"空っぽの弁当箱" 第6話
健は両を握った。
「でも母さんが、それ以に何をしてたのか、俺は何もらない」
その、ようやく器棚ののノートが目に入った。
はる子が残した「族運営ノート」。
健はそれをに取った。
最初のページには、健の名がかれていた。
《はし濃いめ。》
《会議のは匂いのいおかずを避ける。》
《胃が疲れていそうなは揚げ物を減らす。》
健は黙った。
母の煮物を「またこれか」と言ったのことを覚えている。
その週、会が3続いていた。
次のページは美だった。
《弁当は赤・緑・黄を入れる。》
《汁が漏れないように気をつける。》
《職で見られるので、同じおかずが続かないようにする。》
美の唇がし震えた。
「こんなことまで……」
自分が何気なくにした満を、はる子は全部覚えていた。
陸のページ。
《部活は腹持ちのいいもの。》
《ご飯め。》
《練習がいは、おにぎりを追加。》
陸がスマートフォンを伏せた。
「だから俺、部活のだけ飯かったんだ」
芽のページ。
《友達に見せるので、見た目をえる。》
《参はハートか。》
《デザートがあるとぶ。》
芽は何も言えなくなった。
ページをめくる。
ごみし。
洗剤。
学の提。
制のクリーニング。
健の健康診断。
美の繁忙期。
陸の試。
芽の定期テスト。
誰かが翌困らないように、はる子は全体のを先に読んでいた。
広告
そしてノートのろには、さな透ポケットがあった。
からレシートの束と覧表がてきた。
活費。
費補填。
学用品。
部活用品。
用品。
湯器が壊れたの修理費の部。
3の計。
健は数字を見て黙り込んだ。
毎5万円の活費だけで180万円。
さらに、それとは別に族へ使っていた額が何万円も積みなっている。
美が覧表を見ながら呟いた。
「私……5万円の居候って」
声がさくなった。
「所のに言った」
健が顔をげた。
「何?」
美は目を伏せた。
「お母さん、聞いてたのかもしれない」
「いつ?」
「半くらい」
その言葉で、健は理解した。
母は突然ていったのではない。
半から考えていた。
そのも毎朝5に起き、何も変わらない顔で弁当を作っていた。
健は最のページをいた。
にさくいてある。
《私のこと》
そのは、真っだった。
芽が首を傾げた。
「何でいてないの?」
誰も答えられなかった。
芽はいページを見たまま言った。
「おばあちゃんの好きなべ物って何?」
沈黙。
「好きなは?」
誰も答えない。
「きたい所は?」
健は母の好きな所をらなかった。
美も、義母が何をべたいのか考えたことがない。
陸は部活の予定を祖母に覚えてもらっていたのに、祖母がどんな毎を送りたいのからなかった。
芽がさく言った。
広告
「きたいのに、何もけない」
その言葉が、4の胸に残った。
健はスマートフォンを取りした。
はる子がをて3。
初めて、自分から母へ話をかけた。
呼びし音が数回続き、話がつながった。
「もしもし」
はる子の声は落ち着いていた。
健はすぐに言葉がなかった。
「母さん……今どこにいる?」
「ちゃんと落ち着ける所にいるよ」
「丈夫なのか?」
「丈夫」
健は台所を見回した。
洗い物。
乾ききらない洗濯物。
買い物袋。
族運営ノート。
「戻ってきてくれないか」
からたのは、その言葉だった。
話の向こうが静かになった。
「今は戻らないわ」
「これからは俺たちもやるから」
「そう」
健は焦った。
「のことが回らないんだ」
はる子はしばらく何も言わなかった。
そして穏やかに聞いた。
「私が戻ったら、また何をすればいいの?」
健のが止まる。
弁当。
洗濯。
夕。
孫たちの予定。
今困っていることばかりがへ浮かんだ。
美が横から声をげた。
「じゃあ、どうしたら戻ってきてもらえるんですか?」
はる子は答えた。
「戻るつもりはないわ」
「おなら払います」
「え?」
「10万円ならどうですか」
健が美を見た。
はる子の声は変わらなかった。
「10万円もらっても戻らないわ」
「じゃあ……」
「私は今、自分のことをし考えたいの」
健は言葉を失った。
話を切ったあと、い誰も話さなかった。
その翌朝。
健は午5に起きた。
炊飯器はたい。
米も研いでいない。
以なら、このには母がすでに卵を焼いていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
息子に捨てられた母の逆転
「お母さん、今日は少し外へ出ませんか」 息子夫婦に誘われ、70歳のはる子は雪の降る夜、車の後部座席へ乗った。 ところが車は町を離れ、山沿いの介護ホームの前で止まった。 「数日だけ、ここで休んでください」 そう言われた時、トランクから自分のスーツケースが出てきた。 荷物はいつの間にか詰められ、携帯電話は嫁に取り上げられた。 息子は「また来るから」と言い残し、母を301号室へ置いて帰った。 翌日、嫁は面会に来るなり尋ねた。 「通帳はどこですか? 実印は?」 さらに、見覚えのない白い錠剤を「いつもの薬」として渡してきた。 はる子は黙って薬を受け取り、認知症のふりを始めた。 そして翌日の病院で、嫁が電話口で話す声を聞く。 「診断が出たら、家も通帳も動かしやすくなるでしょう」 はる子はその会話を、コートの内側に隠した一本の録音機へ残していた。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|介護|金銭問題1.7万字5 2 -
完結第11話
義母に通帳を渡さなかった妻
「これからは私が家計を管理してあげるわ」 月給25万円の夫にそう言われ、月収100万円を超える私は黙って義母を見た。 結婚前に自分で買ったマンションなのに、給与口座のカードと暗証番号を渡せと言う。 夫は止めるどころか、「母さんは金の管理が得意だから」と賛成した。 さらに義母は、夕食、洗濯、外食の回数まで書いた「林家の新しい生活ルール」を作っていた。 その翌日、共同口座から100万円が消えた。 振込先は、夫の弟だった。 「家族なんだから、100万円くらいで騒ぐなよ」 夫はそう言い、義母も「女は夫を立てるもの」と笑った。 私はその夜から、自分の分だけ洗濯し、夕食も作らなくなった。 3日後、帰宅した夫が「飯は?」と聞いた時、私は寝室のキャリーケースを指さした。 「そんなにお義母さんが正しいなら、これからはお義母さんの家で暮らして」 夫が固まった直後、私はもう一枚の書類をテーブルへ置いた。夫婦|第二の人生|金銭問題|修羅場1.7万字5 1 -
完結第11話
母が残した最後の住所
母を亡くした14歳の俺には、頼れる人が誰もいなかった。 父は幼い頃に亡くなり、母は朝から夜まで働き続けていた。 葬儀の後、親戚にも「うちでは面倒を見られない」と断られた。 一人になった部屋で母の遺品を整理していると、古い桐の箱から一枚のメモが出てきた。 《本当に一人になった時だけ、この場所へ行きなさい》 書かれていた住所は、隣の市の山手にある大きな屋敷だった。 俺は制服のまま、片道2時間近くかけてその場所へ向かった。 石造りの門柱には、母が一度も口にしたことのない名字が刻まれていた。 帰ろうとした、その時。 重い門がゆっくり開き、黒い服の老人が現れた。 老人は俺の顔を見るなり、深く頭を下げた。 「坊っちゃま、お待ちしておりました」 母が隠していたのは、いったい何だったのか。 (続)人生逆転|相続|第二の人生|金銭問題1.7万字5 1