
翌朝、私たちは兼園へ向かった。坂の途で膝にさをじ、私がち止まると、千鶴も黙ってを止めた。
「休む?」
「5分だけ。それから、もうし歩きたいわ」
千鶴は先にくことも、寄りだからホテルへ戻れと言うこともなく、くのベンチに並んで座った。いやることと、相の選択を奪うことは違う。私はその当たりの違いを、72歳になってようやくく理解した。
5分、私は修理されたバッグを肩へ掛け直した。朝のの、古い革が柔らかく艶めいている。
「きましょうか」
千鶴が差しした観図を2でのぞき込み、次のき先を決めた。
もう、誰かに連れていってもらう必はない。誰と歩き、どこで休み、どこへ向かうのかは、自分で選べる。
私は35目のバッグを肩に、千鶴と並んで歩きした。
今度の旅では、誰も私を置いていかなかった。
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