"50万円で嫁がされた私、6年後に見た父の姿" 第14話
妹の選択と断ち切られた連鎖
父の告を聞き終えた、私のので、通帳の角がミシリと音をてて歪んだ。
真実がかされた。父の悔も、苦しみも、この通帳に込められたのみも、すべて理解できた。
だが——私の胸の奥に空いた巨な穴が、それで塞がるわけではなかった。
「……だから何よ」
私のから漏れたのは、たく乾いた言葉だった。
「お父さんがどれだけ悔したって、私が歳のにわった絶望は消えない。段ボールの底に参考を隠したの惨めさも、凍える夜に泣きながら解いた問題集のさも、おなんかで買い戻せるわけがないでしょう!」
父は反論しなかった。ただ、涙を流しながら、私の厳しい言葉を言句、逃げることなく受け止めていた。
「分かってる……。許してもらおうなんて、これっぽっちもっちゃいねえ。こんな通帳枚で、おの苦労が帳消しになるなんてっちゃいねえよ……」
庭先に、再びい沈黙がりた。
その沈黙を破ったのは、ずっと縁側でち尽くしていた妹の麻紀だった。
「……お姉ちゃん」
麻紀がゆっくりと歩み寄り、私ののにある通帳を見つめた。その瞳には、かつての幼さはなく、の受験としての真剣なが宿っていた。
「私ね……で担任の先から『学へ学してみないか』って言われた、最初はお父さんに言うのがすごく怖かったの」
広告
「麻紀……?」
「お姉ちゃんが結婚したの、あの苦しくて息が詰まるような空気、子供ながらにずっと覚えていたから。うちは貧乏で、女の子は学にっちゃいけないなんだって、ずっとい込んでいたの」
麻紀は机のの赤本に線を落とし、言葉を続けた。
「でも、どうしても諦めきれなくて、休みにい切ってお父さんに『私、学にきたい』って言ったの。鳴られるとった。叩かれるとった。……でもね、お父さん、鳴らなかったよ」
麻紀は私の顔を真っ直ぐに見つめた。
「お父さんが番最初に私に聞いたのはね、『麻紀、それは本当にお自のなのか?』ってことだったの。『親に言われたからでも、先に勧められたからでもなく、おが自分ので歩きたいなのか?』って、何度も何度も確認されたよ」
私の胸が、ドクンと嫌な音をててねた。
「私がきたいんだって答えたら、お父さん、泣きそうな顔をして『分かった。けるところまで、全力で挑戦しろ。のことなら配するな』って言ってくれたの。……お姉ちゃん、お父さんはね、お姉ちゃんで失敗したから私でやり直そうとしてるんじゃないよ。お姉ちゃんが自分の力でを切りいて、派に先になった姿を見て……親の都で子供のを奪っちゃいけないって、本気で気づいたから私を応援してくれているの」
広告
麻紀の言葉が、私のの最もい所に突き刺さった。
お自のなのか——。
それは、歳のあの、私が父から番欲しかった言葉だった。
女だから、女だから、が貧しいからと方に決めつけるのではなく、のとして「おはどうきたいのか」と問いかけてほしかった。私のを、私の志を、ただ認めてほしかったのだ。
父は、変わったのだ。
私がをり、佐々で血のにじむような努力をね、自力で学を卒業して教師になったという「揺るぎない事実」が、昭の頑固な官職の凝り固まった価値観を、根底から砕したのだ。
そして、その変化の恩恵を、いま目のにいる妹が全で受けている。
私の犠牲と苦闘は、無駄ではなかった。
もし私が佐々で泣き寝入りし、運命を呪うだけの嫁になっていたら、麻紀もまた同じように、をて見らぬへと嫁がされていたかもしれない。
ふみ子さんがの無を私の代で断ち切ってくれたように、私もまた、無識のうちにこの藤崎の暗い連鎖を、自らので断ち切っていたのだ。
私はく息を吸い込み、のの通帳を見つめた。
りは、消えていなかった。父を聖君子のように許す気にもなれなかった。しかし、そのりを憎悪として燃やし続けることの無さを、私の魂はすでに理解していた。
私は通帳をしっかりと握り直し、縁側につ父の正面へと歩み寄った。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
結婚初夜、義母を助けた私を殴った夫の誤算
結婚初夜、夫の実家で義父が義母の首を絞める現場を目撃した公認会計士の直美。助けようとした彼女を、信じていた夫・翔太は平手打ちし、「見て見ぬふりを覚えろ」と命じた。直美は義母を病院へ運ぶが、夫一家は弁護士と金の力を使い、彼女の口を封じようと動き始める。そんな中、義母が密かに託していた記憶装置が見つかった。嫁姑|絶縁|親子関係|介護2.6万字5 16 -
完結第25話
母との同居後、妻が倒れた――医師が私だけ呼んだ理由
