"雨の美容室ローズ" 第7話
連絡を受けたは、写真の話を聞いて息をのみました。
そしてすぐに、美佐さんに会いに来てくれたのです。
10ぶりに会ったは、すっかり髪が増え、顔のしわもくなっていました。けれど、その目の鋭さは昔のままでした。
「お嬢さん……いや、もうお嬢さんというでもありませんが。お久しぶりです」
「さん。お変わりなく……」
「いや、すっかり寄りになりました。来には定です」
2はしばらく、10という歳を噛みしめるように、黙って向かいっていました。
やがては、署から取り寄せた写真のコピーをに取りました。そしてそれを目見た途端、表をぐっと引き締めたのです。
「この顔だ」
美佐さんが息をのみました。
「分かるんですか」
「実物を見るのは初めてです。だが、事件の、向かいのの女将さんから聞いた最の客の相とぴたりと致する。50歳。痩せて背がく、顔が悪い。違いない。これがあの男だ」
の声はわずかに震えていました。
10もの、自分の胸の奥に引っかかっていた最の客。
ついにつかめなかったその男の顔が、今こうして目のにあるのです。
「これは、ただの古い写真じゃありません。10、々がどうしても見つけられなかったがかりです。これがあれば、今なら調べられることがある」
は、写真の裏にかれた文字をじっと見つめました。
広告
「田さん。福島」
その2つだけが、男へ続く糸でした。
は、10の捜査資料を署の倉庫から引っ張りしました。古びた段ボール箱のには、当の聞き込みの記録や現写真がぎっしりと詰まっていました。
はそれを1枚1枚、丹に読み返しました。
そして改めて確信しました。
しず子さんは、自分のでをた。
財布も置いたまま、すぐに戻るつもりで。
けれど戻らなかった。
あるいは、戻れなかった。
その鍵を握っているのが、田という男であることは、もはや違いありませんでした。
「福島……」
は写真の裏の文字を何度もので呟きました。
しず子さんの故郷は川のはずです。それなのに、なぜ福島なのか。
この男は福島のなのか。
だとすれば、川の美容師であるしず子さんと、福島の男とのに、体どんな縁があったというのでしょう。
は福島県内の「田」という姓を片っ端から調べ始めました。
田とに言っても、漢字のき方はいくつもあります。田、、成。似たような姓まで含めれば、その数はかなりのものでした。
そのから、齢のがかりを頼りに絞り込んでいきます。
あの男は10の点で50歳。となると、まれは昭20代半ば頃。
福島県内でその頃にまれた田という男を探して、は古い記録を1つ1つ当たっていきました。
広告
そしてついに、1の男にき当たりました。
田誠。
福島県のあいのさな町のまれ。
齢から計算すると、10にはちょうど53歳になる勘定でした。
けれど、その男には議なことがありました。
田誠は、もう20以もにまれ故郷の町をたきり、方がれなくなっていたのです。
「方れずか」
はく呟きました。
「これは調べてみる値打ちがある」
そうったは、美佐さんに連絡を取りました。
「福島にってみようといます。この目で、その田という男のまれたを確かめたい。よかったら緒にきませんか」
美佐さんは、すぐに答えました。
「きます。連れてってください。母のためなら、どこへだってきます」
こうして、と美佐さんは福島へ向かいました。
幹線を乗り継ぎ、来線に乗り換え、さらにバスに揺られて2がたどり着いたのは、にく抱かれたさな町でした。
かつては賑わった町だったのでしょう。けれど若いたちは町をていき、今では寄りばかりがひっそりと暮らしていました。
の斜面には、田んぼが段をなして広がっていました。を張った田には、空の青との緑が鏡のように映っています。
「いいところですね」
美佐さんがわず言いました。
「ええ。けれど、ずいぶんが減ったようだ」
は町を見渡しながら答えました。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
15年後に消えた罪
1984年、東京・世田谷の古い木造住宅で起きた火災。 亡くなったのは、72歳の老人・近藤商司だけではなかった。 焼け跡から見つかったもう一人の女性の遺体は、なぜか新聞紙に包まれ、灯油の痕跡まで残されていた。 当初、事件は老人と介護士の間で起きた悲劇として処理された。 しかし15年後、古い書類に残された一つの署名と、焼け跡に残された小さな証拠が、隠され続けた真実を再び動かし始める。 消えた500万円。 偽造された署名。 そして、誰も疑わなかった親族の存在。 長い年月を経て明らかになった、静かな住宅街の奥に隠された衝撃の真相とは――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 138 -
完結第11話
地下室に消えた名前
旧精神療養所の解体前調査で発見された、図面には存在しない地下室。 そこには、番号だけを付けられた6人分の遺骨と、半世紀前に消された人々の記録が残されていた。 かつて「自死」と処理された女性たちは、本当に自ら命を絶ったのか。 調査を進める刑事たちは、古いカルテ、残された手紙、そして元医師の告白から、病院の地下に隠されていたもう一つの歴史へたどり着く。 しかし、そこにあったのは単なる事件の真相ではなかった。 名前を奪われ、声を失った人々と、長年沈黙を守り続けた社会の記憶だった――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 94 -
