みかん小説
本棚

"60万円の命の値段" 第10話

「何叫んでんだよ、みっともない! それよりだよ、を持ってこい!」

母親の罵声が、終わりのない獄の鐘のように、狭い部に響き続けていた。

京・町。夕暮れのが、馬グループ本部ビルの全面ガラスを黄に染めげていた。

最階の総帥執務。

美央はマホガニーのデスクに向かい、最の決裁類にサインをらせていた。万の先が滑らかにをる音だけが、静謐な空に響く。

コンコン。

「統帥様、失礼いたします」

入してきた黒田が、恭しく礼した。

「欧州における再能エネルギー事業の買収案件、無事にクロージングいたしました。相方のコンソーシアム、統帥様の提示された再編案を全面に受け入れるとのことです」

「そう。ご苦労様、黒田さん」

美央はペンを置き、子の背もたれにを預けた。

「それから……例の佐々達也について、定期報告ががっておりますが」

黒田が差しそうとしたファイルを、美央は軽くをげて制した。

「いいえ。もう結構よ」

「……よろしいのですか」

「ええ。法な回収続きが自に執されているなら、彼がどこでどうきようと、私のには何の関係もないわ。過の純物は、すべて精算されたのだから」

「承いたしました」

黒田はくをげ、類を懐へと戻した。その顔には、先代の全盛期をも凌ぐ若き統帥への、絶対の敬が浮かんでいた。

広告

美央はちがり、壁面に広がるガラス窓のにった。

には、見渡す限りの京の並みが広がっている。無数にき交うのライト、オフィスに灯るかり。そのつひとつが、この巨な経済の血管のを流れる血液であり、馬グループが支える々の暮らしだった。

かつて、美央は普通の幸せを求めた。誰かの妻として、ささやかな卓を囲み、特売の野菜に憂するような、平穏な活を見た。

だが、運命は彼女にそれを許さなかった。

さを装えば、はそれに付け込み、命すら踏みにじろうとする。切なものを守るためには、悪しき者を焼き尽くす絶対な力と、徹な覚悟を持たねばならない。父が遺したその教えが、今では美央の骨の髄まで染み渡っていた。

美央は胸元の黒真珠のブローチに、そっと指先を触れた。

「お父さん。私、迷わずに歩いていくわ」

夜の帳がり、の灯りがまるで満の空のように瞬き始める。

窓ガラスに映る自分の瞳には、何者にも脅かされることのない、凛としたいが宿っていた。

帝国の女王は、静かに夜景を見つめながら、次なる未来へとその歩みをめていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: