"100億の身代わり花嫁" 第3話
美咲はタブレットへを伸ばした。
画面の向こうで、男がこちらを見て笑った気がした。
「妹に触らないで!」
初めて声を荒げた。
だが蔵はしもじなかった。
「君の命にはして価値がない。しかし、妹の命なら君は何でもする」
美咲の膝から力が抜ける。
へ座り込んだ。
逃げなどなかった。
自分が警察へ駆け込めば妹が殺される。
契約を拒めば妹が殺される。
蔵に逆らっても妹が殺される。
「お願い……妹だけは」
「ならしく私の代わりになりなさい」
蔵はそれだけ言って背を向けた。
タブレットを閉じようと庄がを伸ばした、美咲は画面の隅にあるものを見つけた。
黒スーツの男の腕。
袖から覗く級腕計。
文字盤に独特の青い装飾が入っていた。
見覚えがある。
数。
披宴会で美咲を罵倒していた竜が、同じ計をしていた。
世界でもほとんど回っていない限定品だと、竜自が親族に自していたものだった。
美咲は涙を拭うふりをして線を伏せた。
なぜ。
蔵の命令で妹を監している男が、蔵と敵対しているはずの竜と同じ計をにつけているのか。
偶然とはえなかった。
翌朝、美咲は黒塗りのに乗せられた。
向かったのは、級ホテルとは比べものにならない古びた雑居ビルだった。
板には、
広告
「鳥エステート」
とかれている。
エレベーターすらない。
暗い階段をった先にある事務所には、古いデスクと話、使われていないパソコンが1台置かれているだけだった。
庄が無表で告げた。
「今からここがあなたの職です」
「何をすれば」
「話にる。取りてに来たへ、あなたが社だと説する」
「それだけ?」
「それだけです」
庄がへる。
直、鍵のかかる音がした。
から施錠された。
美咲は息を呑んだ。
本当に囚だ。
しばらくして、ドアが乱暴にいた。
「おい。婚初からこんな便所みたいな部か?」
入ってきたのは竜だった。
そのろには、いかにも裏社会のと分かる男たちが数いる。
「どうだ? 晩で国から獄へ落ちた気分は」
竜はデスクへ腰をかけた。
「68歳の爺さんのに目が眩んだ女にはお似いだな」
男たちが笑う。
「おみたいな女が鳥の財産を取れるとったのか? の程をれよ」
美咲は何も言わなかった。
俯き、ただ耐えた。
妹を守るため。
そうっていた。
だが、竜が美咲の胸元を掴みげた、美咲の線は自然と彼の首へ向いた。
やはり。
昨夜の映像で見たものと同じ計だった。
青い装飾。
特殊な文字盤。
見違いではない。
「いうちに本物の取りてが来る」
竜は元で囁いた。
「そのに会社の権利を全部俺に渡せ。
広告
そうすれば命くらいは助けてやる」
美咲をへ突きばし、竜たちはった。
残された美咲は、ゆっくりと起きがった。
蔵は竜に命を狙われていると言った。
だが、妹を監する男と竜の繋がりを蔵はっているようだった。
何かがおかしい。
そして、その疑をさらにめる話が鳴った。
黒話のベルが、静かな内へ響き渡った。
「はい……鳥エステートです」
美咲が受話器を取ると、い男の声が聞こえた。
「しい社さんで違いねえな」
美咲の背をたいものがった。
どこかで聞いたことがある。
忘れるはずがない。
「……岸島さん?」
数秒の沈黙。
直、受話器の向こうからきな笑い声が響いた。
「覚えてたか。美咲ちゃん」
全の毛穴がくような覚だった。
岸島。
父に5000万円の連帯保証を頼んだ張本。
「親友だから助けてくれ」
そう言って父を信じ込ませ、保証にしたまま姿を消した男だった。
「あんた……きてたの」
「勝に殺すなよ」
岸島は楽しそうに笑った。
「あの5000万円を元に々やってな。今じゃ鳥エステートにを貸してる側だ」
美咲のが震える。
父をへ追い込み、母を失うきっかけを作った男が、今度は自分を100億円の借で追い詰めている。
「それにしても笑ったぜ」
岸島は続けた。
