"実印を押さない母" 第11話
「だから?」
「私がだったより増えた活費は、ざっくり287万円」
美が顔をげた。
「そんなに?」
「固定資産税との修繕は入れてないよ」
「でも費はお義母さんもべて」
「だから全部請求するって話じゃない」
佳代子はノートを閉じた。
「ただ、私があなたたちに世話になってたみたいに言うのは、もうやめてほしい」
部が静かになった。
悠斗は階にいる。
杏奈もりてこない。
子どもたちは、何となく空気を読んでいるのだろう。
直がい声で言った。
「じゃあ、俺たちに何も残さないつもり?」
佳代子は息子を見た。
「まだ私、んでないのよ」
い言葉だった。
しかし声は静かだった。
「相続の話は、私がんだあとにして」
直は何も言えなかった。
翌から、直は本格に物件を探し始めた。
佳代子もの売却をめた。
内覧に来たのは、30代の夫婦と5歳の女の子だった。
女の子は庭へると、古い柿のを見げた。
「これべられる?」
母親が笑った。
「になったらね」
佳代子はろから言った。
「甘いですよ。毎たくさんなるから」
女の子は嬉しそうにした。
それを見て、し胸が痛んだ。
直もさい頃、このに登ろうとした。
隆司に叱られ、泣いた。
になると族で柿を取った。
を売るというのは、そういう所を放すことでもある。
しかし議なことに、佳代子は「だから売れない」
広告
とはわなかった。
いまで売買契約へ含まれるわけではない。
自分が持っていけばいい。
内覧の夫婦はを気に入った。
ただし、入居は翌4以を希望している。
直の退期限とほぼ同じだった。
産会社の担当者が言った。
「条件としてはかなりいます」
佳代子は晩考えた。
翌朝。
夫の仏壇のへ座った。
「売っていい?」
もちろん返事はない。
佳代子はし笑った。
「あなた、こういう何も言わないからずるいね」
夫がきていたなら、見が割れたかもしれない。
けれど、今を維持するのも売るのも自分だ。
決める責任も自分にある。
そのの午、産会社へ話した。
「めてください」
契約が決まった。
買主側の事と直の退を条件に、引き渡しは4。
佳代子自も、そのにしいマンションへ移る予定にした。
直へ話すと、今度は鳴らなかった。
い黙ったあと、
「本当に売るんだ」
と言った。
「うん」
「父さんとのなのに」
「そうだね」
「平気なの?」
佳代子はし考えた。
「平気じゃないよ」
それでも売る。
寂しいことと、違っていることは同じではない。
直は、その言葉を聞いて初めて何も責めなかった。
3になると、のは段ボールだらけになった。
直は同じ学区内の3LDKの賃貸マンションへ移ることになった。賃は12万8000円で、駐を入れると14万円を超える。
広告
最初に聞いた、直は「こんなにかかるのか」と何度も言った。
佳代子は何も言わなかった。
自分が10万円を提示した、「親が息子からそんなに取るのか」とっただった。
現実の賃は、それよりかった。
美は以より疲れて見えた。
仕事、事、引っ越し準備。
けれど佳代子は伝いすぎないようにした。
杏奈と悠斗の荷造りだけは緒にした。
悠斗は昔の玩具を次々捨てようとし、杏奈は逆に何でも取っておきたがった。
「これ、ばあばのに置いていい?」
杏奈が学の卒業アルバムを持って聞いた。
「しいに持っていきなさい」
「い」
「自分の物でしょう」
「ばあば変わった」
「何が?」
「ならいいよって言った」
佳代子は笑った。
「が甘すぎたの」
杏奈も笑った。
引っ越し週、美がで佳代子の部へ来た。
「しいいですか」
「どうぞ」
美はへ座った。
しばらく何も言わなかった。
「私、お義母さんに謝らないといけないとって」
佳代子は待った。
「最初、本当に半のつもりだったんです」
「うん」
「でも楽だったんです」
美は正直に言った。
仕事から帰ればご飯がある。
子どもがをしても仕事を休まなくていい。
賃もい。
洗濯物まで畳まれている。
最初は申し訳ないとった。
そのうち「お義母さんも孫と緒で嬉しいだろう」と考えるようになった。
「勝ですよね」
佳代子はすぐに否定しなかった。
「そうだね」
美がし笑った。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
追い出された私が離婚届を渡した日、夫の人生は崩れ始めた
