"空っぽの弁当箱" 第4話
「こういう昔っぽい料理、私あんまり好きじゃないんですよね」
はる子の箸が止まった。
「そう?」
「もっとにするとかできません? 見た目もだし」
「そうね。次は考えるね」
誰も、し等な皿に気づかない。
いつもよりい牛肉にも。
はる子は4の顔を順番に見た。
そして、箸を置いた。
「今ね」
健がようやく顔をげる。
「私、誕だったの」
卓が瞬だけ静かになった。
健は目を瞬いた。
「今だっけ?」
美はし困った顔をした。
「先に言ってもらわないと分かりませんよ。そういうのは」
芽が蔵庫を見る。
「ケーキないの?」
陸も言った。
「誕ならにすればよかったじゃん」
誰も「おめでとう」とは言わなかった。
りより先に、妙に静かな気持ちが広がった。
今くらいは気づいてくれるかもしれない。
半、最まで残していたさな期待が、その瞬に消えた。
事が終わると、4はいつものように席をとうとした。
はる子は皿を見たまま言った。
「今は私の誕だから、洗い物だけ誰か伝ってくれない?」
美がでさく笑った。
「それくらいいつも通りでいいじゃないですか。誕だからって、急に特別扱いされても」
健も面倒そうに言った。
「母さん、ここにませてもらってるんだ。事くらいちゃんとしてくれよ」
はる子はゆっくり顔をげた。
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「そう」
健は、また母が折れたのだとったらしい。
「も弁当頼むな。俺、朝いから」
はる子は息子の顔をしばらく見つめた。
夫の茂が、毎誕に言っていた言葉をいした。
「誕は、うまい物をべるじゃない。まれてきてくれてありがとうって言うだ」
はる子は静かに箸を置いた。
「分かりました」
美が線を戻す。
「今で、このの事係をります」
数秒の沈黙のあと、美が笑った。
「またげさな」
健も肩をすくめた。
「母さん、すねるなよ」
はる子はそれ以何も言わなかった。
4がテレビやスマートフォンへ線を戻す、自分の皿をげた。
最の夜だからと、わざと汚したままにする気はなかった。
器を洗い、シンクを拭き、コンロの周囲もきれいにした。
3続けてきた通りに。
ただつだけ違った。
翌朝5のアラームを、はる子は設定しなかった。
午11を過ぎる頃、族は全員眠っていた。
はる子だけが、自分の部の照をつけていた。
クローゼットの奥からさなスーツケースをす。
類。
薬。
鏡。
通帳。
分証。
夫の写真。
そして、2週に受け取った期滞型宅の申込の控え。
入居には、1019とかれている。
はる子はその文字を指でなぞった。
半から決めていた。
勢いでをびすのではない。
自分で活を計算し、む所を探し、必な続きをしてきた。
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机のには、冊のノートがあった。
はる子が「族運営ノート」と呼んでいたものだ。
健の会議の。
美の残業曜。
陸の部活予定。
芽の教材費提。
ゴミの。
洗剤を買いす期。
弁当に入れてほしいもの。
べたくないもの。
誰かが困らないよう、3き続けてきた。
そのノートを器棚のへ置いた。
午4半。
はる子はをるに台所へった。
洗って乾かしておいた4つの弁当箱が、いつもの所に並んでいる。
健。
美。
陸。
芽。
いつもなら、ここから米を詰め、卵を焼く。
だがその朝、はる子は何もしなかった。
材もそのまま残した。
息子夫婦のおにも、蔵庫の物にもをつけない。
持ちすのは、自分の物だけだった。
蔵庫にメモを枚貼った。
《今から、このの事係をります。》
《族運営ノートは器棚のです。》
それだけだった。
「帰ります」とも、「探さないで」ともかなかった。
はる子は玄関で靴を履き、スーツケースの持ちを握った。
振り返れば迷うかもしれない。
だから振り返らなかった。
まだ暗い宅を歩き、始発がきす駅へ向かった。
の空がしずつるくなる。
誰かの朝を気にしなくていい朝。
誰かの弁当のいを考えなくていい朝。
58歳になって初めて、はる子は自分のためだけの朝を迎えた。
午6。
美は眠そうな顔で台所へ入った。
いつもの所に4つの弁当箱がある。
何も疑わず、自分の弁当箱へを伸ばした。
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