"赤ワインの逆転離婚" 第2話
以、夫が見たいと言っていた映画がテレビで放送されるとり、私は録画の準備までして声をかけた。しかし夫は聞から顔もげなかった。
「もう見たくない。恵が見れば」
そのまま自にこもり、放送が終わるまでてこなかった。
これは危険な兆候ではないか。
今の距に満していたのは私だけで、夫はずっと満を抱えていたのかもしれない。その満が積もりに積もり、ついに表面へ現れたのだろうか。
そう考えていたある夜、夫は私が作った夕をもべず、皿を見ろしてを鳴らした。
「まずそうでべる気にならない。もうし料理を練習したら?」
私は箸を持ったまま、夫の顔を見つめた。
確かに私は料理ではない。忙しいに作っているため、の込んだ献を毎並べられるわけでもない。
それでも、にせないような料理を作っているつもりはなかった。
「べてもいないのに、どうしてまずいって分かるの?」
「見れば分かるだろ」
夫は吐き捨てるように言い、いため息をついた。
「ああ、に帰っても気が休まらない。このには俺の居所がないよ」
その言葉は、っていた以に胸へ突き刺さった。
私は夫を邪険に扱った覚えなどない。互いの仕事を尊し、できる範囲で支えってきたつもりだった。
居所は誰かから与えられるものではなく、自分でも作っていくものだ。
広告
そう言い返したかったが、夫はすでに席をっていた。
もう駄目なのかもしれない。
閉まった扉を見つめながら、私は初めてそうった。
その、私は予定より幅に遅くまで残業していた。
職をたには全がく、肩から提げた鞄さえの塊のようにじられた。の窓に映った自分の顔は疲れ切っていて、化粧も朝の面をほとんど残していなかった。
以の夫なら、先に帰っているは簡単なものでも夕を用してくれた。
けれど最の態度を考えれば、期待するだけ無駄だろう。途でコンビニに寄るべきだとったが、内を歩いて商品を選ぶ気力さえ残っていなかった。
「今夜はカップ麺かな……」
誰に聞かせるでもなく呟き、私は玄関の鍵をけた。
のにはテレビの音が響いていた。靴を脱いでリビングを覗くと、夫がソファに寝そべり、よく分からないバラエティ番組を眺めていた。
画面に映っている芸を見て、私はわずかに首を傾げた。
以、夫はその芸が苦だと言っていたはずだ。笑い声をげるわけでもなく、ただぼんやりと画面を見つめている。
「ただいま」
声をかけても、夫は線をかさなかった。
「おかえり」
返事はあったが、それだけだった。
やはり事は用されていない。私は蔵庫をける気にもなれず、先に呂へ入ることにした。
広告
温かい湯を浴びると、張り詰めていた体がしずつ緩んでいった。夫のたい態度をいしたくなくて、いつもよりくシャワーを浴びた。
髪を乾かしてリビングへ戻ると、テーブルのにカップ麺が置かれていた。すでに湯が注がれ、蓋のには箸まで載っている。
私はわずち止まった。
ちゃんとした夕ではなかった。それでも、今の夫が私のために何かを用してくれたことがだった。
「これ、あなたが?」
夫はソファに座ったまま、こちらを見ずに頷いた。
「に誰がいるんだよ」
「ありがとう」
「ああ」
そっけない返事だったが、それ以を求める気にはなれなかった。
私は子に座り、蓋をけた。湯気ががり、温かい匂いが疲れた体に染み込んでくる。
しばらくの、部には私が麺をすする音と、テレビから聞こえる笑い声だけが響いていた。
半分ほどべたところで、夫が突然リモコンをテーブルに置いた。
「あのさ」
い声に気づき、私は箸を止めた。
夫はすぐには続けず、画面ので騒ぐ演者を眺めていた。何か言いにくいことがあるような態度に、私は胸の奥がわずかにざわついた。
「何?」
「たまには事にかないか」
聞き違えたのかとい、私は夫の横顔を見つめた。
「え?」
「今度、のボーナスがるだろ。たまにはでべようって言ってるんだよ」
夫は面倒そうな調だったが、私にとってはいがけない誘いだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
エレベーターの7時間
