"消された登山日誌" 第2話
気予報を確認し、ルートの危険箇所を赤鉛で囲む。その準備のすら、恵子にとっては胸が弾むものだった。
登サークルの仲たちとの交流も、恵子の活を豊かにしていた。同じ趣を持つ々との会話は尽きることがない。の話になると、何でも語りえた。
昭539のある、恵子は登サークルの定例会に参加していた。
町の公民館のに、仲たちが集まっていた。壁には古い岳写真が飾られ、テーブルのには湯呑みと菓子が置かれている。
その、仲の1が青峰の話を持ちした。
「今の葉、青峰がかなり良さそうだって聞いたよ」
その言葉に、恵子は顔をげた。
青峰は野県にある標1000mを超えるで、登好のではられただった。特にの葉の季節には、全体が赤や黄に染まり、まるで絵画のような美しさだと言われていた。
恵子は以から青峰の名を聞いたことがあった。いつか登ってみたいとっていたの1つだった。
しかし青峰は、決して優しいではなかった。
険しい岩が続く区があり、候も変わりやすい。経験豊富な登者でも油断できないとしてられていた。過には遭難事故も何度か起きており、慎な準備が必だった。
恵子には7の登経験があった。
広告
それでも、1で登るにはがあった。
そのの帰宅、恵子は夕の片付けを済ませてから、誠に相談した。
誠は茶ので聞をたたみ、真剣な表で妻を見た。
「青峰か。それなら必ずガイドを雇いなさい。1で無理はしないでくれ」
恵子は夫の言葉に頷いた。
「ええ。私もそうっているの。ちゃんと元のガイドさんにお願いするつもり」
そこで恵子は、元で評判の登ガイドを雇うことにした。
それが、本浩司だった。
本浩司は当45歳。青峰の麓の町でまれ育ち、20以も登ガイドとして活していた。元では誰もがる名なガイドで、これまで1度もきな事故を起こしたことがないという完璧な記録を持っていた。
町の々はを揃えて言った。
「本さんと緒なら絶対に全だ」
「彼はのことをり尽くしている」
「どんな候でも静に判断できるだ」
恵子は自宅の黒話のに座り、受話器を握りしめた。指先にし汗がにじんでいた。らない男性に登の案内を頼むことに、わずかな緊張があった。
呼びし音の、落ち着いた男性の声が聞こえた。
「はい、本です」
恵子は背筋を伸ばし、丁寧に自分の経験と希望を伝えた。7の登経験があること。青峰に登りたいこと。全第で考えていること。
本は優しく穏やかな声で答えた。
広告
「分かりました、田さん。7の経験があるなら青峰は分登れますよ。私がしっかりサポートしますから、してください」
恵子はほっと息をついた。
「10旬、葉が1番美しい期に登りましょう。2泊3の程で計画しますね」
「よろしくお願いします」
受話器を置いた、恵子の胸は期待でいっぱいだった。
これで全に青峰へ登れる。美しい葉を見ることができる。に帰ったら、誠と美穂にたくさん話を聞かせよう。
そういながら、恵子は発のを待ちにしていた。
しかし恵子はらなかった。
この登が、彼女の最の旅になることを。
そして信頼していたガイド、本浩司が、の奥底に危険なを抱いていることを。
昭531015。
発のがやってきた。
恵子はから登の準備を入にめていた。部の畳のにリュックサックを置き、必な装備を1つ1つ確認しながら詰めていく。
防寒具、具、懐灯、図、コンパス、非常、筒。7の経験でにつけた準備の仕方は、もう体に染み込んでいた。
恵子の部には、これまでの登で集めたさまざまないの品が飾られていた。
で拾ったさな。押しにした植物。頂で撮った写真。それらを眺めながら、恵子は今回の登への期待に胸を膨らませていた。
青峰の葉は本当に美しいのだろうか。
どんな景が待っているのだろうか。
発の朝、恵子はいつもよりく台所にった。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
15年後に消えた罪
1984年、東京・世田谷の古い木造住宅で起きた火災。 亡くなったのは、72歳の老人・近藤商司だけではなかった。 焼け跡から見つかったもう一人の女性の遺体は、なぜか新聞紙に包まれ、灯油の痕跡まで残されていた。 当初、事件は老人と介護士の間で起きた悲劇として処理された。 しかし15年後、古い書類に残された一つの署名と、焼け跡に残された小さな証拠が、隠され続けた真実を再び動かし始める。 消えた500万円。 偽造された署名。 そして、誰も疑わなかった親族の存在。 長い年月を経て明らかになった、静かな住宅街の奥に隠された衝撃の真相とは――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 141 -
