"消えた託児代7万円" 第11話
婚を祝うつもりはなかったが、何か区切りをつけたかった。
しく借りた部へ帰り、箱をけた。
1LDKの。
さなアパート。
義実より。
ずっと狭い。
それでも。
玄関をけた。
誰かのベビーカーは。
置いていない。
テレビのから。
「ゆいちゃん、お呂お願い」
と呼ばれない。
仕事が終われば。
私のが。
始まる。
私はでケーキをべながら、その静けさを初めてから楽しんだ。
しい活を始めて3かほど経った頃、拓也から久しぶりにメッセージが届いた。クレアはしい保育園にも慣れ、父方の祖父母のへ遊びにくことも増えたという。文章の最には、「迷惑でなければ、度クレアに会ってもらえませんか」とかれていた。
そのの文を読んだ、私はし驚いた。
《最、クレアがよく「ゆい」と言うんです》
まだ2歳にもならない子どもが、私のことを本当に覚えているのだろうかとった。けれど拓也によれば、お呂に入るや眠くなった、ふと「ゆい」とにすることがあるらしい。
私はスマートフォンを握ったまま、あの数かをいした。
夕をべさせた。
呂へ入れた。
髪を乾かした。
お気に入りの絵本を読んだ。
眠くなると。
胸元へ。
顔を寄せた。
夜に泣けば。
抱きげた。
当の私は、そのを自分から奪われたものだとじていた。
広告
それは違っていない。
奈や子たちのやり方は。
今でも。
許せない。
でも。
クレアとのまで。
嫌いだったわけではなかった。
私はし迷った、《もちろんです。私も会いたいです》と返事をした。
休、公園の入りで拓也と待ちわせた。
ベビーカーに乗っていたクレアは、私を見た瞬すぐには反応しなかった。以より髪が伸び、頬もしほっそりして、1歳の頃より子どもらしい表になっていた。
私はしれたところから、「クレアちゃん、こんにちは」と声をかけた。
数秒、クレアはじっと私を見ていた。
やがて。
顔が。
ぱっとるくなった。
「ゆい!」
拓也がベビーカーからろすと、クレアはいで懸命ってきた。私はしゃがみ込み、そのさな体を受け止めた。
以よりしくなっていた。
「覚えてたの?」
私は笑いながら聞いた。
クレアはを全部理解しているわけではないだろう。ただ私の首へ腕を回し、何度も「ゆい、ゆい」と繰り返した。
胸の奥がくなった。
私は泣きそうになるのを隠すため、クレアの髪を撫でた。
そのはで公園を歩き、さな滑り台で遊び、ベンチでおやつをべた。拓也は必以に私へクレアの世話を任せず、み物をすのも、汚れたを拭くのも自然に自分でやっていた。
その姿を見ながら、私は以の義実との違いをくじた。
広告
保育士の私がいれば。
全部任せる。
ではない。
父親である自分が。
まずく。
そして。
困っただけ。
のを借りる。
それが本来。
普通なのだ。
帰り際、拓也がし言いにくそうにをいた。
「実は、ゆいさんから連絡をもらうから、奈とはかなり悪くなってたんです」
私は黙って続きを待った。
奈の帰宅やスマートフォンの扱いに自然な点が増え、夫婦の会話も減っていた。拓也自、別居や婚を考えたことはあったものの、クレアがさいことを理由に決断できずにいたという。
「だから、あの連絡はきっかけだったんです」
拓也は言った。
「俺がらなかったクレアの活を教えてもらった。自分が見ようとしてなかったことも分かったし、このままじゃだめだってえた」
「私は自分を守りたかっただけです」
私が答えると、拓也は首を横に振った。
「それでいいんだといます」
私はその言葉を聞いて、し笑った。
誰かを助けるためには。
自分を犠牲に。
しなければならない。
私はどこかで。
そうっていた。
保育士だから。
嫁だから。
叔母だから。
族だから。
でも。
を切にすることと。
自分を。
粗末にすることは。
まったく違う。
それを。
ようやく理解できた。
クレアが帰り際に、私のを握った。
「また、ゆい?」
まだたどたどしい言葉だった。
私はそのを握り返した。
