"息子に捨てられた母の逆転" 第4話
「……あ」
取りしたのは黒いボールペンだった。
さ15センチほど。
見た目は普通の文具にしか見えない。
しかし、はる子はそれを見た瞬、息を止めた。
ペン型の録音だった。
買ったのは約1か。
補聴器の池を買いに所の器へった、レジ横に置かれているのを偶然見つけた。
《簡単操作・録音》
数千円だった。
そのころから、健とさやかの様子には違があった。
さやかは急に健康診断を勧めるようになった。
「お母さん、最忘れっぽくないですか?」
「度きちんと調べてもらった方がですよ」
健は通帳の置き所を何度も尋ねてきた。
今えば、あのころすでには準備を始めていたのかもしれない。
何かあったのために。
そうって、はる子は録音を現で買った。
だが自分でもげさだとい、それから度も使っていなかった。
介護ホームへ連れてこられた、いつもの癖でコートの内側へ入れたまま忘れていたのだ。
はる子は操作を確認した。
部を回す。
さなランプが点灯した。
まだ池は残っている。
すぐに源を切った。
昼、廊を歩いているとナースステーションから声が聞こえた。
「の病院ですが、ご族の同はこちらです」
「付き添いは泉さんでお願いします」
はる子はゆっくり歩きながら、その会話を聞いた。
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。
病院。
自分は何もらされていない。
午、活指導員の泉が部へ来た。
50代くらいの穏やかな女性だった。
「はる子さん、の午、病院へく予定になっています」
「何科ですか?」
「神経内科です。認能を確認する検査だと聞いています」
はる子は表を変えなかった。
「誰が申し込んだんです?」
泉はし答えにくそうにした。
「ご族です」
「私は受けると言っていません」
泉は黙った。
「泉さん」
「はい」
「私、おかしく見えますか?」
突然の質問に、泉は驚いたようだった。
「それは……私から申しげることでは」
「今が何か分かります。ここがどこかも分かっています。財布のにいくら入っているかも覚えています」
泉はしばらくはる子を見つめた。
「そうですね」
さく答えた。
「なくとも、私がお話ししている限りでは、とても落ち着いていらっしゃいます」
その言だけで、はる子の胸がし温かくなった。
このは、さやかの言葉だけを信じているわけではない。
「ありがとうございます」
それ以は言わなかった。
夜、はる子は裁縫具を借りた。
翌履く黒いズボンの内側、その縫い目をしだけほどく。そこへ録音が入る細いポケットを作り、本ずつ糸を通した。
若いころから裁縫は得だった。
健がさかったころ、破れた体操着も、袋も、何度縫ったか分からない。
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息子のために使っていた技術を、今は息子から自分を守るために使っている。
その事実が、何とも言えずしかった。
縫い終えた所へ録音を入れる。
から見ても分からない。
「これでいい」
ベッドへ腰をろした。
眠ろうとした。
しかし目を閉じると、1かの景が浮かんだ。
あの夜。
午1ごろ。
喉が渇いて台所へ向かっただった。
リビングから健とさやかの声が聞こえていた。
はる子は廊の角でを止めた。
「母さんに何かあったら、俺たち終わりだぞ」
健の声は怯えていた。
「分かってるわよ」
さやかが答えた。
「だからくを打たないと」
「でも、母さんはまだ普通だろ」
「今はね」
はる子は物音をてないよう、壁へ背をつけた。
「診断さえれば、そこから先は簡単よ」
健が何か言った。
さやかはい声で答えた。
「丈夫。薬をませ続ければいいのよ」
はる子はベッドので目をいた。
あの、は何を「簡単」にしようとしていたのか。
そして、あのい薬をませた先に、何をに入れるつもりだったのか。
の病院で、その答えが形になろうとしていた。
はる子は眠れないまま、あの夜の続きをいしていた。
廊の角にを潜めていた自分のへ、さやかの声がはっきり届いていた。
「環境が変われば、もっと混乱するはずよ」
「もし診断がなかったら?」
健が尋ねた。
「るように準備するの。先には最の様子を説してあるし、施設にも記録を残してもらえばいい」
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