"名前のない弁当箱" 第5話
正は業を卒業、別の械会社で5働き、最の産管理と営業を学んでから実へ戻った。古い旋盤と職の勘だけに頼る父のやり方では、増え続ける注文に対応できないと考えたからだ。
「しい自旋盤を入れれば、産量は今の3倍になります」
正が作った計画を見て、源郎は眉を寄せた。械を買うにはからきな借をしなければならない。
「仕事が途切れたら、返せなくなる」
「仕事を取るために械が必なんだ。いつまでも漏りするのままでは、若いも来ない」
親子は何度も衝突した。正はをきくしたかったのではない。父と母が苦労して守ってきた所を、代にわせて続させたかった。しかし源郎には、息子が利益ばかりを追い、の切なものを切り捨てようとしているように見えた。
やがて正の計画が認められ、しい旋盤が導入された。作業効率はがり、売りげも伸びたが、械を扱えない配の職が居所を失い始めた。
そのが、創業から働いていた戸徳治だった。戸はがほとんど聞こえず、数字を読むのも得ではない。だが、属を叩いた音だけで材料の状態を見抜ける職だった。
「戸さんには、倉庫の理を担当してもらう」
正が配置転換を告げると、戸は黙って頷いた。
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そのの帰り、彼は誰もいないで、使った槌を布に包んでいた。
源郎はそれを見て、正を呼びつけた。
「あいつを辞めさせるつもりか」
「辞めろとは言っていない。しい仕事を頼んだだけだ」
「職から槌を取りげておいて、それは通らん」
「でも今の製品は、戸さんの勘だけでは規格を満たせない。もし良品をしたら、全員の仕事がなくなるんだ」
源郎は反論できなかった。息子の言っていることは正しい。それでも、正しい判断がのをく傷つけることはある。
翌の昼、15の弁当が届いた。には戸の好きな稲荷寿司と、歯の悪い彼でもべられる柔らかな煮物が入っていた。
源郎は皆ので、初めて弁当の由来をしだけ話した。
「これは昔、こので腹を空かせていたたちから届いている。誰がどのを作っているかは言わん。ただ、あの頃は皆、腕があるかどうかを問われるに、きる所を必としていた」
正は父の言葉が、自分へ向けられていると分かった。
その晩、正は戸の作業台へった。槌を返せとは言わなかった。その代わり、しい械で作られた部品の最終検査を頼んだ。
「音を聞いて、良品を見つけてもらえませんか」
戸はしばらく正を見つめ、それから布に包んだ槌を取りした。
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最初の1かで、戸は若い社員が見逃した良品を7個見つけた。械では測れない微妙な歪みを、叩いた音から聞き分けたのだ。やがて戸の検査方法は若に受け継がれ、しい技術と古い経験がので結びついていった。
正はその、父の考えを初めてし理解した。を守ることと、変化を拒むことは同じではない。切なのは、変わる途で誰かを置きりにしないことだった。
しかしが順調に成し始めた矢先、取引先から突然、注文打ち切りの通が届いた。
理由は、さらにく作る別のが見つかったからだった。
への返済は残っていた。従業員は以の倍に増えている。正が数字を計算すると、3かには料を払えなくなることが分かった。
昭20代の苦境が、形を変えて再び本鉄所へ迫っていた。
注文打ち切りのらせを受けた翌朝、正は社員たちへ事を説しようとした。だが源郎は、「まだ話すな」と止めた。
「隠してどうする。いずれ分かる」
「分かるまでに、俺たちが仕事を取ればいい」
「取れなかったら?」
源郎は答えなかった。若い頃なら自宅の米を分ければ数をしのげたが、今のには28の社員と、その族の活がかかっている。気持ちだけでは越えられない壁だった。
正はしい取引先を探して都内を歩き回った。
しかし規模のさな本鉄所に、きな注文を任せようとする会社はなかった。
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