"水を盗んだ隣人の末路" 第4話
と言い逃れをするか。 しかし、黒杉の反応はそのどれでもなかった。男はマグカップのコーヒーをすすると、眉ひとつかさずにを鳴らした。
「ああ、それ」
たったの言だった。
「『それ』じゃありません!」
私はたまらず声を荒らげた。
「のの敷に無断で侵入して、勝にホースを繋いでを使っていたんですよ!? 犯罪です! 棒じゃないですか!」
黒杉は面倒くさそうにを指でほじると、私たちをからまで値踏みするように眺めた。
「聞きが悪いな。盗んだなんて言ってませんよ。お隣同士の助けいでしょうが。しくらい使わせてもらったって、減るもんじゃなし」
「減るもんじゃない!?」
正の声が気を含んでくをった。胸ポケットから、昨夜届いた料の請求を叩きつけるように黒杉の目のに突きつける。
「これを見ろ! 今の代が15万4000円だ! 普段の倍以だぞ! これを『しくらい』で済ませる気か!?」
黒杉はチラリと請求に目をやったが、眉毛本かさなかった。むしろ、嘲笑うようなら笑いを元に浮かべる。
「へえ、結構いくもんですね。でも、それ、本当に私が使った分だって証拠があるんですか? お宅の配管がで破裂してたんじゃないの?」
「々しいことを言うな! ホースがおの庭のスプリンクラーに直結してるのを昨夜確認したんだ!」
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「なんてね、蛇からちまえばどこへ流れたかなんて誰にも証できませんよ。それに、なんて空からってくると同じでしょう。そんな細かいことでガタガタ騒ぐなんて、器がさいねぇ」
「な……っ!」
私はあまりの顔無恥さに眩暈を覚えた。この男には、世般な倫理観や恥の概が根本から欠落しているのだ。
黒杉は私たちを無するように踵を返し、庭へと歩きした。 「ちょっと、逃げるんですか!」 私たちがを追って庭へ踏み込むと、そこには異様な景が広がっていた。
昨夜は暗くて全貌が見えなかったが、百坪い庭面に組まれたアルミの雛壇に、然と並べられた盆栽の数々。 幹が龍のようにねじれ、い神(ジン)と舎利(シャリ)が妖しくる真柏。 荒々しい皮を鎧のようにまとった黒松。 繊細な枝先が見事なグラデーションを描く楓や葉松。 素の私が見ても、所のホームセンターで数千円で売られている園芸用の植とは、らかに次元が異なるものだと分かった。鉢鉢が、まるで美術館に展示される美術品のような異様なを放っている。
「すごいでしょう」
黒杉は突然、自げに胸を張った。先ほどまでの嫌そうな態度は消え、陶酔しきった目で盆栽を見つめている。
「にあるこの葉松でさえ、にせば300万はらない。
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そこの棚の番奥、齢百を超えるあの真柏なんて、1鉢で500万……いや、の富豪なら800万はポンとす逸品ですよ」
「ご、500万……?」
わず正が息を呑んだ。
「そうですよ。今、世界な盆栽ブームでね。国や欧米の超富裕層が、本の本物の古をいくら積んででも欲しがってるんです。この庭にあるコレクションを全部わせたら、総額で幾らになるといます? 8000万円ですよ、8000万円」
黒杉はおしそうに真柏の青々とした葉先に触れた。
「盆栽ってのはね、き物なんですよ。特にのやりは命懸けだ。朝と夕方、気温と湿度にわせて完璧な分量を維持しなきゃならん。がでやってたら拘束される。だから私は、ドイツ製の最級自散システムを導入したんです」
「そのシステムをかすを、なぜがから盗むのよ!」
私の叫びに、黒杉はややかな目を向けた。
「だから『借りてる』って言ってるでしょう。言葉遣いに気をつけなさいよ」
「誰が貸したって言ったのよ!」
「お宅ねぇ、さっきから、ってうるさいんだよ。たかが数万の代でギャーギャー喚いて。こっちは億い価値の美術品を管理してるんだ。もし今、が止まってこのたちが本でも枯れたら、あんたたち弁償できるんですか? 500万の真柏が枯れたら、お宅のっぽいごと売り払ってもりないんじゃないですか?」
「お……!」
正が拳を握りしめ、歩詰め寄った。
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