"金メダル会見で、私は母の嘘を暴いた" 第2話
「帰りたい」
私は祖父へ何度も言った。
祖父がみ物を買いにれている、私はのない通へ子をかした。歓声がしざかる所まで来ると、ようやく息ができる気がした。
そのときだった。
「いない、いない……ばあ」
突然、目のから男の顔が現れた。
「……何してるんですか」
まだ20代半くらいだろうか。黒いコートを着た男が、私ので真顔のまま両を広げている。そのろには、よく似た顔をした若い男がち、底恥ずかしそうに額を押さえていた。
「兄ちゃん、学にそれやって笑ってもらえるとったの?」
「昨、でらないおばあちゃんにやられたら俺は笑ったぞ」
「兄ちゃんの笑いの基準は参考にならないから」
私はわず吹きしそうになったが、すぐに顔を背けた。
「別に面くない」
「お、かなりいな」
兄らしい男は私のにしゃがんだ。
「何でそんなにってるんだ?」
「関係ない」
「まあ、そう言うなって。せっかく野球見に来たんだろ?」
「楽しくない」
私は吐き捨てるように言った。
「私はもうれないから。野球選にもなれないし、見ててもつまらない」
男の顔から、ふざけた表がし消えた。
私はなぜか、その見らぬ男に全部話してしまった。
野球選になるのがだったこと。歩けなくなったこと。母がいなくなったこと。父もくなったこと。
広告
最には、自分でも止められず言ってしまった。
「もう私の、何も面いことない」
男はすぐには答えなかった。
やがて、私と同じさまで腰を落としたまま言った。
「じゃあ、違う方法でジャイアンツを優勝させればいい」
「は?」
私は顔をげた。
「野球選になれなくても、超名になってジャイアンツを応援する。そしたらファンが増える。選も頑張る。すごい選が『このチームに入りたい』ってうかもしれない」
「そんなことで?」
「の応援って、と力になるんだぞ」
ろにいた弟らしい男も笑った。
「兄ちゃんの説はめちゃくちゃだけど、そこだけは僕も同するよ」
兄が私へ尋ねた。
「都って言ったよな。運は好きか?」
「好きだった」
「子でもできる競技がある」
「何?」
「えっと……」
兄は急に黙った。
「……何だっけ」
弟がため息をついた。
「子バスケットとか、子陸とか」
「あ、それだ」
「兄ちゃん、今絶対忘れてたでしょ」
「事なのは名称じゃない。だ」
「名称もかなり事だとうけど」
私は今度こそし笑った。
兄は満そうにちがった。
「都。パラリンピックでメダル取って、インタビューで『ジャイアンツ最です』って言ってみろよ」
「無理だよ」
「何で?」
「そんな簡単にメダル取れないから」
男は真っすぐ私を見た。
「取れるかどうかはらない。でも、やってないのに無理だって決めるのはいだろ」
広告
その目だけは、議なくらい真剣だった。
くから誰かがってきた。
「玲音さん! こんなところにいたんですか。探しましたよ!」
兄の男が振り返った。
「もうそんなか」
「オーナーがいなくなったら困ります!」
私は首をかしげた。
オーナー?