「蔵の爺さんが拾った貧乏女が、まさかあの男の娘だったとはな」
美咲は歯をいしばった。
「おの親父は本当に馬鹿だった。友達を信じるなんてよ。ああいうお好しは、俺たちみたいなにわれるためにきてるんだ」
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
エレベーターの7時間
5月7日。 東京の大型デパートで突然の停電が発生した。 妊娠6か月の雪は、8人の乗客とともにエレベーターへ閉じ込められる。 救助が来るまでの7時間、彼女は自分の命よりも先に、高齢者や子供たちを守り続けた。 しかし、扉が開いた瞬間―― 救助隊長である夫・明が最初に抱き上げたのは、妻ではなく元恋人の桜だった。 「私と赤ちゃんは、もう彼を待たない」 意識を失う直前、雪が救助隊員へ託した結婚指輪と最後の言葉。 その日から、夫婦の関係は完全に崩れ始める。 なぜ明は、命の危険にある妊娠中の妻より、別の女性を選んだのか。 そして、10年間信じ続けていた桜との“過去”には、誰も知らない秘密が隠されていた。 救助記録と証言が明らかにした真実。 それは、雪が失ったのは夫だけではなく―― 自分を守るはずだった家族そのものだった。夫婦2.0萬字5 9 -
完結第11話
退職金より失ったもの
「退職金は俺が39年間働いて得た金だ。お前には1円も渡さない」 定年を迎えた夫の一言で、39年間家族を支えてきた妻・佳代の心は静かに壊れた。 夫は、家事も育児も介護も、妻がしてきた全てを「家にいただけ」と言い切った。 しかし翌朝、佳代が残した青いファイルを開いた夫は、初めて知らなかった事実を目にする。 そこには、39年間の家計の記録と、誰が何を支えてきたのかを示す証拠が残されていた。 「では、全部清算しましょう」 妻が選んだのは、夫の退職金を奪うことではなかった。 夫婦として積み重ねてきた時間、その価値をもう一度問い直すことだった。 2760万円の退職金よりも先に、夫が失った本当のものとは――。夫婦|退職金|金銭問題|熟年離婚1.7萬字5 201 -
完結第13話
余命半年からの再出発
余命を告げられた日、夫は離婚届を置き、息子も「必要なことがあったら連絡して」と距離を置いた。 58歳の桐谷佳代子は、病気だけでなく、33年間築いてきた家族まで同時に失った。 誰もいない台所で一人分の味噌汁を作りながら、絶望の中にいた佳代子だったが、病院で出会った人々との縁をきっかけに、少しずつ自分の人生を取り戻していく。 治療、離婚、家を失う危機。 それでも彼女は、針と糸を手に取り、病気と向き合う人のための帽子作りを始める。 家族に必要とされることでしか自分の価値を感じられなかった女性が、人生のどん底から見つけた本当の生き方とは――。人生逆転|夫婦|第二の人生2.0萬字5 180 -
完結第13話
実印を押さない母
3年前、「半年だけ」という約束で始まった息子一家との同居。 夫を亡くし、一人暮らしだった67歳の佐伯佳代子は、息子夫婦と孫たちを自宅に迎え入れた。最初は賑やかで温かな暮らしだったが、いつの間にか食事、洗濯、孫の送迎、生活費の負担まで、すべてが佳代子の“当然の役目”になっていく。 そんなある日、息子が何気ない口調で切り出した。 「母さん、この家さ。そろそろ俺の名義にしない?」 家族だから。どうせ将来は相続するから。リフォームのためだから。 そう説明されながらも、佳代子の胸には小さな違和感が残る。そして偶然見つけた一枚の書類には、名義変更後の家の売却と、佳代子を高齢者住宅へ移す計画が書かれていた。 家族のために黙ってきた母が、初めて自分の人生を選び直す。 名義変更の日、佳代子が判子を押したのは、家を渡す書類ではなかった――。嫁姑|親子関係|金銭問題2.0萬字5 10 -
完結第13話