父を亡くした春樹は、一人暮らしの母・節子を心配し、妻の夏美と三人で暮らし始める。家事も母の通院もこなす妻を見て、同居はうまくいっていると思っていた。ところがある朝、夏美が突然倒れ、救急搬送される。医師に一人だけ呼ばれた春樹は、妻の体に起きていた異変を知らされる。変更された婦人科の予約、開かれなかった白い封筒、妻に任せきりだった家の用事。自分は家族を守っているつもりだったのに、何を見落としていたのか。人生逆転|嫁姑|夫婦|親子関係3.1万字5 55 -
完結第16話
75万円を借りに来た私に、銀行が告げた65億円の秘密
十四年間、洋服直しの仕事を続けてきた石田牧は、自分の店を開くため、不足する75万円を借りに銀行を訪れた。ところが支店長から告げられたのは、自分に約65億円の信託財産があるという信じがたい事実だった。亡き母は大手物流会社の創業家の娘だったという。なぜ母は貧しい暮らしを選び、巨額の財産を隠し続けたのか。戸惑う牧の前に、初対面の叔父が現れ、21億円で株式を買い取ると申し出る。突然手にした財産の裏には、家族が長年隠してきた秘密と思惑があった。真実|第二の人生|親子関係|金銭問題2.3万字5 461 -
完結第20話
父の死後、姉に追い出された私が嫁いだ農家の秘密
五年間、父の介護を一人で担ってきた三十三歳の美咲。ところが父の死後、二人の姉は遺産の独占を企て、美咲に実家から出ていくよう迫った。失意の中、美咲は交際相手の米農家・宮田大輔との結婚を決意する。しかし嫁ぎ先には七千二百万円もの借金があり、姉たちからも貧乏農家の嫁だと嘲笑される。それでも夫と田んぼを守ろうと決めた美咲に、大輔は「明日、俺の仕事場を見てほしい」と告げる。翌朝、連れていかれた巨大な倉庫で、美咲は思いもよらない光景を目にする――。夫婦|相続|絶縁|親子関係2.6万字5 90 -
完結第20話
朝八時までのヒーロー弁当
工場の門前で40年間、社員たちに弁当を作り続けてきた正夫としず子。ところが、新しい社員食堂の開設を機に、部長から突然取引を打ち切られてしまう。売れ残る弁当、痛む膝、減り続ける売上。店を閉める覚悟をした二人だったが、ある日、古くからの常連が昼食の注文にやって来る。それをきっかけに、店先には再び社員たちの姿が増え始めた。一方、工場では思いがけない問題が起ころうとしていた。感動|真実|裡の顔|金銭問題2.9万字5 20 -
完結第22話
「祖母が危篤」と10万円を求めた夫の大嘘
双子を出産してわずか3週間。看護師の雪乃は、夫の幸一から「祖母が危篤だから10万円ほしい」と頼まれる。ところが本人に電話すると、83歳の松江は畑仕事の真っ最中。「またあの子は私を死にかけにしたのかい」と呆れた声を上げた。夫の嘘をきっかけに、雪乃は生活費の口座から多額の貯金が消えていることに気づく。祖父母と孫|夫婦|第二の人生2.8万字5 209 -
完結第20話
死んだ母を名乗る女
母を亡くして二年。三十歳の浅沼美咲は、空き家となった実家を片付けている最中、郵便配達員から思いがけない言葉を告げられる。「先月もお母様にお会いしましたよ」。亡くなったはずの母を名乗り、郵便物を受け取っている女がいるというのだ。家の中に残された生活の痕跡、天井裏から聞こえる不審な物音、そして母宛てに繰り返し届く現金書留。兄とともに調べ始めた美咲は、疎遠だった叔母の影と、母の遺産をめぐる不穏な思惑に気づく。死者の名を使ってまで隠そうとした秘密とは。真相|親子関係2.3万字5 349 -
完結第12話
朝霧湯、最後の暖簾
昭和48年の暮れ。信州の小さな銭湯「朝霧湯」は、石油危機による灯油不足で休業の危機に追い込まれていた。主人の島田正一は、わずかに残った燃料と娘の進学費用を前に、店を閉める決断を迫られる。だが、風呂のない長屋に暮らす老人たちにとって、朝霧湯は欠かせない場所だった。妻の澄子や娘の千絵、商売敵だった銭湯の主人までが動き出すなか、正一は最後の一度だけ湯を沸かすことを考え始める。家族の暮らしを守るか、長年通い続けた客を迎えるか。昭和の町に生きた人々の葛藤と温もりを描く物語。時代|歴史|昭和|第二の人生|介護2.5万字5 161 -
完結第10話
手取り23万円の俺、旅館で妻が「お嬢様」と呼ばれた
手取り月23万円のトラック運転手・中村和也は、妻の彩佳と娘の結衣を何よりも大切にしていた。幼い頃、亡き父と交わした温泉旅行の約束を果たすため、毎月五千円を五年間積み立て、ようやく三十万円を貯める。結婚記念日に彩佳が選んだのは、山奥に佇む名門旅館「月影楼」。質素な暮らしの自分たちには場違いに思えたが、玄関に到着した途端、従業員が彩佳に深々と頭を下げた。「お嬢様、お帰りなさいませ」。妻が長年隠してきた過去とは何なのか。家族への愛と、思いがけない運命の再会を描く物語。人生逆転|夫婦|第二の人生|親子関係2.4万字5 1523