男は慌てたようにを振った。
「じゃあな、都。また会おう」
「どうやって?」
「名になれば、嫌でも会える」
弟も笑顔でを振った。
「頑張ってね、都ちゃん」
2がったあと、祖父がみ物を持って戻ってきた。
「誰と話してた?」
「変な兄弟」
「そうか」
「おじいちゃん」
私はしばらく黙ったあと、聞いた。
「子陸って、どこでできるの?」
そのから、私のはゆっくりと別の方向へき始めた。
最初に競技用子を見たとき、私はっていたものとあまりにも違う形に驚いた。普段使っている子よりはるかに軽く、輪がくへ伸び、体を包み込むような構造になっている。祖父に連れられて見学した障がい者スポーツセンターのトラックでは、選たちがい姿勢でそれを操り、目のをのような速さで通り過ぎていった。
私は久しぶりに胸がくなった。
「乗ってみる?」
声をかけてきたのは、瑞穂という女性コーチだった。40代半で、く切った髪とに焼けた顔が印象なだった。私が恐る恐る頷くと、瑞穂さんは体の固定方法から袋の使い方まで丁寧に説してくれた。
最初はまっすぐむことすらできなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
24年育てた息子の結婚式に、私の席はなかった
夫が別の女性との間にもうけた息子を、24年間育ててきた53歳の森田恵子。スーパーで働き、医学部の学費を支えてきた彼女に、結婚式の前夜、息子は告げる。「親族席には実母が座るから、母さんは来ないで」。夫も息子をかばい、恵子の欠席を体調不良のせいにしていた。翌朝、「一般席なら用意できる」と呼び戻そうとする夫を、恵子はきっぱり断る。息子の荷物を返し、今後の援助を見直し始めた矢先、家計の口座から相談もなく50万円が送られていたと知る。振込先は、新婦の父親だった。夫がその金で納得させたという「説明」とは何か。黒留袖を畳んだ母は、家族に消された自分の時間を取り戻すため、記録をそろえ始める。親子関係2.2万字5 726 -
完結第11話
息子に捨てられた母の逆転
「お母さん、今日は少し外へ出ませんか」 息子夫婦に誘われ、70歳のはる子は雪の降る夜、車の後部座席へ乗った。 ところが車は町を離れ、山沿いの介護ホームの前で止まった。 「数日だけ、ここで休んでください」 そう言われた時、トランクから自分のスーツケースが出てきた。 荷物はいつの間にか詰められ、携帯電話は嫁に取り上げられた。 息子は「また来るから」と言い残し、母を301号室へ置いて帰った。 翌日、嫁は面会に来るなり尋ねた。 「通帳はどこですか? 実印は?」 さらに、見覚えのない白い錠剤を「いつもの薬」として渡してきた。 はる子は黙って薬を受け取り、認知症のふりを始めた。 そして翌日の病院で、嫁が電話口で話す声を聞く。 「診断が出たら、家も通帳も動かしやすくなるでしょう」 はる子はその会話を、コートの内側に隠した一本の録音機へ残していた。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|介護|金銭問題1.7万字5 220 -
完結第15話
兄を笑った銀行一家へ、300億円の解約通知
挙式15分前、新郎控室で待っていたのは、白いタキシード姿の兄1人だった。「結婚も、式も、全部ドッキリだったって」。婚約者の父は銀行会長。その家族が送りつけた80秒の動画には、兄を嘲る笑い声が残っていた。23年前から親代わりになり、私を育ててくれた兄が、今度は自分の幸せを選ぼうとしただけなのに。兄の隣に座った私は動画を保存し、財務責任者へ電話をかける。「じゃあ、預金300億、全額解約で」。銀行一家が見下していた妹は、美容企業グループの創業者兼会長だった。だが、私がその銀行に会社の資金を預け続けていた理由を、彼らは知らない。答えは、兄が保管していた古い茶封筒の中にあった。夫婦|親子関係2.1万字5 1069 -
完結第12話
嫁の「逃げて」で暴かれた妻の計画
