みかん小説
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"風呂を禁じた義母と、家を出た嫁の反撃" 第1話

計の針が午分を指した、玄関のいシリンダー錠がカチャリと鈍い音をてて回った。

寺由(てらむら・ゆりか)、歳。女性向け刊誌の編集部でデスクを務める彼女は、ずっしりと肩にい込むノートパソコン入りのビジネスバッグを駄箱のに置き、細くい息を吐きした。 ふくらはぎはパンパンに張り、ハイヒールを脱いだの裏にはがこもっている。今は直の緊急差し替えがなり、印刷所とデザイン事務所の板挟みになりながら、分刻みのスケジュールを文字通り駆け抜けてきた。

「ただいま……」

返事はない。リビングのかりは落とされ、テレビの音も聞こえない。 歳の甥・琢磨は、自分の部でとうに寝息をてているのだろう。そして夫の正斗(まさと)は――この、度たりとも自の引き戸をけて迎えてくれたことなどなかった。

(とにかく、いシャワーを浴びて、固まった首筋をほぐしたい……)

そう願いながら、由は暗い廊を忍びでみ、脱所のすりガラスの引き戸にをかけた。 だが、戸を引くよりも瞬く、内側からガラリと音をてて勢いよく扉がいた。

「うわっ……!」

暗のにぬっとっていたのは、柄の派なネグリジェのに臙脂のカーディガンを羽織った義母・松恵(まつえ・歳)だった。

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腕を組み、仁王ちの姿勢。廊のわずかな非常灯に照らしされたその顔には、獲物を待ち構えていた蜘蛛のようなねっとりとした険な笑みが張り付いていた。

「お帰り、由さん。随分と遅いご帰還じゃないの」

「お母さん……まだ起きてらしたんですか。すみません、急ぎの入稿があって。すぐに着替えてお呂に入りますので」

由が脱所へを踏み入れようとした瞬、松恵はその太い腕を突きし、由の胸元を突き放すように遮った。

「お呂? 何言ってるのかしら。お湯ならね、さっき私が綺麗さっぱり抜いておいたわよ」

「……え?」

「聞こえなかった? もう栓を抜いたの。ガス代も代も、湯のようにタダで湧いてくるわけじゃないんだからね。族みんなが入り終わったに、夜遅くノコノコ帰ってきたあなたのために、もう回お湯を張り直すなんて言語断。そんな無駄遣い、私が許すわけないでしょう」

由の考が、疲労の限界ので瞬濁した。 湯に浸かるつもりなど最初からなかった。せめてシャワーで汗を流したいだけだ。そう説しようとをきかけたが、松恵はそれを許さず、浴槽の蓋のにポンと置いたプラスチックの洗面器を指差した。

「顔を洗うくらいなら、台所の流しで済ませなさい。あそこならたいがるわ。

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それとも何? 夜遅くまでほっつき歩いて、事も放りしてきた嫁が、温かいお呂でいいいをしようなんて贅沢、本気で通るとってたの?」

たいタイルの匂い。湿り気を帯びた脱所の空気が、氷のようにえ切っていく。 由の全から、疲労とは質の違う、どす黒いりのが静かにちり始めていた。

洗面台の鏡に映る自分の顔を、由は徹に見つめた。 目のには濃い隈が落ち、結いげた黒髪の毛先はパサついている。だが、その瞳の奥にある志のだけは、決して濁っていなかった。

寺由というは、昔から「逃げる」ことが何よりも嫌いだった。 学・と打ち込んだバレーボール部では、どれほど厳しいスパイクレシーブの猛練習でも、膝の皮が剥けようとボールから目を逸らさなかった。社会になり、版社の過酷な管理にを置くようになってからも、自分の担当ページに文字の誤植も許さず、理尽なトラブルが発すれば徹夜をねてでも完璧にリカバリーしてきた。

そんな由が、歳を目にして結婚を決めた相が、学・の同級だった夫の正斗だった。

正斗は、由とは正反対の男だった。 数の輪のでは決して自分から声を発せず、常に端っこで困ったような笑顔を浮かべている。

声がさく、押ししもい。だが、誰かが散らかした部のボールを最までで黙々と拾い集めているのはいつも正斗だったし、友の理尽なワガママに振り回されても「あいつ、今変だからさ」

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