"その家、私のです" 第1話
「婚してほしい。ただし、このには俺と母さんがむ」
曜の夜、夫の修司は焼き魚に箸をつけるにそう言った。歳の絵里は、向かいに座る夫と、その隣で噌汁をすすっている義母の千鶴子を交互に見た。
結婚して。子どもはいない。千鶴子が膝を悪くして暮らしが難しくなったから、で暮らしてきた。
は横浜郊にある築の戸建てだった。絵里が歳の、独代の貯と宅ローンで買った。結婚、修司が壁と台所を改装し、毎万円を活費として入れていたため、いつしか彼はで「俺たちの」と呼ぶようになった。
「婚の理由を聞いてもいい?」
「もう夫婦として終わってる。会話もないし、母さんと君のに入るのも疲れた」
千鶴子は茶碗を置き、「私のせいにしないで」と言ったが、驚いてはいなかった。のでは、すでに話が済んでいるのだと分かった。
修司はクリアファイルから婚届をした。夫の欄には署名があり、証欄には千鶴子と修司の姉の名が並んでいた。
「財産分与はしない。互いに働いてきたし、借もない。君は自分の貯を持ってればいい」
「このは?」
「俺が改装費を払った。母さんは所の病院へ通ってるし、今さらかせない。君なら賃貸で分だろ」
広告
絵里は宅ローンをに完済していた。固定資産税も災保険も自分の座から払っている。それでも修司は、く暮らした事実と台所の改装費で、を使い続けられるとっているらしい。
「いつまでにればいいの?」
「今。急なら、駅のビジネスホテル代くらいはす」
あとだった。
絵里は鳴らなかった。から、修司の帰宅が遅い曜だけ、に柑橘系のが残ることをっていた。勤務先の内装会社で営業部になり、休にも『施主との打ちわせ』が増えた。
浮気を問い詰めなかったのは、証拠がりなかったからだけではない。千鶴子の通院、事、修司の会社の領収理まで抱え、争う気力を失っていた。
「分かった。し考える」
そう答えると、修司は堵した。千鶴子は「なるべく揉めずにね。所にられたら恥ずかしいから」と言った。
寝へ戻った絵里は、クローゼットの段から権利証とローン完済類をした。登記名義は絵里。結婚に購入し、修司へ持分を移したことはない。
ただし、所者だからすぐを追いせるわけではない。族として無償でまわせてきた以、適切な通と相当の猶予が必になる。絵里は翌朝、以仕事で世話になった司法士へ相談予約を入れた。
広告
送信、修司の机に置かれた会社用タブレットがった。画面には、《倉田美:例の件、奥さんは納得した? が使えるなら計画をめます》と表示されていた。
婚の先にいるのは、女だけではない。そのものを使う『計画』がある。絵里は画面を撮せず、表示された言葉と刻を自分のノートへ正確にいた。
翌朝、修司は何事もなかったようにゴルフバッグをへ積んだ。婚を切りした翌に遊びへく神経を疑ったが、き先を尋ねると、「会社の付きいだ。もう束縛される筋いはない」と返された。
千鶴子は修司を見送ったあと、客の寸法を測り始めた。絵里の寝を斎にし、客を自分の寝へ変えるつもりだという。カーテンのまで相談され、絵里はまだ暮らしているからだけを先に消されていく覚をわった。
昼過ぎ、実母の遺品を収めた桐箱まで廊へされていた。千鶴子は「これはあなたしからないでしょう」と悪びれずに言った。の値段よりも、自分のいをが品として仕分けたことが許せなかった。
「私の物には、もう触らないでください」
静かな声だったが、千鶴子はを止めた。絵里は桐箱を自へ戻し、扉に簡易錠をつけた。婚を拒めば元に戻れるとはっていない。ただ、相が用した期限と条件に従う必もなかった。
曜、絵里はを取り、司法士と弁護士の共同相談へった。が婚財産であることは登記と購入の送記録から確だったが、修司が負担した改装費については財産分与や精算の争点になり得ると言われた。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
現地払いの還暦旅行
