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"31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密" 第6話

届かない便箋

剥きしになった製スノコ板のに、の傾いた陽射しが斜めに差し込んでいた。埃のたない清潔な板に並べられた無数の遺品。その央、母の細く節くれだった指先が止まっていたのは、群青のインクで縁取られた通のエアメール封筒だった。

私は膝を詰め、その封筒の裏面に目を凝らした。

経劣化でかすれた消印の付は、1995714。私が10歳になったのだ。そして、差の欄に万で几帳面に記されていたのは、見らぬの名などではなかった。

『エレノア・ミラー』

受取の欄には、震えるような母自の跡で、こうかれていた。

『国のグレースへ ——あなたの弟、デイヴィッドのを握りながら』

「母さん……これ、全部……」

私が息を呑むと、母は静かに封筒の封をき、何回、何百回と読み返されたであろうつ折りの便箋を取りした。折り目は擦り切れ、ところどころが涙の跡で波打っている。

「話さないと決めたのよ。あの子の名を度とにしないと、お父さんと誓いったわ」

母の声は、古い記憶の底をすくいげるように掠れていた。

「でもね、デイヴィッド。にしなくなればしみが消えるなんて、そんなの嘘だった。名を呼べば呼ぶほど、胸が張り裂けそうになる。けれど、名を呼ばない々は、まるで自分自のでが子を度殺しているような……そんな恐ろしい罪悪で私を苛み続けたの」

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グレースがくなってから、母は毎夜、悪に魘されたという。

ので、さなグレースが暗の向こうからを伸ばして泣いている。「ママ、どうして私の名を呼んでくれないの?」「私、どこへっちゃったの?」。目を覚ますと、隣では疲れ果てた父が無言で背を丸めて眠っている。父を起こすことも、誰かにすがることもできない。のでは、グレースの遺品はすべて段ボール箱に詰められ、目に触れない納戸の奥くへ封印されていた。

「そんな、このの寝で……で横たわっていただったわ」

母はマットレスの縁を撫でるように指を滑らせた。

「あなたがまれて、私たちはこのでを過ごすようになった。あなたがリビングで無邪気に笑い声をげるたび、私はの底から幸せをじると同に、胸の奥がたく凍りつくのをじたの。『私はあの子を忘れて、この子と笑っていていいのだろうか』って」

耐えきれなくなった母は、ある夜、便箋とペンを握りしめ、この寝に籠もった。

誰にも言えない言葉。声にして呼ぶことの許されない名。それを、震えるでいのにき殴った。

『グレース、ごめんなさい。今、弟のデイヴィッドが初めて自転に乗れたのよ。あなたが好きだった青い空ので、あの子は笑っていたわ。

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あなたにも見せてあげたかった。あなたがそこにいてくれたら、きっと自のお姉ちゃんになってくれたはずなのに。ごめんなさい、私だけがきていて。あなたを置いて、毎笑っていてごめんなさい』

き終えたを、母はどこへ隠すべきか途方に暮れた。引きしのでは父に見つかる。本のでは、いつかきくなった私がにしてしまうかもしれない。

その、母の線が留まったのが、自分たちが毎晩を預けている、く分いクイーンサイズのマットレスだった。

「ここなら……誰にも触られない。私がベッドシーツを替える、きりのにだけ、そっと持ちげられる」

母はをマットレスとスノコ板のに滑り込ませた。

それから、31。

が来るたび、の週末が訪れるたびに、母のは増え続けた。私が学に入学した、反抗期で父と激しく衝突した夜、学に格してをた、そして私が結婚した。のあらゆる節目で、母は密かにこの部に鍵をかけ、マットレスを持ちげ、娘に語りかけていたのだ。

「でも、母さん」私はベッドのの品々を見つめた。「だけじゃない。この靴も、おもちゃも、絵も……」

「納戸の奥に押し込められた段ボール箱を、捨てられなかったのよ」

母はさく首を横に振った。

「お父さんは、私に気を遣って『処分した』と言っていたわ。

でも、本当は処分なんてできていなかった。お父さんが密かにこのの根裏へ運び込んでいたのを、私はっていたの。だから……枚ずつ、ずつ、ここへ移したのよ。私の体のすぐに。私が眠る所の真に置いておけば、あの子はずっと、私に抱きしめられているとえるんじゃないかって……」

狂気にも似た、あまりにも純粋で、あまりにも孤独な母のだった。

その、寝の入りにち尽くしていた父アーサーが、絞りすような声で言った。

「……すまなかった、エレノア」

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