みかん小説
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"お湯を奪われた嫁" 第1話

「お湯は使わないで」

〇、曜の夜分。 厳しい寒波が本列島を覆い、気温が氷点くまでえ込んだ夜だった。 品卸売会社で営業事務を務める私――野真理子(おおの・まりこ・歳)は、繁忙期の連残業を終え、凍えた取りでようやく自宅の玄関をくぐった。

築の造階建て。静まり返ったリビングのかりは落ち、ダイニングテーブルのは綺麗に拭き清められていた。夫の裕介(歳)と義母の静子(歳)は、とっくに夕を終えてそれぞれの部に引きげているようだった。

体の芯まで凍てつき、指先のかじかんだ私は、夕を摂る気力すら湧かなかった。 ただ、え切った体を温かい湯で包み込みたかった。 洗面所へ向かい、脱所のさな気ヒーターのスイッチを入れ、震える指先で壁の湯器パネルに触れようとした――まさにその刹、背から突き刺さるようなたい声がんできたのだ。

振り返ると、腕を組み、眉を険しく寄せて仁王ちする義母の静子がっていた。

「お義母さん……まだ起きていらしたんですか」 「あなたがドタバタと帰ってくる音がしたからりてきたのよ」 静子は嫌を隠そうともせず、湯器の操作パネルのにちはだかり、のひらで液晶画面を覆い隠した。

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「今はね、もうガス代がねがってるのよ。あなたがそんな夜遅くに帰ってくるたびに、追い焚きしたりしくお湯を張ったりされたら、いくらあってもりやしないわ」 「でも……は交じりので、体が芯までえているんです。シャワーだけでも浴びさせてください」 私が努めて穏やかに懇願すると、義母はフンとを鳴らし、嘲笑を浮かべた。

「裕介みたいに、で何万も稼いでくる黒柱なら温かいお呂に入る権利もあるでしょうよ。でもねえ、真理子さん。あなたみたいなの嫁が、いっちょにガスを贅沢に使うんじゃないわよ。で分でしょう」

「……、ですか」

「そうよ。で顔とをサッと洗って、さっさと寝なさい。を覚えないからいつまでも貧相なのよ」

静子の差しは、を見るものではなかった。 元からのてっぺんまで、まるで値札のついた物の売り物を値踏みするかのような、底れぬ軽蔑。

その瞬、私のので、張り詰めていた何かが音をてて千切れんだ。 り狂って鳴り散らしたい衝ではない。 脳の奥が透き通るような、絶対零度の静寂が広がっていく覚だった。

――このでは、稼ぐ額の寡での尊厳が値踏みされている。 温かい湯を浴びるという、基本権すらも。

「……わかりました」

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私がさく頷くと、義母は「従順な嫁が自分の言いつけを守った」と満げに顎をげた。

「そうよ、分かればいいのよ。ほら、くたいでさっぱりしてきなさい」

私は湯器からスッとをろし、義母の瞳を真っ直ぐに見据えた。 を切交えず、静かに、だが確な輪郭を持った声で告げた。

「では、からこのの活費は、すべて息子さんにお願いしてくださいね」

洗面所の空気が、ピシリと凍りついた。

「……は? 何言ってるのよ、この子は」

静子はを疑ったように目を丸くし、やがて呆れたように甲い笑い声をげた。 「活費を裕介にお願いしろですって? あなたが普段に入れてる端なんて、お遣い程度のものじゃないの! それをし渋るなんて、どこまでが狭いのかしら!」

「ええ、した額ではないとおいなら、息子さんおでも何の負担にもなりませんよね」

私はそれ以、言も返さなかった。 洗面台の蛇を青い『』の方向へひねり、氷のようにたいをにとった。突き刺すような激痛がの甲をる。そので顔を洗い、タオルで静かに滴を拭き取った。 背で静子が「何よその態度は! 気な!」と喚き散らしていたが、私のにはもう雑音としてしか届かなかった。

階の寝へがり、たい布団に潜り込む。 先のたさは消えなかったが、胸の奥底は驚くほど澄み渡っていた。

私たちが義母との同居を始めたのは、、義父が脳梗塞で急逝したことがきっかけだった。

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