"ソファの下のピンクのスマホ" 第8話
「どこに?」
「母さんのところじゃない。会社のくに部を借りる」
私はし驚いた。
雄は私を見た。
「今度は自分でやるよ」
私は頷いた。
それでいい。
母親が息子のを全部片づけてやることが、助けることではない。
私はようやく、そのことにも気づき始めていた。
婚協議は、そこから2かかかった。
優奈さんは最初、慰謝料請求にも財産の精査にもく抵抗した。
「夫婦のおを夫婦のために使っただけ」
「佐々さんは友だった」
「翔太へのは投資だった」
主張は何度も変わった。
しかし、雄はもう以のように怯えなかった。
弁護士を通じて話し、直接の言い争いを避けた。
会社の株についても、第者の専に評価してもらった。
結局、優奈さんが保していた30%の株式については、その部を雄側の既株主が適正価格で買い取り、残りも段階に理することになった。
タダで奪うことはしない。
だが、優奈さんが株を盾に雄を縛る状況は終わった。
夫婦財産についても精算がわれた。
優奈さんが勝に個座へ移していた部分については、使途を確認したうえで財産分与ので調された。
貞については、佐々を含めて慰謝料請求をめることになった。
方。
翔太のホテルには別の問題が起きていた。
佐々の勤務先でめられていた社内調査から、部の資について会社経費の正処理が疑われ、警察への相談がわれたのだ。
広告
そのが優奈さんを経由して翔太の会社へ移っていた能性があるとして、事確認が始まった。
私は弁護士から説を聞き、静かに息を吐いた。
予していたことではあった。
けれど、私は嬉しくはなかった。
が破滅する姿を見るのが目ではない。
雄から奪われかけたを戻したかっただけだ。
ホテルはすぐに潰れたわけではない。
ただ、翔太では説できない資がく、融関との関係も悪化した。
最終には、ホテルの事業自体を第者へ譲渡し、その代の部を債務や資返還へ充てることになった。
翔太は代表を退いた。
ある夕方。
彼が私のへ来た。
以の派なシャツではない。
髪も乱れ、目のにい隈ができていた。
「幸子さん」
「何?」
「俺……全部なくなった」
「そう」
「ホテルも、姉ちゃんも、佐々さんも」
私は黙っていた。
翔太は唇を噛んだ。
「俺、社になりたかったんだ」
初めてい声だった。
「姉ちゃんがを用してくれるって言って、俺も何も考えず受け取った。がどこから来たかなんて、本当は聞いちゃいけないとってた」
「だから聞かなかったのね」
「……うん」
「らなければ責任がなくなるとった?」
翔太は俯いた。
しばらくして言った。
「ならないな」
私はお茶を杯だけした。
「翔太さん。私はあなたのをて直してあげることはできない」
広告
彼は黙って聞いていた。
「でも、今から自分で働いて返すなら、それはあなたにしかできない」
翔太はくをげた。
その以来、私は彼と会っていない。
雄と優奈さんの婚が正式に成したのは、それから3週だった。
判を押した夜、雄は私のへ来た。
「終わったよ」
「そう」
私はそれだけ答えた。
雄は苦笑した。
「もっとぶかとった」
「婚って、ぶものじゃないでしょう」
彼はしばらく黙り、それから頷いた。
「そうだな」
私は肉じゃがをした。
「べる?」
「べる」
その夜、雄は久しぶりに仕事の話をした。
しい契約が取れたこと。
若い社員が入ったこと。
会社の経営は楽ではないけれど、以より眠れるようになったこと。
それを聞いて、私はようやくしした。
婚から3か。
私ののインターホンが鳴った。
画面を見て、私はしばらく黙った。
優奈さんだった。
以の華やかな姿とは違う。
髪はつに束ねられ、化粧もほとんどしていない。
私は迷った末、玄関だけけた。
「どうしたの?」
彼女はくをげた。
「しだけ話を聞いてください」
くの喫茶へ移った。
のへ入れる気にはなれなかった。
優奈さんはコーヒーにをつけず、両を膝ので握っていた。
「佐々さん、会社のおの件で捜査を受けています」
私は何も言わなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
金曜日の一冊