消えた託児代7万円
2001年、東京の外れにある義実家で暮らす保育士のゆいは、夫の妹・安奈から何度も娘の子守りを押しつけられていた。 「保育士でしょ?」 「家族なんだから」 「今日だけお願い」 そう言われるたび、ゆいは仕事帰りに1歳のクレアを風呂に入れ、寝かしつけ、夜泣きにも起きてきた。けれど夫も義母も、それを“当然の手伝い”としか見ていなかった。 ある朝5時半、安奈は39度の熱を出したクレアを抱えて現れる。 「娘の子守りよろしく」 仕事を理由に断ろうとするゆいへ、夫は笑って言った。 「保育士なんだから慣れてるだろ。ケチくさいこと言うなよ」 その一言で、ゆいの中で何かが切れた。 なぜ安奈は、そこまで頻繁に娘を預けていたのか。 なぜ“仕事”と言って家を空ける日が増えていたのか。 そして、クレアの父親だけが知らなかった事実とは――。 便利な保育士として扱われ続けた嫁が、初めて「無理です」と告げた日、義家族の隠された嘘が静かに崩れ始める。兄弟姉妹|夫婦1.9萬字5 8 -
完結第13話
福嫁の逆転茶屋
江戸の日本橋にある茶屋「泡雪屋」の若旦那・宗介は、店の立て直しのため、評判の商人・泉屋五兵衛の娘を妻に迎えることになる。 宗介が望んでいたのは、江戸でも噂になるほど美しい姉・お花だった。美しい女将がいれば、傾きかけた店にも客が戻る。そう信じていたからだ。 しかし、五兵衛が宗介に差し出したのは、お花ではなく、ふくよかで目立たない妹・福だった。 祝言の日、客たちは陰で笑い、宗介自身も心のどこかで落胆を隠せなかった。だが、福が作る菓子と入れる茶は、少しずつ泡雪屋の空気を変えていく。 派手ではないのに忘れられない味。人の心の奥にしまわれた記憶を呼び起こす菓子。福は、宗介が見落としていた“商いで本当に大切なもの”を静かに見せていく。 やがて泡雪屋は、思いがけない形で評判を取り戻していく。 なぜ、泉屋五兵衛は美しい姉ではなく、福を宗介に嫁がせたのか。 そして若旦那が、かつて落胆した嫁に深く頭を下げることになった理由とは――。嫁姑|夫婦1.9萬字5 0 -
完結第13話
十六歳の毒薬花嫁
江戸中期、奥州郡山の大店・高野家には、余命三月と告げられた若旦那・湊がいた。 歩くこともままならず、医者からは「春までもたぬ」と見放された男。誰も嫁ぎ手など現れないと思われたその家の門を、ある冬の朝、十六歳の娘・凛が一人で叩く。 「三月なら三月、三日なら三日でも構いません」 そう言って自ら若旦那の嫁になった凛だったが、彼女には誰にも明かしていない目的があった。 苦くないはずのない薬。帳簿に増え続ける不自然な数字。井戸へ捨てられた父の形見。 病とされていた若旦那の命、罪人にされた父の名、そして大店に二十一年隠されてきた嘘。 十六歳の娘が嫁いだ本当の理由が明らかになる時、高野家の運命は大きく変わり始める。夫婦2.0萬字5 0 -
完結第11話
赤ワインの逆転離婚
因果応報|夫婦1.6萬字5 0 -
完結第11話
夫の顔と20年目の罪
8歳の事故で母と光を失った桜田はるかは、暗闇の中でピアノだけを支えに生きてきた。 父の死後、叔父に勧められるまま結婚した相手は、名門病院の跡取り息子・桜田真一。寡黙ながらも優しく、毎日花束を贈ってくれる夫を、はるかは心から信じていた。 そしてある日、20年待ち続けた角膜移植手術の順番が回ってくる。 初めて夫の顔を見られる――。 そう思って迎えた包帯を外す日。眩しい光の中で、はるかの前に立っていたのは、愛していたはずの夫とはまるで違う男だった。 「あなたは誰?」 病室に凍りつく空気。夫を名乗る男、黙り込む周囲、そして誰もが隠していた結婚の嘘。 やがてはるかは、20年前の事故と、ガーベラに隠された本当の意味へとたどり着いていく。人生逆転|夫婦|真相1.7萬字5 2