"金メダル会見で、私は母の嘘を暴いた" 第3話
レーサーと呼ばれる競技用子は、常用とは操作覚がまるで違う。力任せにリムを叩けば体がに揺れ、焦れば焦るほど速度が落ちる。100メートルんだだけで腕が焼けるように痛み、私は悔しくて唇を噛んだ。
「野球より難しい」
「そりゃ別の競技だからね」
瑞穂さんは笑った。
「でも、目はいい」
私は驚いた。
「にも同じこと言われた」
「あら。誰に?」
「変な」
そのから、週3回の練習が始まった。
放課、祖父か祖母に送ってもらいスポーツセンターへ通った。最初の数かはフォームを作るだけで精いっぱいだったが、しずつ自分の体と競技用子がつになっていく覚が分かるようになった。
番変わったのは、脚ではなくだった。
事故以来、私は「できなくなったこと」ばかり数えていた。階段をれない、れない、野球ができない、ではけない所がある。けれど陸を始めてからは、昨より0.2秒速くなった、カーブを滑らかに回れるようになった、腕の筋力が増えたと、「できるようになったこと」を数えるようになった。
父の写真にも、しずつ話しかけられるようになった。
「お父さん、私またスポーツやってるよ」
返事はない。
それでも、写真のの父はいつも笑っていた。
学へむ頃には域会で入賞するようになった。1では全国会へし、2になる頃には同世代の選ので位に名が並ぶようになった。
広告
練習量も増え、瑞穂さんから「本気で世界を狙える」と言われたとき、私は驚くより先に、京ドームで会った男の言葉をいした。
パラリンピックでメダルを取って、ジャイアンツ最ですと言ってみろ。
馬鹿みたいな話だった。
でも、その馬鹿みたいな言葉がずっと私をらせていた。
18歳になった、国内主会の100メートルで私は自己ベストを更した。ゴールした瞬、掲示板の数字を見た瑞穂さんが両をげ、祖父母は観客席でちがっていた。
私はレーサーからりるなり言った。
「これなら代表いける?」
「普通はまず優勝をばない?」
「代表になって、パラリンピックで優勝する」
「頼もしいわね」
「優勝も通過点だから」
瑞穂さんが眉をげた。
「メダルの先に何があるの?」
私は当然のように答えた。
「ジャイアンツの優勝」
「……7く緒にいるけど、あなたの考回だけはまだ完全に理解できないわ」
私は真剣だった。
パラリンピックの優勝インタビューでジャイアンツへのを語れば、本、いや世界へ名が広がる。その結果ファンが増え、選がして奮起し、優勝へつながるかもしれない。
さらに欲を言えば、ジャイアンツの選から「結婚してください」と言われる能性もゼロではない。
「鳥どころか、百鳥」
広告
私が説すると、瑞穂さんはいため息をついた。
「まずメダルを取りなさい」
「もちろん」
その夜も会だというのに、私は京ドームへ向かった。
「体休めなさい!」
ろから瑞穂さんが鳴った。
「ジャイアンツは別腹!」
「スポーツに別腹なんてない!」
結局、瑞穂さんまで緒に観戦することになった。
その試は投戦となり、9回裏まで同点だった。最は主砲が翼席へサヨナラホームランを叩き込み、私は声が枯れるまで叫んだ。
帰りのでスマートフォンを見ると、瑞穂さんからメッセージが届いていた。
《代表候補入り、正式に決まったわよ》
隣に座っていた本へ画面を見せると、瑞穂さんは呆れた顔をした。
「もっとびなさいよ」
「んでる」
「さっきのホームランの100分の1くらいしか顔にてないけど」
「だって代表候補は予定通りだから」
「何なの、その自信」
私は窓に映る自分を見た。
昔の私は、野球を見ることすら苦しかった。
今は、自分の力でその所へ向かっている。
その変化だけは、し誇らしかった。
ところが数、瑞穂さんからいがけないことを聞かされた。
「都。あなたに会いたいっていうが来てる」
