"消えた交換手と鳴らなかった電話" 第1話
「今夜、誰が話をかけてきても、私がいるとは言わないで」
昭49の暮れ、形県のさな町で話交換の仕事をする佐藤澄子は、夕の支度に歳の娘、枝へそう言った。鍋には根と鶏肉が煮えていた。仕事から戻ったばかりの母は制の袖もまくらず、台所の窓からのり方を確かめている。
澄子が働く話交換局は、商から坂をがった役の隣にあった。古い台は交換がで線をつなぐ仕組みで、町の部では自で通じる番号が増えても、の集落との連絡にはまだのが必だった。澄子は相の名を聞き取るのがく、吹で声がいには、話すにもう度ゆっくり名乗ってもらった。待たせたまま切らないことを、仕事の決まりにしていた。
枝は交換局のガラス戸が好きだった。学帰りにち寄ると、母は受話器をつけたまま目だけで挨拶し、休憩になると机の引きしから飴をつした。母が聞いている声は族の声よりずっといのだろう、と枝はし誇らしくった。けれどがまるにつれ、澄子は帰宅しても夕の途でを止め、誰かがいま話の向こうで待っているかのように窓を見るようになった。
の初め、母は買い物帰りに燃料ので片桐と話していた。
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枝には会話が聞こえず、片桐が見せた配送表を母が指でなぞっていたことだけ覚えている。帰りに尋ねると、澄子は「によっては、数字どおりにかくならないの」と言った。子どもには分かりにくい返事で、そのままは根を買うため青果へ入った。
数、父の清は、片桐の話をでしないよう母へ言った。だけ伝う配送の仕事を失えば、子どもの靴も買えなくなるという。澄子は「あなたの仕事の話じゃない」と返したが、清は自分の印が付いた領収を疑われれば族の話になると言い返した。の言い争いを聞きながら、枝は弟の良太をへ連れし、だるまの顔にを並べた。
母が最にをる晩、枝はその言い争いをいしていた。父にらせず局へ呼ばれたのは、がまだ仲直りしていないからだとったのだ。になって、あの夜の母が持っていた封筒のは族の問題だけでは済まなかったとる。それでも歳の枝にとっては、父と母がまた同じ卓に座るかどうかが、世界でいちばんきな謎だった。
その町では、庭に話のないがまだなくなかった。表通りの商や役には番号の付いた話があり、側の集落から話をかけるは商の軒先にある赤い公衆話まで歩いてくる。
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交換局で働く澄子は、呼びしを相へつなぎ、忙しいは呼び損ねた先へ折り返しの伝言も届けた。
父の清は国鉄の保線作業で夜勤だった。弟の良太は歳で、炬燵に入り、学でもらったみかんを並べている。枝は、母が冗談を言ったのかとった。「誰が来るの」と聞くと、澄子は鍋のをめ、「違い話よ」とだけ答えた。
夜半、澄子は交換局から呼びされた。部でによる線障害があり、役と駅を結ぶ連絡が混んでいるという。の靴をはき、台所の戸棚から茶い封筒を取った母は、子どもたちの寝着を確認してからかけた。枝は玄関先まで見送ったが、母はいつものように振り返らなかった。
翌朝になっても、澄子は帰らなかった。交換局では夜に「しへます」と言い残して席をれ、そのまま姿が見えなくなったという。机には財布があり、茶い封筒もなくなっていた。清が警察に届けると、同僚は、澄子が数週から町の男へ話をかけていたと話した。
、町のれにあるバス待所から母の靴とマフラーが見つかった。は何度もったはずなのに、紺のマフラーには染みがなかった。枝がそう言うと、清は「もう族を困らせるな」とった。警察も、その品が置かれた刻を特定できず、澄子が自らていった能性を捨てなかった。
翌の、清はの話加入権を放した。
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