新築の我が家に突然押しかけてきた義両親一家。 七人もの親族に家を占領され、家事も生活費もすべて押し付けられる日々。さらに夫・進は「養ってやっている」と私を見下し、ついには「お前は赤の他人だ」と言い放った。 限界を迎えた私は、静かに離婚届を差し出す。 しかし、彼らはまだ知らなかった―― 私が本当に失うものなど何もないことを。 そして、夫が隠していた重大な秘密と、一族を待ち受ける衝撃の結末を……。 これは、踏みにじられた妻が、自分の人生を取り戻すまでの逆転劇。兄弟姉妹|嫁姑1.7萬字5 111 -
完結第14話
一杯の鍋が変えた人生
柏優太は、職場でのパワハラが原因で心を壊し、半年間ほとんど誰とも話さず部屋に閉じこもっていた。 そんなある日、隣に引っ越してきた母子3人の姿を見かける。 「何も買えなくてごめんね」と泣く母親と、空腹を我慢する子供たち。 過去に大切な友人を救えなかった後悔を抱えていた優太は、思わず声をかける。 「よかったら……うちで鍋しませんか」 一杯の鍋をきっかけに、孤独だった男と傷ついた母子の人生が少しずつ変わり始める。 しかし、温かな時間の裏には、母親が隠していた過去と、子供たちを取り戻そうとする元夫の存在があった。 誰かを救おうとした優太が、実は自分自身も救われていた――。 小さな優しさから始まった、再生と家族の物語。人生逆転|第二の人生|親子関係2.2萬字5 93 -
完結第13話
優しい彼の家族計画
父の死後、支えになってくれた男性・健司と出会う。 彼は優しく、私の悲しみを理解してくれる人だと思っていた。 しかしある日、健司は泣きながら頼んできた。 「姉が夫の暴力から逃げてきた。少しだけ家に置いてほしい」 私は母と相談し、幼い娘を連れた彼の姉を受け入れる。 だが、それは始まりにすぎなかった。 姉は家事も生活費も負担せず、冷蔵庫を勝手に使い、家のことを調べ始める。 そして健司は突然言った。 「姉も家族になる。結婚したら、この家で一緒に暮らそう」 違和感を覚えた私は、姉の過去を調べ始める。 そこで知ったのは―― 彼女はDV被害者ではなかった。 以前にも同じ方法で他人の家に入り込み、生活を支配していたのだ。 さらに健司も、姉を助けるためではなく、最初から私の家を利用する目的で近づいていた。 信じていた優しさは、すべて計算だった。 家を奪われかけた私は、母とともに証拠を集め、法的手段へ進む。 「人を助けたい」という善意につけ込んだ家族の嘘。 失ったものを取り戻すため、私は本当の敵と向き合うことになる――。嫁姑2.0萬字5 34 -
完結第11話
退職金より失ったもの
「退職金は俺が39年間働いて得た金だ。お前には1円も渡さない」 定年を迎えた夫の一言で、39年間家族を支えてきた妻・佳代の心は静かに壊れた。 夫は、家事も育児も介護も、妻がしてきた全てを「家にいただけ」と言い切った。 しかし翌朝、佳代が残した青いファイルを開いた夫は、初めて知らなかった事実を目にする。 そこには、39年間の家計の記録と、誰が何を支えてきたのかを示す証拠が残されていた。 「では、全部清算しましょう」 妻が選んだのは、夫の退職金を奪うことではなかった。 夫婦として積み重ねてきた時間、その価値をもう一度問い直すことだった。 2760万円の退職金よりも先に、夫が失った本当のものとは――。夫婦|退職金|金銭問題|熟年離婚1.7萬字5 201 -
完結第12話
DNA鑑定が暴いた元夫の大きな間違い
出産直後、山野リサは義母から「生まれた娘は本当に息子の子なのか」と身に覚えのない不貞を疑われ、さらに夫・ただしからも信頼を裏切る言葉を浴びせられる。DNA鑑定で親子関係が証明されても、二人は過ちを認めず、リサと幼い娘カナを家から追い出してしまう。 絶望の中、実家へ戻ったリサは両親の支えを受け、母として娘を守る決意を固める。努力を重ねてキャリアを築き、カナと共に幸せな人生を歩んでいた。 8年後、華やかな企業パーティーで再会したのは、落ちぶれた元夫と元義母だった。一方、成長したカナは優秀な少女へと成長し、リサには新たな人生を共に歩む大切な存在がいた。 かつて母娘を捨てた二人は後悔し、許しを求める。しかし、リサは過去に向き合い、毅然と決別する。 愛する娘を守り抜いた一人の母が、傷を乗り越え、本当の家族と幸せを手に入れる再生の物語。嫁姑|真相1.8萬字5 48 -
完結第16話
閉ざされた玄関の暗証番号
田園調布の豪邸で暮らす田中勇気と妻・桜。勇気は一人暮らしになった母・澄子を思い、妹の弓とともに同居を始める。しかし、その優しさは次第に家族の境界線を曖昧にしていった。 勇気が海外出張中、桜は高熱で倒れながらも義母の来客対応を強いられる。初めて「できません」と拒んだ彼女に、澄子は怒りを募らせ、桜本人の意思を無視して荷物をまとめ、家から追い出してしまう。 夫に心配をかけまいと黙って耐える桜。しかし異変を感じた勇気は急いで帰国し、隠されていた真実を知る。 妻を守れなかった自分の過ち、そして母が家族への感謝を「支配する権利」と勘違いしていたことに気づいた勇気は、家族の在り方を見直す決断をする。 本当の家族とは何か。愛情と依存の違いを描く、再生と絆の物語。嫁姑|第二の人生|修羅場2.4萬字5 10 -
完結第15話
消えた実印
嫁が実印を隠した本当の理由。 姑が泥棒だと思った相手は、家を守るために動いていた。 70歳の誕生日を前に、仏壇から消えた大切な実印。 前日に家へ来ていたのは、長男の嫁・香織だけだった。 家の売却を調べていた嫁。 勝手に印鑑を持ち出した嫁。 文江は、すべてを裏切りだと思っていた。 しかし、弁護士から届いた一通の書類によって、隠されていた真実が明らかになる。 母の家を売ろうとしていた本当の人物は誰なのか。 そして、嫁が命をかけて守ろうとしていたものとは――。嫁姑|親不孝2.3萬字5 98 -
完結第12話
寿司屋で暴かれた嫁
68歳の田村節子は、息子の再婚相手である嫁・美咲を、ずっと“よくできた人”だと思っていた。 亡き夫を失い、1人暮らしになった節子の家へ通い、手料理を届け、病院の送り迎えまで申し出てくれる優しい嫁。近所の人たちからも羨ましがられ、節子自身も本当の娘のように感じ始めていた。 しかし、美咲は少しずつ、家の権利書や預金、保険の受取人について尋ねるようになる。 そんなある日、節子は美咲に誘われ、馴染みの寿司屋へ向かった。ところが店主は、美咲の顔を見た瞬間、血相を変えて叫ぶ。 「節子さん、その人から早く逃げてください」 店主の父を騙し、財産を奪った女と同じ顔――。 信じたい気持ちと、拭えない違和感。やがて節子は、嫁の荷物の中から決定的なものを見つけてしまう。 優しい嫁の正体は何者なのか。 そして節子は、息子と家を守るため、静かに反撃を始める。因果応報|相続|親子関係1.7萬字5 2 -
完結第12話
朝5時の鬼電話
朝5時。 橋本日向のスマートフォンに、義母・京子から鬼のような電話がかかってきた。 「息子と0歳児の娘を放置して朝帰り? あなた、母親失格よ」 しかし日向には、何の覚えもなかった。 生後6か月の娘を育てながら、毎日夫の弁当を作る彼女に、夜遊びする時間など存在しない。 それなのに近所では、 「幼い子供を置いて遊び歩く妻」 という噂が広がっていた。 夫・大輝は妻を信じ、真相を確かめるため実家へ向かう。 そこで見つけたのは―― 日向と同じ服。 日向と同じバッグ。 そして、自分たちの写真を改ざんした証拠。 すべての裏にいたのは、夫の妹・明里だった。 なぜ彼女は義姉になりすまし、人生を壊そうとしたのか。 兄への歪んだ執着。 家族だから許されると思い込んだ狂気。 朝5時の一本の電話から始まった騒動は、やがて夫婦が本当に守るべきものを明らかにしていく。 愛情と執着を履き違えた家族の嘘が、静かな日常を崩していく――。嫁姑1.8萬字5 12 -
完結第13話
100億の身代わり花嫁
貧しさに追い詰められた28歳の美咲は、妹の命を救うため、68歳の不動産王・大鳥幻蔵との結婚を受け入れた。 5000万円の借金は消え、妹の手術費用も用意される。そう信じて臨んだ結婚式で、美咲は親族たちから「金目当ての女」と嘲られながらも、ただ耐え続けた。 だが初夜、幻蔵は優しい夫の顔を捨て、恐ろしい真実を告げる。 美咲は妻として迎えられたのではなかった。100億円の借金と危険な会社を押しつけられる“身代わり”として選ばれたのだ。 妹を人質に取られ、逃げ道を失った美咲。夫、親族、裏社会、病院までもが敵に回る中、彼女は静かに涙を拭う。 誰も知らなかった。 彼らが「底辺の女」と笑った美咲こそ、10年間、父の死の真相を追い続けてきた人物だったことを――。夫婦|金銭問題1.9萬字5 6