"9,000億円の離婚届" 第5話
浩司に、そんな貯があるはずはない。料も賞与も、宅ローンと子の買い物に消え、個座には50万円も残っていないはずだった。
では、3,000万円をどこから調達するつもりだったのか。
今朝、浩司は父の通帳を持ってへった。残は3万円だったが、浩司はもっときなが入っていると信じていたのだ。
父が倒れるし、浩司が1度だけ実を訪れ、父の部を勝に探っていたことをいした。あの、父がアパートの修繕費としてから預かっていた現を見たのかもしれない。
それを、父個の隠し財産だと勘違いしたのだ。
父がくなれば遺産を奪い、そので美穂と会社を作る。連れ添った妻は、葬儀のに追いす。
あまりにも浅ましく、勝な計画だった。
私は類を丁寧に折り畳み、バッグの奥へしまった。黒いカードと父の遺言の隣に収める。
たった1枚のだが、浩司を追い詰める確かな証拠になるはずだった。
「ゆみさん、まだいたの? 目障りだから、さっさと帰ってちょうだい」
2階の窓から子が顔をした。そのろには、美穂らしい女性のが見えた。
私は窓を見げ、くをげた。
このへ戻ることは、2度とない。
濡れた袋を両で抱え、歩踏みす。に打たれているのに、取りは驚くほど軽かった。
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く私を縛っていた鎖から、ようやく解き放たれた気がした。
実へ戻ると、濡れた髪をタオルで拭き、古いストーブへを入れた。母の着物を取りし、幸い濡れていないことを確かめてから、父の仏壇の横へ置いた。
これで、私の切なものは全てこのさな部へ戻ってきた。
お湯を沸かしていほうじ茶を入れ、湯呑みを両で包む。しずつ指先の覚が戻ってきた。
私は再び父の遺品箱へ向きった。昨夜は気づかなかったものが、まだ残っているかもしれない。
箱の底に、父が昔から切な物を入れていた古い菓子缶があった。蓋をけると、私が子どもの頃に描いた似顔絵や、古い族写真が入っていた。
そのから、1枚だけしい名刺がてきた。
『株式会社都商事 企画発部 美穂』
浩司の勤務先と、美穂の名が記されていた。
なぜ父が、美穂の名刺を持っているのか。
浩司が父を見ったのは3で数回だけだ。美穂が父と会う理由など、どこにもないはずだった。
名刺の裏には、父の震える字でメモが残されていた。
『1112。浩司君の会社のが来た。浩司君の次の妻になる予定だと言った』
その先を読んだ瞬、全から血の気が引いた。
『ゆみさんは、もうすぐ捨てられる。お父さんのおは、私たちのしい会社のために使ってあげると笑っていた。
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私がねば浩司君が遺産を管理することになるから、今すぐ通帳の所を教えろと迫られた』
1112。
父が2度目の肺炎を起こし、危篤状態から識を取り戻した翌だった。私は子に正用品の買いしを命じられ、病院へくのが遅れたでもあった。
その隙を狙い、美穂は1で病へ入っていたのだ。
酸素マスクをつけ、満に声もせない父へ、遺産を渡せと迫った。浩司と共謀し、父の命が消えるのを待ちきれず、病まで押しかけたのだ。
「お父さん、ごめんなさい。気づいてあげられなくて……」
私は畳へをつき、声を殺して泣いた。
娘の夫がを作り、その女が自分の病まで来て遺産を求する。父はその恐怖と屈辱を、私をしませまいとして、最まで1で抱えていた。
しみは、やがてたいりへ変わった。
私は涙を拭い、バッグのの証拠を確認した。9,000億円のビルのマスターキー、父の記、美穂の名刺、そして3,000万円の資同。
もう泣くのは終わりにしよう。
私は弁護士へいメッセージを送った。
『の午、よろしくお願いいたします。全てを終わらせる覚悟ができました』
すぐに返信が届いた。
『承しました。彼らが最も見栄を張っている所で、最初の事実をらかにしましょう』
その夜、私は久しぶりに1度も目を覚まさず、い眠りについた。
翌朝は、昨のたいが嘘のような青空だった。
私は喪ではなく、パートの面接用に買った紺のスーツを着た。
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