"母の初盆を禁じた義父が、土地の名義を知った日" 第16話
「お帰り」と言える
翌の。
母の度目のお盆がづいた。
私はしいマンションのベランダで、洗濯物を干していた。
の今頃は、義父に「籍を抜け」と言われた。
たった。
それなのに、もうい昔の来事のようにじる。
今も母の実へく。
今度は誰にも許を取らなくていい。
何泊まるか。
何に帰るか。
誰と会うか。
全部、自分で決められる。
午、インターホンが鳴った。
織だった。
「お母さん、ただいま!」
「お帰り」
その言葉をにした瞬、私はしだけ胸がくなった。
以のでは、「お帰り」と言うのはいつも私だった。
義父へ。
義母へ。
浩司へ。
誰かの帰りを待ち、事を温め、呂を準備する。
でも私自に「お帰り」と言ってくれるはいなかった。
今は違う。
織が来れば私は「お帰り」と言う。
私が織のへけば、娘が「お母さん、お帰り」と笑ってくれる。
とは、名義でもきさでもない。
戻ったにして息を吐ける所なのだとう。
「お母さん、これ何?」
織がソファに置いてあった布を見つけた。
「作ってる途」
「?」
「ワンピース」
「えっ、自分で?」
私はし得になって広げた。
まだ袖も付いていない。
縫い目も母のようにはきれいではない。
それでも、自分で作っている。
「おばあちゃんみたい」
織が言った。
「まだ全然」
「でも、なんか似てるよ」
その言葉が嬉しかった。
広告
夕方、で買い物へた。
母の初盆のにも作った胡瓜と茄子を買う。
「今も精霊馬作る?」
「作るよ」
「私、伝う」
帰宅してで台所につ。
胡瓜へ割り箸を刺しながら、織が笑った。
「これ、脚のさ変じゃない?」
「丈夫。おばあちゃん、そういうの気にしないから」
「のお母さんだったら、ちゃんとしなきゃってってたかも」
「そう?」
「うん。のお母さん、何でもちゃんとしなきゃって顔してた」
私はし考えた。
確かにそうだった。
失敗してはいけない。
文句を言われてはいけない。
嫌われてはいけない。
族を壊してはいけない。
いつも何かに怯えていた。
今は、しくらい曲がった精霊馬でも笑える。
夜、織が帰った、私はベランダへた。
の空にが浮かんでいた。
、義父は私に言った。
『今すぐこのの籍を抜けてていけ』
あのの私は、その言葉を最の侮辱だとった。
けれど今ならし違って見える。
あの言がなければ、私は今もあのにいたかもしれない。
母の初盆へくことすら許されず、毎朝分の朝を作り、誰かの嫌に怯えながら暮らしていたかもしれない。
私は言われた通り、あのをた。
そして結果として、自分のへ戻ってきた。
机の引きしから、古い真鍮の鍵をした。
母から渡されたものだ。
今ではもう、ける庫もない。
それでも捨てられない。
のひらに乗せる。
たい属が、しずつ体温で温まっていく。
「お母さん」
私は夜空へ向かって言った。
「最まで守ってくれて、ありがとう」
返事の代わりに、柔らかい夜が吹いた。
部へ戻る。
向きの窓。
黄いカーテン。
自分で選んだ器。
縫いかけのワンピース。
ここには、誰かの許を取らなければならないものは何つない。
私は母の写真のへさなお茶を置いた。
「来週、初盆じゃないけど帰るからね」
写真のの母は、変わらず笑っている。
そして私は、自分にも言った。
「お帰り」
かかった。
けれど私はようやく、自分のへ帰ってくることができた。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
「妻に休んでほしい」退職夫が勝手に決めた私の人生
夫・修司の退職祝いで、家族から温かな拍手が起こった。「これからは妻にもゆっくりしてもらいたい」。しかし、58歳の洋子だけは笑えなかった。 夫は相談もなく洋子の退職を決めつけ、楽しみにしていた水曜日の手芸講座まで変更させようとしていた。さらに、息子夫婦には孫の保育園への迎えまで勝手に約束していたことが発覚する。 三十年以上、家族を優先してきた洋子は、初めて自分の意思を伝える決心をする。夫の定年をきっかけに始まる、妻の小さくも大きな人生の転機。夫婦|第二の人生|退職金|熟年離婚2.8万字5 14 -
完結第20話
息子が遺した証拠
