"俺を脅し続けた同級生が、留守中の家で出会った男" 第10話
「ありがとうございます」
「何歳ですか?」
そんな何でもない会話から始まった。
し話してみると、男は隣県からてきたばかりで、勤めていたを数に辞めたのだという。寮も会社名義だったためすぐなければならず、今はりいの部を転々としているらしい。
「次の仕事は?」
俺が聞くと、彼は曖昧に笑った。
「まだです」
その表を見た瞬、昔の自分をいした。
仕事を辞めた。
次が決まらない。
友達もいない。
へ帰っても誰もいない。
自分だけが世のから取り残されているような気がして、誰かに「丈夫か」と言われることすら怖かった頃の俺だ。
それでも、いきなり余計なことを言うのは違う気がした。
「変ですね」
そう言って歩きそうとした。
だがワンコはまだかなかった。
若い男が困ったように笑う。
「この子、俺のこと気にしてます?」
「たぶん」
「犬って分かるんですかね。落ち込んでるとか」
「こいつ、昔からそういうところあるんですよ」
俺はしだけ迷った。
そして聞いた。
「飯、べました?」
若い男は驚いた顔をした。
「え?」
「俺、これから友達のところくんです。たぶん飯もあるんで、増えても丈夫だといます」
言ったあとで、自分でも笑いそうになった。
初対面のをいきなり犬塚のところへ連れていくなんて、普通に考えればかなり危ない。
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「いや、そんな……」
男も当然慮した。
「無理にとは言いません。ただ、本当にくところなくて困ってるなら、度くらい誰かに話してみてもいいといます」
俺は自分の携帯番号をいた。
「俺も昔、仕事なくてにこもってた期があるんです」
男が顔をげた。
「今はで働いてますけど、別に最初からうまくいってたわけじゃないです。むしろ、かなりひどかった」
「……そうなんですか?」
「はい。に相談するのも苦でした」
男は渡された番号をしばらく見ていた。
「らないなのに、何でそこまでしてくれるんですか?」
その質問をされた。
何も、犬塚へ同じようなことを聞いた気がした。
困っているのは俺なのに。
何であんたまで関係あるんだ。
その、犬塚は確かこう言った。
俺が困ればワンコが困る。
ワンコが困ればメイが困る。
メイが困れば自分が困る。
巡り巡って、自分の問題でもある――と。
今い返しても、めちゃくちゃな理屈だ。
でも、あの言葉に俺は救われた。
だから俺もし笑って答えた。
「うちの犬が気にしてるからです」
若い男は瞬きょとんとしたあと、初めて声をして笑った。
そのは結局、緒には来なかった。
俺も無理には誘わなかった。
ただ翌の夕方、らない番号から話がかかってきた。
『昨の者です』
「ああ」
『あの……まだ仕事のことで相談してもいいですか』
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昔なら、らない番号から話が来るだけで体が固まっていた。
健ではないか。
またを求されるのではないか。
そんなことばかり考えていた。
でも今は違う。
「もちろん」
俺は自然に答えていた。
話を切ったあと、ワンコを見る。
「おのせいだからな」
ワンコは何もらない顔でに寝転んでいた。
その夜、犬塚のへくと、俺は若い男の話をした。
犬塚は黙って聞いたあと、俺を見た。
「面倒なことに首突っ込むようになったな」
「誰の響だとってるんですか」
「らねえよ」
「犬塚さんですよ」
「俺はそんな善じゃねえ」
確かにそうかもしれない。
なくとも、本はそうっている。
でも俺にとってはどうでもよかった。
は、自分を助けてくれたが善だったか悪だったかなんて、最にはあまり関係ないのかもしれない。
あの。
自分のことを誰も気にしていないとっていた俺へ、誰かがを伸ばしてくれた。
それだけが残っている。
そして、そのを度つかんだからこそ、今度は俺も別の誰かへを伸ばすことができた。
メイがワンコの背を撫でながら言った。
「お兄さん、犬塚に似てきたね」
「それ褒めてる?」
「微妙」
「お嬢、そこは褒めてください」
犬塚が真剣に抗議する。
俺たちはまた笑った。
昔の俺なら像できなかった景だった。
誰かと同じ卓を囲み。
くだらない話で笑い。
の仕事のことを考える。
そんな普通の活が、今では何よりありがたい。
きっとこれからも困ることはある。
仕事を失うかもしれない。
誰かとぶつかるかもしれない。
切なとれるだって来る。
でも、もう「になったら終わりだ」とはわない。
になったようにじるでも、周りを見れば、どこかにを差し伸べてくれるがいるかもしれない。
もし誰もいなかったとしても。
今度は自分から、誰かへ声をかければいい。
俺はそれを、ワンコと犬塚とメイから教えてもらった。
「、飯めるぞ」
犬塚が向こうから呼んだ。
「今きます」
俺はちがった。
ワンコもゆっくり体を起こし、俺のあとをついてくる。
もう俺は、話が鳴るのを怖がっていた22歳の自分ではない。
だからもし今、昔の俺のように「自分には誰もいない」とっているに会ったら。
たぶん俺は、もう迷わない。
「困ってるなら、話してみれば?」
そう声をかける。
あのの。
犬塚たちが俺にしてくれたように。
そしてワンコが、俺のでち止まってくれたように。
今度は俺が、ち止まる番だった。
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