離婚をきっかけに、人と物を分け合うことが苦手になった藤原千紘。 新しく越してきたマンションで、彼女は隣の部屋の前に置かれた小さな木箱を見つける。そこには毎週金曜日、一冊だけ本が置かれていた。 本を借り、付箋で感想を残したことから、千紘と隣人の時計職人・桐谷直人の間に、不思議なやり取りが始まる。 顔を合わせればただの隣人。けれど本の中では、少しずつ本音を交わしていく二人。 そんなある日、木箱から本が消える。直人の姿も見えなくなり、不安を覚え始めた千紘の玄関前に、一冊の絶版本が置かれていた。 それは、亡き父が大切にしていた、千紘が長年探し続けていた写真集だった。 なぜ直人は、その本のことを知っていたのか。 そして最後のページに挟まれていた一枚の紙が、千紘の止まっていた時間を静かに動かし始める――。人生逆転|真実2.0万字5 66 -
完結第11話
姑が剥がした私の名前
小さな菓子工房《灯菓》を営む私は、町内会の敬老会に出す96個のプリンを正式な注文として受けた。 しかし当日の朝、冷蔵庫の中からプリンがすべて消えていた。持ち出したのは義母・富美子。しかも彼女は私の店名と表示ラベルを剥がし、自分の名前を貼って「会長手作り」として配ろうとしていた。 保管温度も、消費期限も、誰が責任を持つのかも曖昧なまま、プリンは高齢者たちの前に並べられる。私は必死に止めようとするが、夫は「母さんを悪者にするな」と私の腕をつかんだ。 その夜、敬老会の参加者が体調不良で搬送される。 原因は本当に私のプリンだったのか。義母は何を隠し、夫はどこまで関わっていたのか。 一枚の貼り替えられたラベルをきっかけに、嫁の仕事を“暇つぶし”と笑ってきた家族の本音が、静かに暴かれていく――。嫁姑|親子関係|修羅場1.6万字5 519 -
完結第11話
質屋で知った夫の嘘
離婚の日、元夫・慎介は私の手に結婚指輪を握らせ、冷たく言い放った。 「売って生活しろ」 その一言を憎みながら、私は3年間、貧しい暮らしの中でも指輪だけは手放せずにいた。けれど貯金が尽き、ついに古い質屋へ持ち込んだ日、店主は指輪の内側を見て顔色を変える。 「奥様、お待ちしておりました」 そこには、私の知らない小さな印が刻まれていた。 なぜ元夫は、離婚前にこの質屋を訪れていたのか。なぜ私を突き放しながら、指輪だけを持たせたのか。 憎しみ続けた別れの言葉の裏に、3年間隠されていた真実が少しずつ明らかになっていく――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題1.7万字5 916 -
完結第13話
5人目だけが若かった
1999年夏、岐阜県の山あいにある青川村で、豪雨による土砂崩れが起きた。 崩れた山肌から現れたのは、黒い縄でつながれた5体の遺骨。村人たちは、それを6年前に行われた古い合葬の名残だと説明する。 しかし鑑定の結果、5体のうち1体だけが明らかに若すぎることが判明した。 老人5人が眠っているはずの棺に、なぜ24歳前後の若い女性が紛れ込んでいたのか。そして、本来そこにいるはずだった5人目の老人はどこへ消えたのか。 口元に押し込まれていた黄色い布、祠の裏道に残された車の痕跡、6年前の夜に聞こえた女の声。 迷信と沈黙に守られてきた山村の秘密が、雨によって少しずつ地上へ押し出されていく――。ミステリー|真実|真相1.9万字5 505 -
完結第11話
裏口に回された仕立て屋
孫の発表会の日、68歳の佐和子は嫁から「業者は裏口から入ってください」と告げられる。 舞台に立つ47人の子どもたちが着る衣装は、すべて佐和子が三か月かけて縫い上げたものだった。材料費も立て替え、客席にも座れず、舞台裏で補修を続けた佐和子。 しかし終演後、保護者たちの会話から、嫁が衣装代として大金を集めていたことを知る。 さらに衣装箱には見知らぬ店名のシールが貼られ、ネットには佐和子の作業場が“嫁の実績”として掲載されていた。 家族のため、孫のため。そう思って飲み込んできた佐和子だったが、ある書類に自分の名前が勝手に使われていることを知った瞬間、静かに立ち上がる。 奪われたのは、お金だけではなかった。 名前も、時間も、技術も――。 佐和子は、自分の仕事を取り戻すため、初めて家族に「無償ではない」と告げる。嫁姑|親不孝|真相1.6万字5 652 -
完結第11話