「誰? ジャイアンツの選?」
「違う」
瑞穂さんの声がしくなった。
「あなたのお母さん」
私は笑うことができなかった。
母の姿を見た瞬、最初にじたのは懐かしさではなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
24年育てた息子の結婚式に、私の席はなかった
夫が別の女性との間にもうけた息子を、24年間育ててきた53歳の森田恵子。スーパーで働き、医学部の学費を支えてきた彼女に、結婚式の前夜、息子は告げる。「親族席には実母が座るから、母さんは来ないで」。夫も息子をかばい、恵子の欠席を体調不良のせいにしていた。翌朝、「一般席なら用意できる」と呼び戻そうとする夫を、恵子はきっぱり断る。息子の荷物を返し、今後の援助を見直し始めた矢先、家計の口座から相談もなく50万円が送られていたと知る。振込先は、新婦の父親だった。夫がその金で納得させたという「説明」とは何か。黒留袖を畳んだ母は、家族に消された自分の時間を取り戻すため、記録をそろえ始める。親子関係2.2万字5 726 -
完結第11話
息子に捨てられた母の逆転
「お母さん、今日は少し外へ出ませんか」 息子夫婦に誘われ、70歳のはる子は雪の降る夜、車の後部座席へ乗った。 ところが車は町を離れ、山沿いの介護ホームの前で止まった。 「数日だけ、ここで休んでください」 そう言われた時、トランクから自分のスーツケースが出てきた。 荷物はいつの間にか詰められ、携帯電話は嫁に取り上げられた。 息子は「また来るから」と言い残し、母を301号室へ置いて帰った。 翌日、嫁は面会に来るなり尋ねた。 「通帳はどこですか? 実印は?」 さらに、見覚えのない白い錠剤を「いつもの薬」として渡してきた。 はる子は黙って薬を受け取り、認知症のふりを始めた。 そして翌日の病院で、嫁が電話口で話す声を聞く。 「診断が出たら、家も通帳も動かしやすくなるでしょう」 はる子はその会話を、コートの内側に隠した一本の録音機へ残していた。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|介護|金銭問題1.7万字5 220 -
完結第15話
兄を笑った銀行一家へ、300億円の解約通知
挙式15分前、新郎控室で待っていたのは、白いタキシード姿の兄1人だった。「結婚も、式も、全部ドッキリだったって」。婚約者の父は銀行会長。その家族が送りつけた80秒の動画には、兄を嘲る笑い声が残っていた。23年前から親代わりになり、私を育ててくれた兄が、今度は自分の幸せを選ぼうとしただけなのに。兄の隣に座った私は動画を保存し、財務責任者へ電話をかける。「じゃあ、預金300億、全額解約で」。銀行一家が見下していた妹は、美容企業グループの創業者兼会長だった。だが、私がその銀行に会社の資金を預け続けていた理由を、彼らは知らない。答えは、兄が保管していた古い茶封筒の中にあった。夫婦|親子関係2.1万字5 1069 -
完結第12話
嫁の「逃げて」で暴かれた妻の計画
「お義父さん、今すぐ車を降りてください。絶対に奥さんのところへ戻らないで」 妻との旅行中、ほとんど電話をしてこない嫁から突然そう告げられた。 「食べ物も薬も、絶対に口へ入れないでください」 私は妻が差し出した、水なしで飲める白い錠剤を思い出した。 トイレへ行くふりをして車を降り、観光バスの陰まで必死に走った。 やがて駐車場へ出てきた妻は、笑顔を消し、鋭い目で私を捜し始めた。 嫁の車へ逃げ込むと、一通の誤送信メールを見せられた。 《サービスエリアを過ぎたら薬を飲ませる。お兄ちゃんからそっちに連絡を入れておいて》 その夜、妻が持ってきた私の旅行鞄を開けると、底から見覚えのない書類が出てきた。 山間部にある介護施設のパンフレット。 入所予定者の欄には、私の名前と病歴が記されていた。 《認知機能の低下》《本人に病識なし》《今週末に入所予定》 そして保護者欄には、息子でも妻でもない、私の知らない男の名前が書かれていた。人生逆転|夫婦|真実|裡の顔1.7万字5 0 -
