"返されなかった合鍵" 第3話
しばらくして、女の声が聞こえた。
『今は、415です』
緊張しているのか、ゆっくりと区切るような話し方だった。
『おじさんが、何でもいいから話していいと言いました。でも何を話したらいいか分かりません』
千鶴は子へ座った。
女は雅夫を「おじさん」と呼んでいる。
『今、学で席替えをしました。窓側になりました。隣は佐々君です。授業ずっと消しゴムを切っているので嫌です』
しれたところで、雅夫の笑う声が入っていた。
若い声だった。
『笑わないでよ』
『ごめん、ごめん』
『おじさんは、絶対に途で止めるなって言ったでしょう』
『止めてないよ』
『笑うのもだめ』
『分かった』
女は学の話を続けた。
のコロッケ。
苦な算数。
体育で転んだこと。
友達から借りた本。
何の変哲もない、学の常だった。
テープの最で、女が尋ねた。
『これは誰が聞くの?』
雅夫が答えた。
『いつか、聞きたいが聞く』
『誰?』
『今は言えない』
『変なの』
そこで録音は終わっていた。
千鶴は再ボタンががってもけなかった。
夫の声は、で聞いたことのないほど優しかった。
奈が子どもの頃、雅夫はあんなふうに話を聞いただろうか。仕事で帰りが遅く、休は疲れて寝ていることがかった。奈の学活についても、通表を見ながら「頑張ったな」と言うくらいだった。
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らない女には笑いながら付きい、自分の娘にはを使わなかった。
りと嫉妬が込みげた。
「美咲という子は、いつまで来ていたんですか」
「学になる頃までです」
「そのは?」
「来なくなりました」
「主は部を解約しなかった」
「はい」
「なぜ?」
「待っていたのだといます」
理恵は、押し入れの方を見た。
千鶴はちがり、襖をけた。
には段ボールが4箱あった。
つ目には、子どもの絵や作文。
つ目には、教科とノート。
つ目には、赤いランドセル。
つ目には、女児用のと、片方だけのい運靴。
ランドセルの内側に、名がかれていた。
《岡野美咲》
千鶴はその名字をどこかで見た気がした。
けれど、すぐにはいせなかった。
机の引きしをける。
の振込細が束になっていた。
受取はすべて同じだった。
《オカノ ユウコ》
雅夫は2001から、毎3万円を振り込んでいた。途から額は5万円になり、7まで続いている。
「美咲の母親ですね」
千鶴は言った。
理恵は答えなかった。
千鶴は細を机へ投げた。
証拠は揃っていた。
女の持ち物。
母親への送。
秘密の部。
25の賃。
夫は別の庭を支えていた。
千鶴は、雅夫がぬ直まで握っていたをいした。そので、自分のらない女へ毎を送っていた。
泣きたくはなかった。
けれど界が歪んだ。
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その、机の奥にあるさな封筒が目に入った。
《千鶴へ》
また雅夫の字だった。
封を切る。
には、枚のしか入っていなかった。
《美咲は、私の娘ではない》
千鶴は息を止めた。
そのには、続きがあった。
《だが、君がらなければならない子だ》
千鶴は、の続きを探した。
封筒のにも、机の引きしにも、それ以の説はなかった。
《美咲は、私の娘ではない。だが、君がらなければならない子だ》
雅夫はいつもそうだった。
事な話ほど、相に分かるように説しない。自分のでは筋が通っているから、い言葉だけで伝わるとっていた。
結婚したばかりの頃、帰宅しない夫を配して職へ話したことがある。翌朝帰ってきた雅夫は、「伝っていた」とだけ言った。
誰を。
何のために。
なぜ連絡できなかったのか。
千鶴がつずつ尋ねて、ようやく同僚のが事になり、片づけを伝っていたと分かった。
善でする方、説がりない。
そのため千鶴は何度もり、雅夫は「悪いことをしたわけじゃない」と黙り込んだ。
203号も同じなのか。
悪いことではないから、話す必がないとっていたのか。
25も。
「岡野裕子さんは、どこにいるんですか」
千鶴は理恵に尋ねた。
「8にくなっています」
「美咲さんは?」
「分かりません」
「主から何も聞いていないんですか」
「ご主が最に美咲ちゃんと会ったのは、2004だといます。その、何度かをしていましたが、返事はなかったようです」
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