その家、私のです
離婚届を差し出した夜、夫は当然のように言った。 「この家には、俺と母さんが住む」 18年連れ添った妻・絵里に出て行けと言いながら、夫は家だけは手放さないつもりだった。義母もそれを当然のように受け入れ、絵里の荷物を勝手に片づけ始める。 けれど、その家は絵里が結婚前に買い、ローンを完済したものだった。 怒鳴ることも、泣きつくこともせず、絵里は静かに家を出る。そして弁護士に相談しながら、夫と義母に明渡しの準備を進めていく。 だが調停の中で、夫が家にこだわった本当の理由が少しずつ見え始める。 「母さんのため」という言葉の裏に隠されていた、もう一つの計画。 3か月後、絵里が送った一通の通知が、夫と義母の思い込みを崩していく――。因果応報|嫁姑|夫婦|熟年離婚1.6万字5 2525 -
完結第19話
「母さん、車に乗れないから来なくていい」――家族に捨てられた母と消えた1200万円
正月10日、72歳の春子は息子一家と焼肉へ行くはずだった。ところが玄関で息子から「母さん、車に乗れないから来なくていい」と告げられる。5人乗りの車には、荷物をどかせば十分座れる場所があった。それでも春子は何も言わず、家族を見送る。直後、共有カレンダーに表示された翌日の予定を見て、表情が変わった。《母・施設送迎》《通帳と実印を確認。拒否したら部屋を探す》。さらに、本人の知らない老人ホームの資料、偽造された介護申請書、1860万円と査定された自分名義のマンションまで見つかる。春子は通帳、実印、権利証を鞄に詰め、その夜、新幹線の指定席12Aに座った。家族が母を“病人”に仕立てて財産を動かそうとしていた計画が、そこから崩れ始める。嫁姑|親子関係2.6万字5 1316 -
完結第17話
7年間介護した私を捨てた夫――愛人を連れて帰宅すると、寝たきりの母も介護ベッドも消えていた
52歳の高瀬由美は、26年間連れ添った夫・健二から離婚を切り出される。愛人と再婚するという健二は、由美に「離婚後も母の介護は続けろ」と言い放った。半年だけという約束で始めた介護は、すでに7年。毎晩2時13分に起き、仕事も人生も手放した由美を、健二は無料の介護要員としか見ていなかった。だが、認知機能の明瞭な義母・住江は、自ら施設へ移ることを決断する。離婚から3日後、愛人を連れて帰宅した健二が見たのは、介護ベッドの消えた部屋と、約2200万円について記された母の手紙だった。嫁姑|夫婦|熟年離婚2.3万字5 3312 -
完結第13話
旅行代を全額68万円出したのに現地で「年寄りはすぐ疲れて足手まとい」と別行動された
72歳の母は、息子夫婦に誘われ、2泊3日の箱根旅行へ出かけた。「たまには3人でゆっくりしよう。親孝行もしたい」。その言葉を信じ、宿泊費も食事代も送迎代も、68万円すべて母が支払った。ところが翌朝、嫁は「年寄りはすぐ疲れて足手まといになる」と言い、母だけをホテルに残して息子と観光へ出かけてしまう。息子も止めなかった。静かなロビーで1人になった母のスマートフォンに、家族LINEの通知が届く。そこには嫁から、「お金だけ出してくれれば、それでいいのよ。年寄りはホテルで留守番させておけばいいから」という、送る相手を間違えた一文が残されていた嫁姑|親子関係1.7万字5 1832 -
完結第10話
20年後、坊ちゃんは帰ってきた
財閥家の御曹司・優人は、母を亡くした直後、新しく屋敷に入ってきた女によって濡れ衣を着せられ、わずか8歳でアメリカ留学へ追いやられる。 実の父にまで見捨てられた優人のそばに残ったのは、亡き母から「この子を守って」と託された家政婦・白石千鶴子だけだった。 行き先も学校も用意されないまま、異国の地へ捨てられた二人。千鶴子は皿洗いをしながら優人を育て、優人もまた、悔しさを胸に必死で学び続ける。 そして11年後、母が残した一冊の日記から、隠されていた資産と最後の願いが見つかる。 それからさらに時が流れ、20年後。 日本の大和グループが経営危機に陥った時、正体不明の投資家「黒札」に救いを求めることになる。 しかし彼らはまだ知らなかった。 その「黒札」こそ、かつて屋敷から追い出した少年だったことを――。人生逆転|裡切られた|真相|親子関係1.4万字5 1029