"置き去り後27分" 第3話
仏壇のの「万円」
違が確な歪みとなって姿を現したのは、夫が万円の仕送りを始めてから半ほどが過ぎた、ある休の午だった。
実の仏壇に線をあげ、で卓を囲んで緑茶をんでいたのことだ。 義母の富子は、湯呑みについた茶渋を指先でなぞりながら、わざとらしいきなため息を吐きした。
「これから私もどんどん歳を取るしねえ……いつ倒れて、どれくらいのおが必になるか分からないわよね」 「母さん、どうしたんだよ急に」夫がを乗りす。 「このも築を過ぎて、あちこちガタがきてるでしょう。根の塗り替えも、お呂の湯器も、いつ壊れるか分からないわ。修繕費だって、まとまった額を用しておかないといけないし……」
私は相槌を打ちながら、静かに聞いていた。 齢の暮らし。の修繕や万がの医療費に対するを抱くのは、至極当然の理だ。 だが、富子の線は、息子の健事ではなく、斜め向かいに座る私の元へと、じっと据えられた。
「健事だけがね、毎万円も仕送りしてくれるのも、母親としてはなんだか申し訳なくてねえ」 「母さん、そんなこと気にするなよ」 「いいえ、そうはいかないわ。……これからののために、族全員で実のために積みてをしておくべきだとうのよ」
広告
富子はを乗りし、私の目をまっすぐに見つめた。 その瞳の奥にあったのは、困窮する老の願ではなく、当然の権利を求するかのような図々しいだった。
「だからね、美さん。健事の万円に加えて、美さんからも毎万円をしてもらえないかしら?」
「……はい?」 私はわず、元の湯呑みを置いた。 自分のを疑った。
毎、万円。 夫の万円とわせれば、万円。に換算すれば、百万円という巨額の資が、夫の実というブラックボックスへと吸い込まれることになる。
私のので、経理の計算が目にも留まらぬ速さで回転した。 私の取りは万円。 そこから夫婦の共同活費として万円を引き、さらに義母へ万円を納すれば、私の元に残るのは、わずか万円だ。 携帯代や々の昼代、通勤にかかる雑費を引けば、私の個の貯蓄は完全にゼロになる。
「お義母さん」私は声を荒らげることなく、極めて事務なトーンで問いかけた。「で百万円になりますよね。その積みてというのは、具体に何に、いくら使う計画なのでしょうか?」
「は……? 具体にって、何よ」富子の眉がピクリとねがる。
「根の修繕をお考えなら、業者から相見積もりを取るのが先決です。壁と根の塗装なら相は百万円から百万円程度ですから、度の事で済みます。
広告
医療費の備えであれば、お義父様の遺族と額療養費制度がありますから、毎そこまでの現をプールする必性が見当たりません。計画の詳細を教えていただけますか?」
経理担当者として、至極真っ当で理な確認だった。 使途が確で、緊急性と妥当性があるのなら、話しいの余はある。 だが、私のその理然とした質問は、富子の逆鱗に触れたようだった。
「なんなの、その言いは!」 富子は湯呑みをガタリと鳴らしてテーブルに叩きつけた。 「親の老のに対して、何にいくら使うのか見積もりをせですって!? 族のおの話をしてるのに、いちいち会社の経理会議みたいに問い詰めるんじゃないわよ! たい嫁ねえ!」
「たいとおっしゃられましても、おをかす以、使途のが必なのは当然です」
「美、おいい加減にしろよ!」 割って入ったのは、夫の健事だった。顔を真っ赤にして私を睨みつけている。 「母さんががってるんだから、もっとらかに受け止められないのか! 族を疑うような真似ばかりしやがって!」
そのの帰りの内は、最悪の空気だった。 『族なんだから細けえこと言うな』『母さんは昔からおの管理がしっかりしてるんだから任せればいいんだ』と鳴り散らす夫の横顔を、私はややかに見つめていた。
族という言葉を免罪符にすれば、計算も使途の説も放棄していいのか。 このの私は、まだ事態を楽観していた。 をかけて話しえば、夫も数字の理屈を理解してくれるはずだ――そう信じていたのだ。 だが、その週、富子が持ち込んできた提案は、私の像を絶する暴力性を孕んでいた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
産後5日、家を売られた私の人生やり直し
出産から5日後、生まれたばかりの娘を抱いて帰宅した美緒を待っていたのは、家具も家電も消えた空の部屋だった。夫はマンションを売り、妻の預金860万円を持ち出し、愛人との新生活へ逃げていた。さらに、美緒の署名を偽造した離婚届まで提出されていた。 結婚指輪を売って実家へ帰る切符を買った美緒は、駅で妻の最期に間に合わないと嘆く老人へ、その切符を譲ってしまう。 数日後、老人は企業グループの創業者として美緒の前に現れた。しかも夫が盗んだ金で設立した会社は、老人の会社へ1億2000万円の出資を求めていた。 すべてを奪って勝ったつもりの夫は、まだ知らない。自分の会社の命運が、捨てた妻の手元に集まり始めた証拠によって左右されることを夫婦|裡の顔|金銭問題1.7万字5 102 -
完結第16話
夫の不倫相手の娘を9年育てた私の離婚
