みかん小説
本棚

"水を盗んだ隣人の末路" 第14話

わずかに、男は見違えるほど痩せこけていた。頬はこけ、あんなに威張り散らしていたは消え失せ、着古したヨレヨレのセーターを着て力なくっていた。

がフェンス越しに声をかけた。

「黒杉さん。このホースは、体何の真似だ」

黒杉は線を面に落としたまま、乾いた唇をゆっくりといた。

「……返そうとってね」

「え?」

「そのホース……以、私が勝に持ち込んで使っていたものだから。もうすぐこのていくんでね。ゴミを残していくわけにはいかないとって、そっち側の敷に置いてあった分を……引き取ろうとしたんだが、腰がたなくてね」

声には、かつての傲な響きは微も残っていなかった。

「……盆栽は、全部引き渡したんですか」

私が尋ねると、黒杉は自嘲気元を歪めた。

「ああ、全部持ってかれたよ。自宅もも競売にかけられる。親戚からをかき集めても賠償には到底りなくてね……自己破産の続きですよ。私のは、もう完全に終わりです」

私たちは何も言えなかった。自業自得とはいえ、目のの男の変わり果てた姿はあまりにも痛ましかった。

「満でしょう」

黒杉がぽつりと言った。

が眉をひそめた。「俺たちが満するわけがないだろう。あんたが勝に自滅しただけだ」

「分かってますよ……」

広告

黒杉は力なく首を振った。

「最初から、分かってたんだ……」

男はポツリ、ポツリと、誰に聞かせるでもなく独を始めた。

「最初はね、本当にだったんですよ。最初はほんのバケツ杯分、お宅の蛇から拝借しただけだった。でも、誰にもバレなかった。それが始まりだった」

「……」

「ブローカーとして独して、預かるが増えるにつれて、毎代が万、万と膨れがっていった。自分の取りが減るのが怖くて、惜しくてたまらなくなった。それで、配管をいじってから引くことをいついたんだ。度始めてしまったら、もう戻りできなくなった。『バレてないんだから丈夫だ』『しくらい使っても誰も気づかない』って、自分に都のいい言い訳をねて……」

黒杉の目から、筋の涙が頬を伝って落ちた。

「警察ので『を止められたせいで枯れた』って叫んだ瞬ね……自分で自分の声を聞いて、の底で気づいてたんですよ。『ああ、俺はなんてみっともない、浅ましい棒に成りがってしまったんだ』ってね」

男は々とげた。

「青井さん……本当に、申し訳ありませんでした」

はしばらく沈黙した面に落ちていた緑のホースを拾いげ、フェンス越しに黒杉へと渡した。

「もう度と、のものにすなよ。自分ので、自分のきろ」

広告

黒杉は震える両でホースを受け取ると、もうげ、静かに自宅の奥へと消えていった。

その以来、隣から物音がすることは度となかった。

それから。 私たちは、国のまばゆい太陽が照りつける沖縄・覇空港のロビーにっていた。

ドアがいた瞬、むせ返るようなかく湿ったが頬を撫でた。

「うわぁぁぁっ! あったかい! だぁ!」

が両を広げて歓声をげた。 空港からレンタカーをらせ、恩納岸沿いへ向かう。窓のには、パンフレットで見た通りの、どこまでも果てしなく広がるエメラルドグリーンのシナが輝いていた。

ホテルのオーシャンビューの部に入り、荷物を置いた、私は洗面所へ向かった。 ピカピカに磨かれた真鍮の蛇をひねる。 ジャーッ、と透たいが勢いよく流れした。

のひらにを溜め、顔を洗う。 鏡に映った自分の顔を見て、私はなぜか、ふふっと吹きしてしまった。

「おい紀、何で笑ってるんだ?」

から正議そうに覗き込んできた。

「ううん……なんでもないの。ただね、蛇をひねれば当たりのように綺麗なてくるって、本当にありがたいことなんだなぁって、改めてってね」

もピンと来たらしく、いたずらっぽく笑った。

「そうだな。なんせ俺たちは、そのありがたみを学ぶために『15万円』の授業料を払いかけたんだからな」

「払ってないわよ! 全額きっちり回収したでしょう!」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: