"雨の夜の招待状" 第6話
はるかについては、京都をれたとだけ聞きました。
どこへったのかはりません。
彼女が結婚式の1週に荷物を運び込んだ錦のマンションは、正式な鍵を受け取るに裁判所に差し押さえられました。しばらくホテル暮らしをしたそうです。
あるに聞かれました。
「義子さん、すべてを振り返って、今はどうじますか」
私はその問いについて、しばらく考えました。
そして正直に答えました。
「夫が痛い目を見たから嬉しいわけではありません。彼女がむ所を失ったから満したわけでもありません」
それは本でした。
正雄が会で恥をかいたこと。
はるかが逃げるようにてったこと。
退職が凍結されたこと。
それらは結果ではありましたが、私の目ではありませんでした。
私に何かを与えたのは、あの招待状を見つけた夜の自分でした。
1でお茶をみ、泣かなかったこと。
も震えず、取り乱して誰かに話することもなく、ただ座ってお茶を最までみ、それから眠ったこと。
自分が何をするべきか分かっていたこと。
私を落ち着かせたのは、りでも復讐の計画でもありませんでした。
私には力がある。
選択肢がある。
そして、その選択肢の使い方をっている。
そうえたことでした。
36、私は族のためにすべてを管理してきました。
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池を替え、保険を更し、予定を覚え、血圧の薬を忘れずにませてきました。
その能力は、結婚が終わったからといって消えるものではありません。
ただ、使いが変わっただけです。
それまで夫と族のために使っていた力を、私は自分自のために使うことにしたのです。
今、私は京都で暮らしています。
錦のくにある、さなマンションです。正雄が買った部ではありません。あの部はもう売られました。
今の部は、私が自分で選び、自分の名義で買いました。
朝になると、窓をしけます。古いの匂いと、通りの奥にある寺から漂う線のりが混ざって入ってきます。
さなが1軒、また1軒とき始めます。豆腐の女性が先にち、魚のシャッターが音をててがります。観客が来るの錦は、まだ静かで、活の匂いがします。
私は毎朝、通りを眺めながら抹茶をみます。
以は、朝のはすべて誰かのために使っていました。
夫の朝。
夫の薬。
夫の予定。
夫の嫌。
けれど今は違います。
お湯を沸かし、茶碗を温め、抹茶を点てる。たったそれだけのが、自分に戻ってきたのようにじられます。
玲子はよく遊びに来ます。
2で錦へき、鮮なイカを買い、で刺にします。さな徳利に本酒を注ぎ、窓際のテーブルでゆっくりべます。
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「義子、あなた本当に顔が変わったわ」
玲子はある、そう言いました。
私は刺に醤油をつけながら笑いました。
「老けた?」
「違う。楽そうな顔になった」
その言葉に、私はし黙りました。
楽。
そうかもしれません。
誰かの帰りを待たなくていい。
めた噌汁を温め直さなくていい。
夫の嫌を先回りして読まなくていい。
何かを頼まれるに準備しておかなくていい。
それだけで、はこんなにも軽くなるのだとりました。
昨、玲子が聞きました。
「あののこと、みたいだったとうことはある?ホテルののこと」
私はし考えました。
会で浜さんが封筒を置いたこと。
80の目が正雄に向けられたこと。
はるかがいドレスのままてったこと。
正雄が1でち尽くしていたこと。
そのどれも、玲子の言葉で聞いた景です。
私自がそので見ていたわけではありません。
私が覚えているのは、別のものです。
「いいえ」
私は静かに言いました。
「私は、桜の形をした菓子のことをいすの」
玲子が目を瞬かせました。
「菓子?」
「ええ。とてもきれいだった。淡い桃で、桜の形をしていて。正雄がその夜のために頼んでいたものよ」
私は抹茶をみました。
「あの、私は36ぶりに、誰かが満腹かどうかを気にせず、自分のためにデザートをべたの」
玲子はしばらく私を見て、それから笑いました。
「それはいいわね」
「ええ。とてもおいしかった」
私も笑いました。
窓のでは、京都が夕方へ向かっていました。のが古い通りを淡く染め、くの寺の鐘がかすかに聞こえました。
穏やかでした。
ただ、穏やかでした。
私はもう、正雄の妻ではありません。
誰かの予定を覚えるためだけにきる女でもありません。
私は林義子。
自分のためにお茶を点て、自分のために部を選び、自分のために夕方の鐘を聞く女です。
京都の古い通りを、が抜けていきました。
その音は静かに流れ、ゆっくりと消えていきました。
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