"午前5時30分の配車係" 第9話
川の肩がいた。
「を打って、俺の名を呼んでたんだろ」
「はい」
「帰るって言ってたんだろ」
「はい」
「だったら俺が迎えにった」
修平は机のに両を置いた。
「おが奪ったのはだけじゃない」
川は顔をげなかった。
「俺が妻を迎えにく会だよ」
それ以、修平は何も言わなかった。
*
川はその、事故を隠した経緯、由紀子を元のまま施設へ預け続けた経緯について捜査を受けた。
庭も、元確認をせず期施設に置き、銭と引き換えに部へらせなかった事を調べられた。
修平は処分の詳しい見通しを聞こうとはしなかった。
法律が何分を裁けるのか。
どこからが事故で、どこからが故なのか。
それは捜査関が決めることだった。
彼が欲しかった答えはつだけだった。
由紀子はなぜ帰らなかったのか。
その答えは、もう分かっていた。
帰らなかったのではない。
帰るための連絡を、
、に止められていた。
由紀子と修平が初めて会ったのは、元確認から週だった。
青葉ホームではなく、県内の医療関に移されただった。
医師からは、
「過度な期待を持たないでください」
と言われた。
由紀子の記憶は、完全に失われているわけではない。
ただし、昔の記憶と現の状況がうまくつながらない。
名を覚えていても、そのの今の顔と致しないことがある。
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「のご主の顔を覚えていても、今の瀬さんをすぐに夫だと認識できない能性があります」
修平は頷いた。
鏡を見るたび、自分でもそうっていた。
歳になった由紀子だけではない。
自分も歳になっている。
髪はくなった。
目尻の皺も増えた。
妻が覚えている修平とは違う。
*
面会へ入ると、由紀子は窓際に座っていた。
いのカーディガン。
膝のにさなタオル。
修平は入でち止まった。
写真で見ていた。
何度も見た。
それでも実際に目のへ現れると、息ができなくなった。
妻だった。
頬の線も。
の形も。
考えるにし唇を尖らせる癖も。
の由紀子とは違う。
でも、由紀子だった。
「こんにちは」
修平が言った。
由紀子は顔をげた。
しばらく見ている。
返事はない。
修平は子へ座った。
「修平だよ」
由紀子の眉がわずかにいた。
「瀬修平」
名を聞くと、由紀子は修平の顔ではなく、
へ線を落とした。
結婚指輪がある。
修平は、していなかった。
由紀子はゆっくりを伸ばした。
指輪に触れた。
「これ?」
修平が尋ねる。
由紀子は何も言わない。
指先だけで属の表面をなぞった。
しばらくして、
「しゅう……」
と声がた。
修平は息を止めた。
「うん」
「しゅうへい」
。
ノートに何度もかれていた名。
修平は、
「そうだよ」
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とだけ答えた。
泣かないつもりだった。
妻をにさせたくなかった。
それでも涙が落ちた。
由紀子は議そうに見ていた。
修平の涙の理由までは分からないようだった。
*
面会は分で終わる予定だった。
由紀子は昔のことをほとんど話さなかった。
横浜。
スーパー。
同窓会。
どの言葉にもし反応はするが、会話にはならない。
修平が自宅の写真を見せると、
「ここ」
と言った。
「覚えてる?」
由紀子は首を傾げた。
次に、失踪に夫婦で撮った旅写真をした。
由紀子は若い自分の顔を見つめた。
「これ、由紀子だよ」
修平が言うと、
「ゆきこ」
と繰り返した。
「俺と緒にったんだ」
由紀子は写真の若い修平を指した。
「しゅうへい」
「そう」
今の修平を見た。
写真を見た。
また修平を見る。
つをつなげようとしているのが分かった。
やがて、
「おじいちゃん」
と言った。
修平は瞬、呆気に取られた。
それから笑った。
「まあ、そう見えるよな」
由紀子もしだけ笑った。
その笑い方だけは、昔と変わらなかった。
*
帰り際。
職員がとペンを持ってきた。
「今はし疲れたので、最に字をいて終わりにしましょう」
由紀子はペンを握った。
を見ている。
修平は横から何も言わなかった。
しばらくして、文字目をいた。
【修】
線は震えている。
次に、
【平】
文字。
修平は何度も見てきた。
活ノートにも同じ字があった。
けれど目のでく姿を見るのは初めてだった。
由紀子はを修平へ向けた。
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