旅行会社に勤める弘志は、義父の還暦祝いに伊豆の高級ホテルを手配する。ところが旅行当日、義父母と義姉、さらには妻の優希までが、駅で「お前はもう帰れ」と弘志を追い返した。 屈辱をこらえて帰宅した弘志のもとに、妻から不可解なメッセージが届く。一方、義家族はホテルで高級料理や酒、エステを次々と注文していた。 しかし彼らは、旅行のしおりに記された重要な支払い条件を見落としていた。チェックアウトの日、彼らを待ち受ける驚愕の請求と、妻が隠していた秘密とは――。人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.8万字5 504 -
完結第10話
銀座の384万円
巨大企業グループの総帥という身分を隠し、平凡な専業主婦として暮らす美央。夫と義母に見下されながらも、温かい家族を夢見て五年間耐え続けてきた。 義母の誕生日、55万円の高級バッグを用意して銀座のレストランへ向かうと、義家族はすでに食事を終えていた。美央の席も料理もなく、代わりに突きつけられたのは384万円もの請求書。 「会計はあなたが払って」 その言葉に、美央は静かに微笑んで店を去る。しかし義家族はまだ知らなかった。自分たちが誰を敵に回したのかを――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題|修羅場1.6万字5 1538 -
完結第15話
親族会議で追放された妻――翌朝、七枚のカードが全停止
七年間、夫の翔平と宮田家を陰で支え続けてきた神崎紗良。しかし親族会議の席で、夫から突然離婚を宣告される。 「慰謝料も財産分与もなし。一円も持たずに出ていけ」 義父母や親戚からも見下された紗良は、反論することなく離婚届に署名し、屋敷を去った。 ところが翌朝、翔平の七枚のブラックカードがすべて使えなくなる。続いて二軒の豪邸に届く契約終了通知、銀行からの融資見直し。 実は宮田家の誰も、紗良の本当の正体を知らなかった。九十九件もの着信を重ねた元夫が、最後に突きつけられる真実とは――。裡切られた|嫁姑|夫婦|金銭問題1.9万字5 509 -
完結第20話
愛人が妊娠、離婚を迫る夫が私の退職に大慌て
十年間、夫・徹が経営する武田工業を営業部長として支えてきた44歳の百香。ある夜、夫から突然、29歳の女性社員を妊娠させたと告げられ、離婚を迫られる。 さらに夫は、離婚後も会社で働き続け、愛人の子供の世話までしてほしいと言い出した。 呆れ果てた百香は離婚と退職を決意するが、親友の弁護士から驚くべき証拠を渡される。そこには、愛人が会社の裏で進めていた巨額の不正が隠されていた。 十年の献身を踏みにじられた妻が仕掛ける、痛快な逆転劇。怒り|夫婦|金銭問題|不倫2.3万字5 693 -
完結第15話
「25万円振り込め」と脅す夫へ、私はもう妻じゃない
フリーランスの設計士・美穂は、三年間無職の夫・浩司と同居する義母・富江を、自分の収入で養い続けてきた。感謝されるどころか、夫からは「離婚するぞ」と脅され、生活費として25万円を要求される日々。 ところが、夫の浮気だけでなく、義母まで愛人を家へ招き入れ、亡き父から相続した家を奪おうとしていることが発覚する。 半年間、証拠を集め続けた美穂は、三年前に夫が署名した離婚届を手に、静かな反撃を決意する。しかし、何も知らない夫と義母は、さらに300万円を要求してきて――。怒り|夫婦|金銭問題|修羅場1.8万字5 1378 -
完結第20話
同窓会で頭取の娘に脅された俺、300億を全額解約
卒業から24年、150人が集まる同窓会に出席した堀口弘樹。質素なスーツ姿を見た銀行頭取の娘・久我エリは、高校時代と同じように彼を見下し、「パパに頼んで取引を打ち切ってもらう」と脅してきた。 しかし、弘樹の正体は年商2100億円の物流グループを率いる創業社長。東王銀行には300億円を超える預金があった。 「じゃあ、全部解約で」 翌日、銀行から100件もの電話が殺到する。だが、弘樹と頭取の間には、20年前の知られざる恩義があった。彼が最後に下す決断とは――。職場逆転|因果応報|第二の人生2.7万字5 2596