完結第11話
地下室に消えた名前
旧精神療養所の解体前調査で発見された、図面には存在しない地下室。 そこには、番号だけを付けられた6人分の遺骨と、半世紀前に消された人々の記録が残されていた。 かつて「自死」と処理された女性たちは、本当に自ら命を絶ったのか。 調査を進める刑事たちは、古いカルテ、残された手紙、そして元医師の告白から、病院の地下に隠されていたもう一つの歴史へたどり着く。 しかし、そこにあったのは単なる事件の真相ではなかった。 名前を奪われ、声を失った人々と、長年沈黙を守り続けた社会の記憶だった――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 94 -
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 13 -
完結第13話
消えた退院前夜
1991年5月、静岡県の総合病院で、退院を3日後に控えた43歳の女性・田中道子が忽然と姿を消した。 手術は無事に終わり、回復も順調。財布も保険証も病室に残されたまま、彼女だけが夜の病院から消えていた。 最後に確認されたのは、消灯時間の午後9時。翌朝、看護師がカーテンを開けた時、そこに道子の姿はなかった。 自ら出て行ったのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、病院の中で何かが起きていたのか。 家族は必死に行方を探し続けるが、手がかりは見つからないまま季節だけが過ぎていく。 そして8か月後、病院の監査で見つかった小さな異変が、すべてを変える。 消えた投薬記録。数の合わない睡眠導入剤。修正されたカルテ。 信じていた病院の奥で、道子に何が起きていたのか――。ミステリー|真相|行方不明1.9萬字5 9 -
完結第13話
長野中部山岳紅葉山カップル失踪事件
2019 年 10 月、韓国束草・雪岳山で忽然と姿を消した 20 代の恋人カップル。 山の監視カメラに最後の後ろ姿を残し、それきり跡形もなく消えてしまった二人。 大規模な山間捜索を何度も行ったものの、衣類の切れ端一つ見つからず、3 年間も謎のまま放置されていたこの失踪事件。 3 年後、排水溝の底から発見された一台の携帯電話。 本体に復元された記録の中に、たった 9 秒(原文 6 秒調整可)の謎の通話履歴が残っていたのです。 撮影した第三者の姿は監視カメラにも目撃談にも一切残らず、臨時インターネット電話番号からかかってきた不可解な電話。 通話直後、二人のスマホが同時に電源オフになる不可解な記録。 リュックの隠しポケットから出てきた手描き地図と謎のメモ「ここへ行けばある。17 時 25 分より前に渡るな」。 警察が調べても特定できない撮影者、地図に載っていない危険な山道、時系列が繋がる不自然な証拠たち… 長野(原文韓国束草に統一)の山に隠された、誰も想像できない真相とは? 年配の方も分かりやすく時系列順に整理した事件全貌、今すぐ全文を読んでみてください。真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 12 -
完結第13話
隠された十五年の物語
2005年、日本で誰も深く探ろうとしなかった不気味な過去がある。 生涯質素に暮らし、一文無しに近い老夫婦がいた。 一生懸命働き、大金とは無縁の日々を過ごしてきた二人に、思いがけない幸運が舞い込んだ。 閑古鳥が鳴くパチンコ店で、前代未聞の大当たりを出し、一夜にして大金を手に入れ、念願の一戸建てを購入したのだ。 苦労の末に手にした新居で、穏やかな老後が待っているはずだった。 だが誰も予想しなかった——引っ越してたった3日、老夫婦は新居ごと跡形もなく消え失せた。 庭の草木は新しく植えたばかりの瑞々しさを残し、部屋のお茶はまだ温かく、布団も整えられたまま。 主人だけが、この世から忽然と姿を消したのだ。 警察が数日間捜索したものの、手がかりは一切なく、最終的に不可解な失踪事件として処理された。 だが地元の古株の住民は皆知っている。この予期せぬ大当たりは、贈り物ではなく、命を懸けた交換取引だったと。 大金を手にした直後に消えた理由とは?空き家の下に隠された真実とは? 当時誰も口にできなかった封印された真相を、今こそ完全に解き明かす。真実|裡の顔|真相|遺體発見|行方不明1.9萬字5 9