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 13 -
完結第13話
消えた退院前夜
1991年5月、静岡県の総合病院で、退院を3日後に控えた43歳の女性・田中道子が忽然と姿を消した。 手術は無事に終わり、回復も順調。財布も保険証も病室に残されたまま、彼女だけが夜の病院から消えていた。 最後に確認されたのは、消灯時間の午後9時。翌朝、看護師がカーテンを開けた時、そこに道子の姿はなかった。 自ら出て行ったのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、病院の中で何かが起きていたのか。 家族は必死に行方を探し続けるが、手がかりは見つからないまま季節だけが過ぎていく。 そして8か月後、病院の監査で見つかった小さな異変が、すべてを変える。 消えた投薬記録。数の合わない睡眠導入剤。修正されたカルテ。 信じていた病院の奥で、道子に何が起きていたのか――。ミステリー|真相|行方不明1.9萬字5 9 -
完結第13話
隠された十五年の物語
2005年、日本で誰も深く探ろうとしなかった不気味な過去がある。 生涯質素に暮らし、一文無しに近い老夫婦がいた。 一生懸命働き、大金とは無縁の日々を過ごしてきた二人に、思いがけない幸運が舞い込んだ。 閑古鳥が鳴くパチンコ店で、前代未聞の大当たりを出し、一夜にして大金を手に入れ、念願の一戸建てを購入したのだ。 苦労の末に手にした新居で、穏やかな老後が待っているはずだった。 だが誰も予想しなかった——引っ越してたった3日、老夫婦は新居ごと跡形もなく消え失せた。 庭の草木は新しく植えたばかりの瑞々しさを残し、部屋のお茶はまだ温かく、布団も整えられたまま。 主人だけが、この世から忽然と姿を消したのだ。 警察が数日間捜索したものの、手がかりは一切なく、最終的に不可解な失踪事件として処理された。 だが地元の古株の住民は皆知っている。この予期せぬ大当たりは、贈り物ではなく、命を懸けた交換取引だったと。 大金を手にした直後に消えた理由とは?空き家の下に隠された真実とは? 当時誰も口にできなかった封印された真相を、今こそ完全に解き明かす。真実|裡の顔|真相|遺體発見|行方不明1.9萬字5 9 -
完結第13話
マカオに消えた花嫁
2010年4月、マカオへ新婚旅行に訪れた日本人夫婦・田中浩司と山田愛子は、ホテルに荷物を残したまま忽然と姿を消した。 最後に確認されたのは、観光地の監視カメラに映った2人の姿。部屋に争った形跡はなく、財布も荷物もそのまま。誘拐か、事故か、それとも自ら消えたのか――事件は真相不明のまま、12年という歳月に埋もれていった。 しかし2022年、1人の女子大生がSNSで見つけた写真が、凍りついた時間を動かす。 マカオの街で中国人女性と寄り添う中年男性。その顔は、12年前に失踪したはずの夫・田中浩司に酷似していた。 では、彼と一緒に消えた妻・愛子はどこへ行ったのか。 幸せな新婚旅行の裏で、あの夜、本当は何が起きていたのか。 SNSに映った“夫の顔”が、12年間隠されてきた衝撃の真実を暴き出す。ミステリー|真実|行方不明2.0萬字5 1 -
完結第13話
消えた23人の観光団
2025年9月29日、福岡に約2700人の団体観光客が一斉に降り立った。 その日を境に、日本各地で不可解な失踪が相次ぎ始める。タクシー運転手、配達員、宿泊施設の関係者――いずれも夜、一人で行動することの多い男性たちだった。 やがて糸島の海岸で発見された身体の一部が、事件の扉を開く。 捜査を進める刑事・鈴木健二は、失踪した観光客、黒いワゴン車、古い倉庫、医療機器販売会社、そして横浜港へ向かう冷凍コンテナという、ばらばらに見えた点を追い始める。 これは単なる失踪事件ではない。 観光の人波に紛れ、日本の空き倉庫や港を利用して動いていた国際犯罪組織。その裏には、人間を“商品”のように扱う恐ろしい取引が隠されていた。 救える命はまだ残っているのか。 そして、海へ消えた男と「王」と呼ばれる人物の正体とは――。 福岡から始まった小さな違和感は、やがて日本全体を揺るがす闇へとつながっていく。ミステリー|真相2.0萬字5 11 -
完結第13話
24年目の手紙
1978年、神戸の坂の町で、12歳の少年・健二が自宅前から忽然と姿を消した。 母・よし子が最後に見たのは、新しく買ってあげた真っ白なスニーカーを履き、嬉しそうに坂道を駆け下りていく息子の後ろ姿だった。 学校にも行かず、家にも戻らなかった健二。近所の証言では、彼は知らない男と笑いながらバスに乗っていたという。警察は「家出」と見なしたが、よし子だけは信じなかった。 息子は必ず帰ってくる。 そう信じて、よし子は24年間、古い家を離れず、毎年6月になると玄関に新しい白いスニーカーを置き続けた。 そして2002年の夏、アメリカから一通の書留が届く。 差出人の名前は――高橋健二。 そこに記されていたのは、24年前のあの日、少年を連れ去った人物の名前と、母が知らなかった残酷な真実だった。ミステリー|真実2.0萬字5 0