長野県松本市に暮らす70歳の元宮大工・柏木源一郎は、一人息子の健太を交通事故で亡くした。しかし、慎重だった息子が居眠り運転をしたという警察の説明に、どうしても納得できない。 そんな中、同居を始めた嫁の美咲が、毎週木曜の夜に化粧をして外出し、若い男の車に乗っているという噂を耳にする。さらに息子の勤務先から、500万円の見舞金と引き換えに不可解な合意書への署名を求められる。 嫁を信じたい源一郎は、ある夜、密かに後を追う。そこで目にしたのは、息子の死につながる恐ろしい事実だった――。夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場2.3万字5 44 -
完結第10話
四年分の介護記録
四年間のシンガポール赴任を終え、出世を手に帰国した52歳の高橋健一。胸には、妻・由美に突きつけるための離婚届があった。 しかし帰宅した彼を待っていたのは、真っ白な髪と痩せ細った体に変わり果てた妻、そして半年前に亡くなった母の仏壇だった。 重度の認知症を患った義母を、たった一人で介護し続けた由美。夫が毎月送った30万円では到底足りず、彼女はすべてを犠牲にしていた。 そして由美が差し出した四年分の介護記録と、亡き母が残した最後の遺言が、健一の人生を大きく揺るがしていく。嫁姑|夫婦|親子関係|介護1.7万字5 51 -
完結第20話
葬儀3日後、姑に追放された私に亡き夫からの連絡
物流センターの事故で夫・直人を突然失った41歳の美和。しかし義母の数枝は、妻である美和に夫の顔を見ることすら許さず、葬儀を強引に取り仕切る。さらに葬儀の三日後、香典三百万円以上を独占し、13歳の娘・咲と美和を雨の夜に家から追い出してしまう。 絶望の中、親友に助けを求めた美和のスマートフォンに、午前四時、信じられないメッセージが届く。 「生きてる。母には言うな」 送信者は、火葬されたはずの夫だった。 閉ざされた棺の中にいたのは誰なのか。義母が隠そうとしたものとは――。夫の事故をめぐる疑惑と家族の裏切りを描く、衝撃の逆転サスペンス。因果応報|嫁姑|夫婦|親子関係|金銭問題2.3万字5 36 -
完結第14話
「一緒に浪人」は嘘だった――俺に届いた特待生通知
高校三年生の高瀬優馬は、恋人・彩佳の受験勉強を支えるため、自分の研究や試験対策を後回しにしてきた。「どちらかが落ちても一緒に浪人しよう」――その約束を信じていた優馬だったが、合格発表の日、受かった彩佳は彼をあっさり突き放す。しかし優馬には、彼女に隠していた特別奨学生の選考通知があった。自分の未来を取り戻す決意をした優馬は、名門工科大学で研究の才能を開花させていく。やがて大学のコンテストで再会した二人を待っていたのは、残酷なほど鮮やかな立場の逆転だった。因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 211 -
完結第10話
「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた
結婚五年目の立花はる子と夫の琢磨は、念願の新居を手に入れた。しかし、何の相談もなく押しかけてきた義父母が居座り、生活費も払わず、家事をすべてはる子に押しつけるようになる。 ある日、買い物から帰った二人は、義父母が自分たちを嘲笑し、子どものことまで侮辱しているのを聞いてしまう。 長年、親の暴言に耐えてきた琢磨が、初めて口にした「もう限界だ」という言葉。 正面から逆らえない夫を守るため、はる子は義父母に三泊四日の温泉旅行を贈り、その留守中に密かな計画を実行する。何も知らず帰宅する義父母を待つ、予想外の光景とは――。人生逆転|嫁姑|親子関係1.7万字5 457 -
完結第20話
生け垣を伐った4日後、隣人が青ざめた理由
72歳の佐野ふみ子は、亡き夫が40年かけて育てた生け垣に囲まれた家で、一人静かに暮らしていた。ところが隣人の美津江は、落ち葉や枝の張り出しに執拗に文句をつけ、ついには「違法な生け垣だ」と市役所へ通報する。 夫の思い出を守りたい気持ちを抑え、ふみ子は生け垣をすべて伐採することを決意。すると、長年隠れていた地中から古い境界杭が発見される。 そして伐採から4日後、あれほど生け垣を嫌っていた隣人が、真っ青な顔で玄関に現れた。 「お願い! 生け垣を元に戻して!」 突然の懇願の裏に、何があったのか――。因果応報|人生逆転|怒り|裡の顔|修羅場2.0万字5 537