完結第12話
失踪した妻を道の駅で見つけた――「来ないで」と怯えた理由
「パパ、あの人……ママじゃない?」 半年前に消息を絶った妻が、山あいの道の駅で宝くじを売っていた。 車椅子に座り、別人のように痩せていた。 娘が「ママ!」と駆け寄ると、妻は青ざめて叫んだ。 「来ないで! 私はあなたたちを知らない!」 だが左手には、私が贈った結婚指輪。 そして手の甲には、見慣れた2つのほくろがあった。 「本当は、ずっと会いたかった」 妻は泣きながら娘を抱きしめた。 その直後、震える声で私に告げた。 「私が帰ったら、あなたと杏奈まで消される」 さらに宝くじ箱を差し出し、底を指さした。 そこには、妻が消息を絶った夜の“声”が残されていた――。 (続)因果応報|人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係1.9万字5 638 -
完結第10話
空っぽの弁当箱
「5万円の居候でしょ?」 そう笑われながら、58歳の私は毎朝5時に起き、息子一家4人分の弁当を3年間作り続けた。 息子の好物、嫁の職場向けの彩り、孫の部活用のおにぎりまで、全部私が考えていた。 食費や学校用品も、足りない時は自分の財布から払った。 それでも家族から返ってくるのは、「家事くらいちゃんとしてよ」という言葉だけ。 迎えた58歳の誕生日、誰も私の誕生日を覚えていなかった。 「今日で、この家の家事係を降ります」 そう告げても、息子は「またすねてる」と笑った。 その夜、私は誰にも何も言わず、自分の荷物だけをまとめた。 翌朝、台所に並んでいた4つの弁当箱は、すべて空っぽだった。 冷蔵庫には、短いメモが一枚だけ残されていた。 そして家族は初めて、私が毎月5万円以外に何をしていたのかを知ることになる。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|親子関係|金銭問題1.4万字5 375 -
完結第15話
「子供3人は全員連れてけ」と言った夫へ
「子供3人は全員お前が連れてけ」。離婚を切り出した恵美に、夫はそう言い放ち、同居の義母も「やっと静かになる」と笑った。仕事部屋を奪われ、子供たちの進路や楽しみまで制限されてきた家で、長男は静かに告げる。「その言葉、忘れないでね」。子供たちは全員、母と暮らすことを選んだ。ところが転居から1週間後、夫と義母から一晩で80件の着信が届く。洗濯、食事、通院、そして家の支払い。戻れと迫る夫は、恵美の新居の家賃が月28万円だと知り、借金を疑い始める。「内職」と見下していた妻の仕事は、本当は何を支えていたのか。恵美は家計簿と口座の明細を並べ、夫が見ようとしなかった数字を確かめていく。夫婦|親子関係2.2万字5 3905 -
完結第15話
「帰ってこなくていい」と笑った家族――20年目の離婚届
43歳の真由美は、夫・浩司と19歳の娘・里奈のため、20年間休むことなく家事と親戚付き合いを担ってきた。ところがお盆に3日だけ実家へ帰ると伝えると、2人から「ずっと帰ってこなくていい」「ママがいないほうが平和」と笑われる。真由美は反論せず、8つの保存容器を残して家を出た。その手には、4か月前から20冊目の家計簿に挟んでいた離婚届があった。翌日、夫から届いた70件の着信。さらに家計簿から明らかになる672万円と、夫が失った8億円の肩書。家族が当然だと思っていた20年が、静かに数字へ変わり始める。夫婦|親子関係2.0万字5 1790