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"父の死後、姉に追い出された私が嫁いだ農家の秘密" 第2話

遺産分割協議の暴力

「ここに実印を押して、印鑑証を通添えて渡しなさい。来のには荷物を全部まとめてていくこと。になったら解体業者が入るから、残ったものは全部ゴミとして産廃トラックに放り込んでもらうわ」

マリ子姉さんの声には、血を分けた妹に対するなど微もじられなかった。 そこにあるのは、者を踏み躙り、都よく搾取し尽くしたの酷な廃棄処分そのものだった。 経理という仕事柄、私は契約や法な類の持つ恐ろしさを熟している。ここに実印を押せば、私は父が遺してくれたからも、父の記憶からも、完全に法な根拠を持って締めされることになる。

「どうせあんた、あの臭い米農の男と付きってるんでしょ?」 ゆか姉さんが、嘲笑混じりに元を歪めた。 「通夜の晩、作業着みたいな汚いジャンパー羽織って線あげに来た男よ。名は……宮田輔だっけ? あんな軽トラ台しか持ってないような貧乏農のところへでも、転がり込めばいいじゃない。お似いよ、あんたみたいな領の悪い女にはね」

輔さんのことを侮辱された瞬、私の胸の奥で、カチリと何かが凍りついた。 通夜の夜、輔さんは収穫作業のを止め、片半ののりをを拭う暇も惜しんで駆けつけてくれたのだ。

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誰よりもく畳に額を擦り付け、私の父のために祈ってくれただった。その真を踏みにじる姉たちの浅ましさに、りを通り越して底れぬ吐き気が込みげてきた。

「……この類には、今はお返事できません」 私が絞りすような声で告げると、マリ子姉さんは骨に舌打ちをし、ちがった。

「頑固な女ね! いいこと、美咲。あんたがどれだけ駄々をこねようと、数決での処分は決まるのよ。がけたらまた来るから、そのまでに実印を用しておきなさい。ぐずぐずしてたら、鍵を取り替えて締めすからね!」

玄関の引き戸が乱暴に閉められ、の音がざかっていった。 静まり返った築の本。 柱計のカチコチという無質な針の音だけが、広すぎる居に響いていた。 私は台所にち、器棚の奥から、個の古い飯茶碗を取りした。

で、縁がしだけ歪な、の温もりがそのまま残る素朴な茶碗。 側面には、細い釘の先で彫り込まれたような、本のさな『稲穂』の匠が施されていた。 父が、どれほどの震えが激しくなっても、この茶碗だけは放さず、私が柔らかめに炊いたご飯を美しそうにへ運んでいたのだ。

『美咲、今も旨いご飯だな』 ご飯をべ終えると、父はいつも満そうに目を細めてそう言ってくれた。

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母がくなった、だった私が慣れないつきで台所にち、泣きながら焦がしたご飯を、父は文句つ言わずにこの茶碗でべてくれた。 どこでに入れたのか尋ねた、父は照れくさそうにこう答えていた。 『昔、国沿いの朝でいつも米を買ってたの親父さんがな、く通ってくれた礼だって言って焼いてくれたんだ。どこの誰かも忘れてしまったが、いい茶碗だろ』

そして、くなる夜。酸素マスクの奥でかすれた声の父が遺した最の言葉。 『美咲、あの茶碗をくれたに……いつか礼を言っといてくれ。どこの誰かも分からんがな……』

私はえ切った茶碗を胸に抱き締め、畳のに崩れ落ちた。 涙が止まらなかった。父の介護をすべて押し付け、取りもせず、遺産だけを奪しようとする姉たち。 だが、私にはもう、このいの詰まったで姉たちと沼の骨肉の争いを繰り広げる気力は残っていなかった。 (はよう。だけど……姉たちの言いなりになって、父の魂まで奪わせるわけにはいかない) 私は暗がりので、静かに拳を握り締めた。

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