「うん。また遊ぼうね」
今度は。
義務ではなく。
自分で選んだ。
約束だった。
になり、私は以より自宅から通いやすい保育園へ転職した。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
エレベーターの7時間
5月7日。 東京の大型デパートで突然の停電が発生した。 妊娠6か月の雪は、8人の乗客とともにエレベーターへ閉じ込められる。 救助が来るまでの7時間、彼女は自分の命よりも先に、高齢者や子供たちを守り続けた。 しかし、扉が開いた瞬間―― 救助隊長である夫・明が最初に抱き上げたのは、妻ではなく元恋人の桜だった。 「私と赤ちゃんは、もう彼を待たない」 意識を失う直前、雪が救助隊員へ託した結婚指輪と最後の言葉。 その日から、夫婦の関係は完全に崩れ始める。 なぜ明は、命の危険にある妊娠中の妻より、別の女性を選んだのか。 そして、10年間信じ続けていた桜との“過去”には、誰も知らない秘密が隠されていた。 救助記録と証言が明らかにした真実。 それは、雪が失ったのは夫だけではなく―― 自分を守るはずだった家族そのものだった。夫婦2.0萬字5 9 -
完結第11話
追い出された私が離婚届を渡した日、夫の人生は崩れ始めた
新築の我が家に突然押しかけてきた義両親一家。 七人もの親族に家を占領され、家事も生活費もすべて押し付けられる日々。さらに夫・進は「養ってやっている」と私を見下し、ついには「お前は赤の他人だ」と言い放った。 限界を迎えた私は、静かに離婚届を差し出す。 しかし、彼らはまだ知らなかった―― 私が本当に失うものなど何もないことを。 そして、夫が隠していた重大な秘密と、一族を待ち受ける衝撃の結末を……。 これは、踏みにじられた妻が、自分の人生を取り戻すまでの逆転劇。兄弟姉妹|嫁姑1.7萬字5 111 -
完結第11話
退職金より失ったもの
「退職金は俺が39年間働いて得た金だ。お前には1円も渡さない」 定年を迎えた夫の一言で、39年間家族を支えてきた妻・佳代の心は静かに壊れた。 夫は、家事も育児も介護も、妻がしてきた全てを「家にいただけ」と言い切った。 しかし翌朝、佳代が残した青いファイルを開いた夫は、初めて知らなかった事実を目にする。 そこには、39年間の家計の記録と、誰が何を支えてきたのかを示す証拠が残されていた。 「では、全部清算しましょう」 妻が選んだのは、夫の退職金を奪うことではなかった。 夫婦として積み重ねてきた時間、その価値をもう一度問い直すことだった。 2760万円の退職金よりも先に、夫が失った本当のものとは――。夫婦|退職金|金銭問題|熟年離婚1.7萬字5 201 -
完結第13話
余命半年からの再出発
余命を告げられた日、夫は離婚届を置き、息子も「必要なことがあったら連絡して」と距離を置いた。 58歳の桐谷佳代子は、病気だけでなく、33年間築いてきた家族まで同時に失った。 誰もいない台所で一人分の味噌汁を作りながら、絶望の中にいた佳代子だったが、病院で出会った人々との縁をきっかけに、少しずつ自分の人生を取り戻していく。 治療、離婚、家を失う危機。 それでも彼女は、針と糸を手に取り、病気と向き合う人のための帽子作りを始める。 家族に必要とされることでしか自分の価値を感じられなかった女性が、人生のどん底から見つけた本当の生き方とは――。人生逆転|夫婦|第二の人生2.0萬字5 180 -
完結第13話
100億の身代わり花嫁
貧しさに追い詰められた28歳の美咲は、妹の命を救うため、68歳の不動産王・大鳥幻蔵との結婚を受け入れた。 5000万円の借金は消え、妹の手術費用も用意される。そう信じて臨んだ結婚式で、美咲は親族たちから「金目当ての女」と嘲られながらも、ただ耐え続けた。 だが初夜、幻蔵は優しい夫の顔を捨て、恐ろしい真実を告げる。 美咲は妻として迎えられたのではなかった。100億円の借金と危険な会社を押しつけられる“身代わり”として選ばれたのだ。 妹を人質に取られ、逃げ道を失った美咲。夫、親族、裏社会、病院までもが敵に回る中、彼女は静かに涙を拭う。 誰も知らなかった。 彼らが「底辺の女」と笑った美咲こそ、10年間、父の死の真相を追い続けてきた人物だったことを――。夫婦|金銭問題1.9萬字5 6 -