5月7日。 東京の大型デパートで突然の停電が発生した。 妊娠6か月の雪は、8人の乗客とともにエレベーターへ閉じ込められる。 救助が来るまでの7時間、彼女は自分の命よりも先に、高齢者や子供たちを守り続けた。 しかし、扉が開いた瞬間―― 救助隊長である夫・明が最初に抱き上げたのは、妻ではなく元恋人の桜だった。 「私と赤ちゃんは、もう彼を待たない」 意識を失う直前、雪が救助隊員へ託した結婚指輪と最後の言葉。 その日から、夫婦の関係は完全に崩れ始める。 なぜ明は、命の危険にある妊娠中の妻より、別の女性を選んだのか。 そして、10年間信じ続けていた桜との“過去”には、誰も知らない秘密が隠されていた。 救助記録と証言が明らかにした真実。 それは、雪が失ったのは夫だけではなく―― 自分を守るはずだった家族そのものだった。夫婦2.0萬字5 9 -
完結第11話
一つの証拠が暴いた8年間の嘘
八年前、誰にも期待されず、孤独な海外勤務へ送られた男――朝倉洋一。 灼熱のインドで技術を磨き、ただひたすら努力を重ねた彼は、八年ぶりに日本へ帰還する。 しかし、待っていたのは栄光ではなく、同僚からの侮辱と冷たい視線だった。 そんな彼の前に現れたのは、かつて突然姿を消した初恋の女性・七瀬美咲。 「契約の鬼」と恐れられる彼女が、なぜ一介の技術者である朝倉だけを選んだのか――。 やがて社内で発生した機密情報流出事件。 犯人に仕立てられ、すべてを失いかけた朝倉を救ったのは、遠い異国で築いた一つの友情だった。 裏切り、嫉妬、そして八年越しの想い。 忘れられた男の本当の価値が、今、世界を変える。因果応報|人生逆転1.7萬字5 80 -
完結第11話
退職金より失ったもの
「退職金は俺が39年間働いて得た金だ。お前には1円も渡さない」 定年を迎えた夫の一言で、39年間家族を支えてきた妻・佳代の心は静かに壊れた。 夫は、家事も育児も介護も、妻がしてきた全てを「家にいただけ」と言い切った。 しかし翌朝、佳代が残した青いファイルを開いた夫は、初めて知らなかった事実を目にする。 そこには、39年間の家計の記録と、誰が何を支えてきたのかを示す証拠が残されていた。 「では、全部清算しましょう」 妻が選んだのは、夫の退職金を奪うことではなかった。 夫婦として積み重ねてきた時間、その価値をもう一度問い直すことだった。 2760万円の退職金よりも先に、夫が失った本当のものとは――。夫婦|退職金|金銭問題|熟年離婚1.7萬字5 201 -
完結第13話
余命半年からの再出発
余命を告げられた日、夫は離婚届を置き、息子も「必要なことがあったら連絡して」と距離を置いた。 58歳の桐谷佳代子は、病気だけでなく、33年間築いてきた家族まで同時に失った。 誰もいない台所で一人分の味噌汁を作りながら、絶望の中にいた佳代子だったが、病院で出会った人々との縁をきっかけに、少しずつ自分の人生を取り戻していく。 治療、離婚、家を失う危機。 それでも彼女は、針と糸を手に取り、病気と向き合う人のための帽子作りを始める。 家族に必要とされることでしか自分の価値を感じられなかった女性が、人生のどん底から見つけた本当の生き方とは――。人生逆転|夫婦|第二の人生2.0萬字5 180 -
完結第12話
泥まみれの客と黒塗り5台
土砂降りの夜、タクシー運転手の佐藤美咲は、泥だらけで道端に立ち尽くす1人の老人を見つけた。 他のタクシーは、車が汚れることを嫌って次々と通り過ぎていく。中には、老人をあざ笑い、泥水まで浴びせて走り去る運転手もいた。 月末までにノルマを達成できなければクビ。幼い娘の手術を控え、仕事を失うわけにはいかない美咲も、一瞬だけ迷った。 それでも彼女は車を止める。 「シートなんて洗えばいいんです」 そう言って老人を乗せ、傘を差し、温かい缶コーヒーを手渡した。 しかし翌朝、美咲を待っていたのは、汚された車両と突然の解雇通告だった。 泣き崩れる彼女の前に、5台の黒塗りの車が営業所へ現れる。 昨日の泥だらけの老人は、いったい何者だったのか。 たった1本の缶コーヒーが、彼女の人生を大きく変えていく――。因果応報|人生逆転1.8萬字5 17 -
完結第12話
200円の家族
