"雨の夜の招待状" 第4話
聞く必はありませんでした。
315の朝、正雄はく起きました。
洗面所で丁寧にひげを剃る音が聞こえました。の流れる音、引きしをける音、の瓶を置くさな音。いつもよりをかけて支度をしていることが、台所にいても分かりました。
私はいつも通り、朝を用しました。
噌汁、焼き魚、卵焼き。
正雄はネイビーのスーツを着て、ダイニングに現れました。3週、私が何も聞かずにクリーニングへしておいたスーツです。
「今はいのね」
私はそう言わず、ただご飯をよそいました。
正雄は落ち着かない様子で箸を持ち、噌汁をすすりました。何度か私の方を見ました。おそらく、「今はどこへくの」と尋ねられるのを待っていたのでしょう。
私は聞きませんでした。
器を片づけ、流し台のにちました。蛇から流れるの音が、部の沈黙を埋めていました。
かける、正雄は玄関で言いました。
「用事がある」
私は器を洗うを止めずに答えました。
「はい、気をつけて」
それだけでした。
玄関の扉が閉まり、音がざかりました。
私は茶碗を置き、ゆっくりとエプロンをしました。
そしてスマートフォンを取りし、浜さんにメッセージを送りました。
「始めてください」
送信した、私はの晩に準備しておいたスーツケースを持ち、駅へ向かいました。
広告
幹線のホームには、朝のざわめきがありました。張の会社員、旅客、産袋を持つ族。京都駅到着を告げるアナウンスが、内の空気に混ざって流れていました。
その頃、祇園畑の葵のには、80の招待客が集まり始めていました。
会には静かなクラシック音楽が流れ、客たちの話し声とグラスの触れう音がなっていたそうです。テーブルにはいが飾られ、く灯されたろうそくが揺れていました。赤ワインはすでにグラスに注がれていました。
正雄は会のにっていました。
玲子から届いたメッセージには、こうかれていました。
「お姉ちゃん、あの、この10あなたには見せたことのないくらい嬉しそうな顔をしている」
私はく返信しました。
「そう」
その隣には、藤はるかがっていたそうです。
成りのいドレスを着て、髪をゆるく巻き、周囲に笑顔を向けていたと玲子は言いました。
玲子からさらにメッセージが届きました。
「あの、みんなにあなたが円満婚に同して、自分たちを祝福しているって言っているわ」
私は画面を見つめ、静かに打ちました。
「それで、あなたはもうったでしょう」
玲子からはすぐに返事が来ませんでした。
会では、司会者がマイクを調する音がしたそうです。拍が起こり、ざわめきがしずつ静まっていきました。
広告
そして司会者がマイクを持ちげた瞬、会の扉がきました。
入ってきたのは、私ではありません。
黒いスーツに茶の革カバンを持った浜さんと、私姿の裁判所関係者2名でした。
音が会に響き、囁き声が波のように広がりました。
音楽は止まりました。
玲子からのメッセージが届きました。
「来たわ」
私は幹線の座席で、その文字を見つめていました。
浜さんはまっすぐ会のへみました。
正雄のにち、茶の革カバンから封筒を取りしました。そして、テーブルのに静かに置いたそうです。
玲子からのメッセージはく、しかし正確でした。
「全員、見ている」
浜さんは、80に聞こえるだけの瞭な声で告げました。
「林正雄様。こちらは阪庭裁判所からの呼びし状です」
会は静まり返ったそうです。
浜さんは続けました。
「林義子様が申してた婚請求、婚姻財産分与請求、並びに共財産の正移転に関する審理についてのものです」
その瞬、何かが息を呑んだと玲子は言いました。
浜さんは2通目の封筒を置きました。
「こちらは仮差し押さえ命令です。本、直ちに効力をじます」
正雄はけなかったそうです。
浜さんの声は、しも揺れませんでした。
「対象は、支待ちの退職2200万円、京都錦のマンション803号、そして井友及び菱UFJにあるご本名義の全座です」
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
3年ぶりの帰省、弟嫁がゴミ箱を漁っていた理由
32歳の玲奈は、3年ぶりに実家へ帰り、弟の妻・南が別人のように痩せていることに驚く。夕食の席でも南の前には料理がなく、家族は誰も気に留めない。その深夜、台所で物音を聞いた玲奈は、ゴミ箱を漁る南の姿を目撃する。「食べられるものを探していました」――その言葉をきっかけに、母と弟が南に強いていた異常な暮らしが明らかになっていく。さらに、南が隠し持っていた手帳には、翌朝に迫る恐ろしい約束が記されていた。玲奈は弟嫁を守るため、信じていた家族と向き合う決意をする。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|修羅場2.4万字5 40 -
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 776 -
完結第14話
金髪の女子高生に、娘が「ねえね」と手を伸ばした