完結第13話
福嫁の逆転茶屋
江戸の日本橋にある茶屋「泡雪屋」の若旦那・宗介は、店の立て直しのため、評判の商人・泉屋五兵衛の娘を妻に迎えることになる。 宗介が望んでいたのは、江戸でも噂になるほど美しい姉・お花だった。美しい女将がいれば、傾きかけた店にも客が戻る。そう信じていたからだ。 しかし、五兵衛が宗介に差し出したのは、お花ではなく、ふくよかで目立たない妹・福だった。 祝言の日、客たちは陰で笑い、宗介自身も心のどこかで落胆を隠せなかった。だが、福が作る菓子と入れる茶は、少しずつ泡雪屋の空気を変えていく。 派手ではないのに忘れられない味。人の心の奥にしまわれた記憶を呼び起こす菓子。福は、宗介が見落としていた“商いで本当に大切なもの”を静かに見せていく。 やがて泡雪屋は、思いがけない形で評判を取り戻していく。 なぜ、泉屋五兵衛は美しい姉ではなく、福を宗介に嫁がせたのか。 そして若旦那が、かつて落胆した嫁に深く頭を下げることになった理由とは――。嫁姑|夫婦1.9萬字5 0 -
完結第13話
十六歳の毒薬花嫁
江戸中期、奥州郡山の大店・高野家には、余命三月と告げられた若旦那・湊がいた。 歩くこともままならず、医者からは「春までもたぬ」と見放された男。誰も嫁ぎ手など現れないと思われたその家の門を、ある冬の朝、十六歳の娘・凛が一人で叩く。 「三月なら三月、三日なら三日でも構いません」 そう言って自ら若旦那の嫁になった凛だったが、彼女には誰にも明かしていない目的があった。 苦くないはずのない薬。帳簿に増え続ける不自然な数字。井戸へ捨てられた父の形見。 病とされていた若旦那の命、罪人にされた父の名、そして大店に二十一年隠されてきた嘘。 十六歳の娘が嫁いだ本当の理由が明らかになる時、高野家の運命は大きく変わり始める。夫婦2.0萬字5 0 -
完結第11話
断髪新郎の逆転婚礼
抗がん剤治療で髪を失った彩佳は、唯一の家族である兄・健太の結婚式に出席することになった。 両親を亡くしてから、兄妹2人で支え合って生きてきた彩佳。兄の幸せを心から願い、母の形見のスカーフを巻いて式場へ向かう。 しかし、兄嫁の母・礼子は、そんな彩佳を見た瞬間、冷たい言葉を投げつけた。 「その頭で親戚席に座る気なの?」 病気の妹は縁起が悪い。式に出るな。兄との縁も切れ――。 追い詰められた彩佳の前に現れた健太は、笑顔のまま静かに言い放つ。 「では、新郎ごと帰りますか?」 その一言で礼子の顔色は変わった。 だが本当の反撃は、披露宴で用意されていた“新郎新婦、最初の共同作業”から始まる。兄弟姉妹|修羅場1.7萬字5 3 -
完結第11話
赤ワインの逆転離婚
因果応報|夫婦1.6萬字5 0 -
完結第11話
夫の顔と20年目の罪
8歳の事故で母と光を失った桜田はるかは、暗闇の中でピアノだけを支えに生きてきた。 父の死後、叔父に勧められるまま結婚した相手は、名門病院の跡取り息子・桜田真一。寡黙ながらも優しく、毎日花束を贈ってくれる夫を、はるかは心から信じていた。 そしてある日、20年待ち続けた角膜移植手術の順番が回ってくる。 初めて夫の顔を見られる――。 そう思って迎えた包帯を外す日。眩しい光の中で、はるかの前に立っていたのは、愛していたはずの夫とはまるで違う男だった。 「あなたは誰?」 病室に凍りつく空気。夫を名乗る男、黙り込む周囲、そして誰もが隠していた結婚の嘘。 やがてはるかは、20年前の事故と、ガーベラに隠された本当の意味へとたどり着いていく。人生逆転|夫婦|真相1.7萬字5 2