「離婚します。息子2人は連れていきます」 そう告げた雪に、夫と義母は11歳の理子まで連れて出ろと言い放った。だが理子は、雪の親戚の子ではない。夫が不倫相手との間にもうけ、9年前に雪へ押しつけた実の娘だった。 血のつながらない理子を母として育ててきた雪。ところが夫は、再び理子の実母と関係を持ち、3人の子どもをすべて雪に背負わせて「自由」になる計画を進めていた。 しかし二人は知らなかった。雪と理子の間に法的な親子関係がないことが、彼らを逃げ場のない立場へ追い込む最大の切り札になることを。嫁姑|夫婦|真相|ATM扱い|親子関係2.4万字5 345 -
完結第15話
午前2時17分、亡き妻が病室を訪れる
午前2時17分。夜勤看護師の由衣は、面会時間を過ぎた病棟で黒いコートの女性を目撃する。 女性が立ち止まったのは、家族との連絡を拒み続ける71歳の患者・久世修一の病室前。だが受付記録にも防犯カメラにも姿はなく、乗り込んだエレベーターからも忽然と消えていた。 修一は女性の特徴を聞くと顔色を変え、10年間疎遠だった娘へ連絡してほしいと頼む。やがて判明したのは、黒いコートが10年前に亡くなった妻・美佐子のものと同じだったこと。そして彼女が息を引き取った時刻も、午前2時17分だった。 妻の最期に間に合わなかった父と、その父を許せなかった娘。再び同じ時刻にエレベーターが開く夜、10年間止まっていた家族の時間が静かに動き始める。ミステリー|夫婦|真実|真相1.4万字5 40 -
完結第20話
妻のスマホに残っていた半年先の「2名様」
妻の美和を亡くして半年。直人は解約できずにいた妻のスマートフォンから、6日後に迫ったレストランの予約を見つける。 予約したのは、亡くなる12日前。日時は何の記念日でもない土曜日の夜で、人数は「2名」。相手を知らされていなかった直人は迷った末、店へ電話をかける。 そこで告げられたのは、美和が封筒を預けていること、そして彼女が来られない場合も、直人だけで料理を食べてほしいという願いだった。 最初の一皿を食べ終えた時、ようやく渡された妻の手紙。そこに記されていたのは別れの言葉ではなく、残される夫が一人でも暮らしていけるように用意された、最初の「練習」だった。夫婦|真相1.9万字5 163 -
完結第10話
60万円の命の値段
危篤の父を救うため、夫に60万円を貸してほしいと土下座した美央。だが夫は、父を「無価値な老人」と嘲り、金を拒んだうえ、離婚と義母の無給介護まで言い渡した。 美央は静かに家を出て、3年間封印していた一本の電話をかける。 彼女の正体は、日本最大級の企業連合「天馬グループ」の後継者。そして夫が誇る勤務先は、その巨大組織の末端企業にすぎなかった。 調査を進めると、夫の横領だけでなく、総額3億2000万円に及ぶ不正取引への関与まで判明する。何も知らない夫は、父の葬儀へ美央を連れ戻しに来ると宣言した。 しかしその会場で彼を待つのは、捨てた妻ではなく、数万人の頂点に立った新たな統帥だった。裡切られた|怒り|夫婦|介護|修羅場1.5万字5 59 -
完結第13話
娘夫婦に貸した愛車を「名義変更して」と言われた日
67歳の修司が、娘夫婦へ半年だけ貸した愛車。返却を求めると、婿は当然のように言った。 「もう僕の名義に変えてもらえませんか」 だが車はすでに420万円で査定され、600万円を超える新車の下取りに使われようとしていた。さらに、娘夫婦へ貸した住宅資金1000万円も、返済されたはずの30万円が一度も届いていない。 調べるほど現れる、消えた500万円の投資、偽造された「300万円返済済」の記録、そして亡き妻名義の借用書。 家族への援助は、いつから「もらって当然の財産」に変わったのか。修司は車の鍵だけでなく、自分の人生を決める権利まで取り戻そうとする。親不孝|絶縁|親子関係|金銭問題1.9万字5 139 -
完結第15話
「父の31億を狙った泥棒女」と罵られた私。孤独な老人に贈った2180円のラーメンが、巨大金庫の上に供えられていた
夫を亡くし、川越でひとり暮らす翻訳者・高橋さくら。彼女はスーパーで398円のラーメンを棚へ戻した隣人の源蔵を見かけ、傷つけないよう理由をつけて2180円の箱を贈った。数日後、源蔵は自宅で静かに息を引き取る。遺言執行者の黒田と書斎へ入ったさくらが見つけたのは、巨大金庫と、その上の神棚に供えられた未開封のラーメンだった。そこへ源蔵の息子夫婦が現れ、父の死を悼むことなく金庫を探し、さくらを遺産目当ての泥棒と罵る。だが源蔵には、31億円の遺産だけでなく、息子が最も恐れる4億8120万円の記録があった。相続|金銭問題2.4万字5 177 -
完結第11話
夫に4千円を頼んだら、4千万円振り込まれた
母の検査代に必要な四千円すら用意できず、加奈は夫の勇人へ震える声で助けを求めた。ところが直後、口座へ振り込まれたのは四千円ではなく、四千万円。町工場で働き、擦り切れた靴を履き続ける夫が、なぜこれほどの大金を持っているのか。 帰宅した勇人が差し出したのは、十六年前に受け取った未公開株と、巨額買収を証明する書類だった。しかし、手続きは三か月も前から進んでいた。母の病気に苦しむ加奈へ、なぜ彼は何も話さなかったのか。 不信を募らせる加奈の前で、病床の母が静かに告げる。 「この子の秘密は、あんたと結婚する前から知っていたよ」 四千万円より重い、母と夫だけが抱えてきた十六年前の約束とは――。夫婦|親子関係|介護|金銭問題1.6万字5 272