みかん小説
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"50万円で嫁がされた私、6年後に見た父の姿" 第9話

縁側の漏れと凍りついた

最寄りの駅から実へ続く見慣れた本を、私は歩歩、確かめるように踏みしめて歩いていた。

の歳が流れても、田舎町の景は驚くほど変わっていなかった。角の駄菓子の錆びたトタン根も、用のせせらぎも、代に通学として毎朝駆け抜けたブロック塀の続くも、すべてがあののまま止まっているかのようだった。

変わったのは、私自の取りだけだ。

俯き、怯え、親の顔ばかりを窺っていた歳の女はもういない。背筋を伸ばし、凛とした取りで歩く私の胸元には、確かな矜持が宿っていた。

やがて、見慣れた板塀と、黒ずんだ瓦根の平建てのがが見えてきた。

扉はけ放たれており、庭の片隅には、昔と変わらず青々とした葉を茂らせたきな梅のがっていた。

「……ただいま」

さく呟き、私はをくぐった。玄関へ向かおうと庭先へを踏み入れた、まさにその瞬だった。

私の界にび込んできた異様な景に、私のはアスファルトのに縫い付けられたように、ピタリと静止した。

息が喉の奥で詰まり、産の袋を握りしめた指先から血の気が引いていく。

庭に面した縁側の軒——の柔らかな漏れがり注ぐその特等席に、見覚えのある古い製の学習机が据え置かれていたのだ。

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表面のニスが剥げ、側の引きしの取っがし欠けている、あの机。私が代、夜遅くまでいつくばるようにして勉していた、私のいが染み付いた机だった。

そして、その机のに、の女が背筋を伸ばして座っていた。

今歳になった妹の麻紀だった。

すっかりびた横顔、く切り揃えられた黒髪。麻紀の机のには、ノートや記用具だけでなく、分い物が然と積みげられていた。

『全国主学 入試案内パンフレット』 『英文標準問題精講』 そして、赤に抜きの文字が鮮烈な、私学と国公学の過問題集——「赤本」の。

麻紀は真剣な差しでシャーペンをらせ、英語の文読解に没していた。

堂々と、隠すこともなく、のまばゆい陽ので、学受験の参考を広げて勉している。

私がかつて、見つかれば鳴り散らされると怯え、段ボールの底に聞で何にも包んで隠した、あの本たちと同じ種類の物が、ここでは誰の目を憚ることもない常の景としてしていた。

だが、私を真に戦慄させ、そのに氷のように凍りつかせたのは、勉に励む妹の姿ではなかった。

机のすぐ脇、縁側の段差に置かれた擦り切れた座布団のに、あぐらをかいて腰をろしている物。

父・正だった。

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の歳は、頑固徹だった父の肉体にもらかな老いの刻印を押していた。かった髪はすっかりくくなり、筋骨隆々だった肩の肉は落ち、背はさく丸みを帯びていた。

そして、その父の先には、見慣れない縁の老鏡が乗っていた。

父の元には、麻紀が志望しているという教育学の『学募集項』が広げられていた。職のゴツゴツとした太い指先で、父は細かな募集員や試験科目の記載を、文字文字、丹になぞるように追っていたのだ。

「おい、麻紀」

父のく掠れた声が、静かな庭先に響いた。

私は梅のので、わず息を呑んだ。

——鳴るのか? 女のくせに勉などするなと、そのパンフレットを庭先に叩きつけるのか?

のの景がフラッシュバックし、私は妹を庇おうとを踏みしかけた。

しかし、父のから漏れた言葉は、私のを疑わせるものだった。

「この……『学推薦型選抜』ってのは、どういう仕組みなんだ? 般の入試と何が違うんだ」

声でも、嘲笑でもなかった。

そこにあったのは、未の制度を必に理解しようとする、器用だが真摯な父親の問いかけだった。

麻紀はシャーペンを置き、父の顔を覗き込んで屈託のない笑顔を向けた。

「あのね、お父さん。のの成績が基準を超えていて、先の推薦がもらえれば、に面接と論文だけで受けられるの。

般入試よりもく決まるんだよ」

「そうか……。おの今の成績なら、その推薦とやらはもらえるのか」

「うん! 先週、担任の先が『麻紀なら違いなく推薦をせる』って太鼓判を押してくれたよ」

「……そうか。それなら、しっかり準備しろ」

父は老鏡の位置を指先で直しながら、項のページをゆっくりとめくった。

「受験料だの、入学だののは、俺がなんとか面する。りない参考があるなら、慮せずに言え。町のきな本で全部揃えてやるからな」

「ありがとう、お父さん!」

麻紀の弾けるような笑顔と、静かに頷く父の横顔。

そこには、子供の未来を全力で応援し、背を押す、どこにでもある温かく理な「父と娘の受験景」が広がっていた。

パキッ、と私の元で枝が折れる乾いた音がした。

私の世界が、音をてて崩壊していった。

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