23歳の大学生・高橋翔太は、感情を捨てたように生きていた。 友人の誘いも断り、食事も会話もすべてを「合理的かどうか」で判断する日々。そんな彼が、ある日ファミレスで会計できずに困っている母子と出会う。 所持金は300円。小さな娘を連れた母親は、夫に貯金を持ち逃げされ、住む場所さえ失っていた。 翔太は不足分の200円を支払い、さらに母子を自分の部屋へ連れて帰る。最初はただの合理的な判断。そのはずだった。 しかし、温かい手料理、少女の「ありがとう」、そして夜中に聞こえた小さな泣き声が、5年間閉ざしていた翔太の心を少しずつ揺らしていく。 なぜ彼は笑わなくなったのか。 なぜ「感情は判断を誤らせる」と言い続けるのか。 助けたはずの母子との出会いは、やがて翔太自身が封じ込めてきた過去を呼び覚ましていく――。因果応報|人生逆転1.9萬字5 4 -
完結第12話
一万八千円の飯
自分の家族が経営する5つ星ホテルで、何気なく注文した一品の炊き込みご飯。 メニューでは1,800円に見えたはずなのに、会計明細には「18,000円」と記されていた。 帰国したばかりの後継者・小川優馬は、単なる表示ミスだと思い責任者を呼ぶ。だが、レストラン責任者は「社長が承認した価格です」と言い切った。 父が守ってきたホテルで、なぜ一杯のご飯が10倍の値段になっているのか。 優馬が調べ始めると、異常な価格変更、不可解な仕入れ、法人客への不自然な請求、そして継母・里見の影が浮かび上がっていく。 やがてその小さな違和感は、20年前に亡くなった実母・秋子の死、奪われた母方の財産、腹違いの弟の秘密、そして恋人だと思っていた女性の正体へとつながっていく。 始まりは、たった一杯の炊き込みご飯だった。 だが、その18,000円の明細は、運海ホテルに隠された20年越しの闇を開く鍵だった――。因果応報|修羅場1.7萬字5 0 -
完結第12話
寿司屋で暴かれた嫁
68歳の田村節子は、息子の再婚相手である嫁・美咲を、ずっと“よくできた人”だと思っていた。 亡き夫を失い、1人暮らしになった節子の家へ通い、手料理を届け、病院の送り迎えまで申し出てくれる優しい嫁。近所の人たちからも羨ましがられ、節子自身も本当の娘のように感じ始めていた。 しかし、美咲は少しずつ、家の権利書や預金、保険の受取人について尋ねるようになる。 そんなある日、節子は美咲に誘われ、馴染みの寿司屋へ向かった。ところが店主は、美咲の顔を見た瞬間、血相を変えて叫ぶ。 「節子さん、その人から早く逃げてください」 店主の父を騙し、財産を奪った女と同じ顔――。 信じたい気持ちと、拭えない違和感。やがて節子は、嫁の荷物の中から決定的なものを見つけてしまう。 優しい嫁の正体は何者なのか。 そして節子は、息子と家を守るため、静かに反撃を始める。因果応報|相続|親子関係1.7萬字5 2 -
完結第12話
復讐とんかつの逆転便
とんかつ弁当を注文した堀川琢磨の前に現れたのは、高校時代に自分を見下していた金持ち令嬢・柏木綾音だった。 かつて高級ブランドを身につけ、貧しい琢磨を笑っていた彼女は今、実家のとんかつ店を守るため、配達員として頭を下げていた。 「お前が配達?令嬢なのに?」 復讐心に火がついた琢磨は、自分の成功を見せつけるため、何度もとんかつ弁当を注文し続ける。 だが、届く弁当の味は想像以上だった。 そしてある日、綾音が差し出した冷凍とんかつの試作品が、琢磨の運命を大きく動かしていく。 過去の屈辱、消えない傷、落ちぶれた令嬢の謝罪。 復讐のつもりで始まった注文は、やがて小さな老舗店を救い、琢磨自身の孤独な人生まで変えていく――。因果応報|人生逆転|修羅場1.7萬字5 2 -
完結第13話
消えた託児代7万円
2001年、東京の外れにある義実家で暮らす保育士のゆいは、夫の妹・安奈から何度も娘の子守りを押しつけられていた。 「保育士でしょ?」 「家族なんだから」 「今日だけお願い」 そう言われるたび、ゆいは仕事帰りに1歳のクレアを風呂に入れ、寝かしつけ、夜泣きにも起きてきた。けれど夫も義母も、それを“当然の手伝い”としか見ていなかった。 ある朝5時半、安奈は39度の熱を出したクレアを抱えて現れる。 「娘の子守りよろしく」 仕事を理由に断ろうとするゆいへ、夫は笑って言った。 「保育士なんだから慣れてるだろ。ケチくさいこと言うなよ」 その一言で、ゆいの中で何かが切れた。 なぜ安奈は、そこまで頻繁に娘を預けていたのか。 なぜ“仕事”と言って家を空ける日が増えていたのか。 そして、クレアの父親だけが知らなかった事実とは――。 便利な保育士として扱われ続けた嫁が、初めて「無理です」と告げた日、義家族の隠された嘘が静かに崩れ始める。兄弟姉妹|夫婦1.9萬字5 8