「ねえね」——1歳10か月の娘が手を伸ばしたのは、金髪にピアス姿の女子高生だった。妻を亡くし、実家で娘の紬を育てる26歳の挿絵画家・湊。思わず娘を抱き寄せた彼とは対照的に、少女・凛は頬を赤くして「可愛い」とつぶやく。それから買い物帰りに顔を合わせるようになり、凛は父娘の日常に少しずつ溶け込んでいく。ところがある夕方、湊は公園で泣いている彼女を見つける。紬が差し出したのは、亡き母から贈られた大切な白いうさぎ。そして凛のかばんにも、古びたうさぎが入っていた。描きかけの絵本に隠された夢と、母親に言えなかった思い。話を聞こうと隣に座った湊自身もまた、誰にも打ち明けられない寂しさを抱えていた。感動|人生逆転1.7万字5 20 -
完結第20話
娘の披露宴に新郎側が全員欠席――清掃員の夫が動いた
一人娘の紗良が待ち望んだ結婚式。しかし披露宴当日、新郎側の42席はすべて空席だった。ようやくかかってきた婚約者からの電話には、「結婚なんて冗談だ」という声と、清掃員の父を見下す家族の笑い声。泣き崩れる娘を抱きしめる母・千尋の隣で、いつも穏やかな夫・涼一が静かに言った。「あの一族は、もう切る」。翌朝から、新郎一家の電話が鳴りやまなくなる。三十一年間、黙々と床を磨いてきた夫には、家族さえ知らない一面があった。あの一言には、いったいどんな意味が隠されていたのか。因果応報|人生逆転|夫婦|第二の人生2.7万字5 1272 -
完結第18話
夜勤明けに鍵を替えられた私
看護師長として働く千歳は、後輩に昇進で追い抜かれ、仕事を休みがちになった夫・徹を支えようとしていた。ところが徹は次第に横柄になり、家事を押しつけ、「妻なら夫に従え」と言い始める。そんなある朝、夜勤を終えて帰宅した千歳は、玄関の鍵が替えられていることに気づく。「ダメ嫁への躾だ。謝れば入れてやる」と笑う夫に、千歳は「あっそ。さようなら」とだけ告げて立ち去った。妻が本気で戻らないと知った徹は、どんな行動に出るのか。自分の人生を取り戻そうとする女性の再出発を描く物語。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.6万字5 104 -
完結第10話
「中卒女に現場は無理」職人10人が辞めた結果
中学卒業後、十五歳で職人の世界に飛び込んだ堀江千夏。三十二歳で工務店の現場責任者に抜擢されるが、古参の職人頭・岩木は「中卒の女に現場が回せるか」と嘲笑う。やがて岩木を含む十人が一斉に退職。大型介護施設の改修工事は納期目前なのに、残された職人はわずか三人だった。しかし千夏には、十七年間積み重ねてきた技術と、二十冊を超える黒い手帳があった。仲間とともに現場の立て直しに挑む千夏。その一方で、手帳に記された資材の数字が、会社に隠された不審な事実を浮かび上がらせていく。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場1.3万字5 71 -
完結第10話
こぼされた定食の代償
社員食堂で働く43歳の松尾順子は、料理を通して社員たちを支えることに誇りを持っていた。ところが、営業部の神崎と宮下は、食堂のスタッフを見下し、暴言を繰り返していた。ついには大勢の前で定食を床にぶちまけ、順子たちを笑いものにする始末。さらに職場では不審な情報漏洩も発覚する。そんなある日、専務が食堂を訪れると、二人の態度は一変。順子を知らない二人は、そこで思いもよらない事実を知ることになる。職場逆転|人生逆転|修羅場1.5万字5 514 -
完結第20話
「子なし」と笑われた私に、姪が吹雪の夜に土下座した
43歳の望は、子どもがいないことを理由に、義兄夫婦から嫌味を言われ続けていた。そんな望を慕ってくれるのは、8歳の姪・メイ。しかし正月の夜、猛吹雪の中、幼い妹を背負ったメイが望の家を訪ねてくる。「三千円だけ貸してください。大きくなったら返します」そう言って床に頭を下げる少女。事情を聞いた望と夫の剛は、義兄夫婦が隠してきた恐ろしい実態を知る。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|絶縁1.9万字5 554 -
完結第10話
赤ワインの余興
義妹・真由美の結婚披露宴で、突然赤ワインを浴びせられた美桜。義母も親族も「ただの余興」と笑い、夫の達也まで美桜を責め立てる。 結婚して三年。貧しい嫁だと見下され、家族の言いなりになってきた美桜だったが、実は誰にも明かしていない秘密があった。 しかも、名門病院の跡取りとの結婚を喜ぶ義妹には、恐ろしい裏の顔があった。美桜の手元には、披露宴前夜に録音された決定的な会話が残されている。 華やかな祝宴の裏で進む金と欲望の企み。美桜が静かにスマホを取り出したとき、すべてが動き始める。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生1.9万字5 691 -
完結第15話
年収三千万円の嘘
41歳の内科医・相沢まりなは、家事と育児を任せていた専業主夫の康太が、息子のサッカークラブの保護者・美沙と親密な関係になっていたことを知る。しかも二人は、子どもたちを置き去りにして密会を重ねていた。息子を守るため離婚を決意したまりなのもとに、ある日、美沙から再婚式の招待状が届く。驚いたことに、康太は自分を「年収3000万円の医師」だと偽っていた。元妻を見下し、披露宴で祝辞まで読ませようとする美沙。招待を受けたまりなは、いったい何を語るのか。夫婦|第二の人生|不倫2.6万字5 1187