「お義父さん、今すぐ車を降りてください。絶対に奥さんのところへ戻らないで」 妻との旅行中、ほとんど電話をしてこない嫁から突然そう告げられた。 「食べ物も薬も、絶対に口へ入れないでください」 私は妻が差し出した、水なしで飲める白い錠剤を思い出した。 トイレへ行くふりをして車を降り、観光バスの陰まで必死に走った。 やがて駐車場へ出てきた妻は、笑顔を消し、鋭い目で私を捜し始めた。 嫁の車へ逃げ込むと、一通の誤送信メールを見せられた。 《サービスエリアを過ぎたら薬を飲ませる。お兄ちゃんからそっちに連絡を入れておいて》 その夜、妻が持ってきた私の旅行鞄を開けると、底から見覚えのない書類が出てきた。 山間部にある介護施設のパンフレット。 入所予定者の欄には、私の名前と病歴が記されていた。 《認知機能の低下》《本人に病識なし》《今週末に入所予定》 そして保護者欄には、息子でも妻でもない、私の知らない男の名前が書かれていた。人生逆転|夫婦|真実|裡の顔1.7万字5 0 -
完結第12話
失踪した妻を道の駅で見つけた――「来ないで」と怯えた理由
「パパ、あの人……ママじゃない?」 半年前に消息を絶った妻が、山あいの道の駅で宝くじを売っていた。 車椅子に座り、別人のように痩せていた。 娘が「ママ!」と駆け寄ると、妻は青ざめて叫んだ。 「来ないで! 私はあなたたちを知らない!」 だが左手には、私が贈った結婚指輪。 そして手の甲には、見慣れた2つのほくろがあった。 「本当は、ずっと会いたかった」 妻は泣きながら娘を抱きしめた。 その直後、震える声で私に告げた。 「私が帰ったら、あなたと杏奈まで消される」 さらに宝くじ箱を差し出し、底を指さした。 そこには、妻が消息を絶った夜の“声”が残されていた――。 (続)因果応報|人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係1.9万字5 638 -
完結第10話
空っぽの弁当箱
「5万円の居候でしょ?」 そう笑われながら、58歳の私は毎朝5時に起き、息子一家4人分の弁当を3年間作り続けた。 息子の好物、嫁の職場向けの彩り、孫の部活用のおにぎりまで、全部私が考えていた。 食費や学校用品も、足りない時は自分の財布から払った。 それでも家族から返ってくるのは、「家事くらいちゃんとしてよ」という言葉だけ。 迎えた58歳の誕生日、誰も私の誕生日を覚えていなかった。 「今日で、この家の家事係を降ります」 そう告げても、息子は「またすねてる」と笑った。 その夜、私は誰にも何も言わず、自分の荷物だけをまとめた。 翌朝、台所に並んでいた4つの弁当箱は、すべて空っぽだった。 冷蔵庫には、短いメモが一枚だけ残されていた。 そして家族は初めて、私が毎月5万円以外に何をしていたのかを知ることになる。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|親子関係|金銭問題1.4万字5 375 -
完結第15話
「子供3人は全員連れてけ」と言った夫へ
「子供3人は全員お前が連れてけ」。離婚を切り出した恵美に、夫はそう言い放ち、同居の義母も「やっと静かになる」と笑った。仕事部屋を奪われ、子供たちの進路や楽しみまで制限されてきた家で、長男は静かに告げる。「その言葉、忘れないでね」。子供たちは全員、母と暮らすことを選んだ。ところが転居から1週間後、夫と義母から一晩で80件の着信が届く。洗濯、食事、通院、そして家の支払い。戻れと迫る夫は、恵美の新居の家賃が月28万円だと知り、借金を疑い始める。「内職」と見下していた妻の仕事は、本当は何を支えていたのか。恵美は家計簿と口座の明細を並べ、夫が見ようとしなかった数字を確かめていく。夫婦|親子関係2.2万字5 3905 -
完結第15話
「帰ってこなくていい」と笑った家族――20年目の離婚届
43歳の真由美は、夫・浩司と19歳の娘・里奈のため、20年間休むことなく家事と親戚付き合いを担ってきた。ところがお盆に3日だけ実家へ帰ると伝えると、2人から「ずっと帰ってこなくていい」「ママがいないほうが平和」と笑われる。真由美は反論せず、8つの保存容器を残して家を出た。その手には、4か月前から20冊目の家計簿に挟んでいた離婚届があった。翌日、夫から届いた70件の着信。さらに家計簿から明らかになる672万円と、夫が失った8億円の肩書。家族が当然だと思っていた20年が、静かに数字へ変わり始める。夫婦|親子関係2.0万字5 1790