"返されなかった合鍵" 第11話
「できます」
拒まれたが、千鶴は傷つかなかった。
でかなければならない所もある。
それを理解できるようになっていた。
203号の退は、630に決まった。
契約から25と3か。
最の、千鶴と奈は朝から部を片づけた。理恵が業者を配してくれたが、何を捨てるかは自分たちで決めたかった。
美咲の類。
古い教科。
壊れた鉛削り。
裕子が使っていた湯呑み。
雅夫の折り畳み傘。
つずつ袋へ入れる。
物には、それぞれ誰かのが付着していた。
だからといって、すべてを残す必はない。
雅夫の録音テープは千鶴が持ち帰った。
度聞けば分だとっていたが、捨てられなかった。
「まだってる?」
奈が尋ねた。
「誰に?」
「お父さん」
千鶴は雑巾を絞りながら考えた。
「ってる」
「まだ?」
「くなったら、る期限も終わるの?」
奈が笑った。
「に私が言ったこと、そのまま使ったでしょう」
「良い言葉は何度でも使うの」
千鶴は窓の桟を拭いた。
「でも、とはし違う。は、お父さんのしたこと全部が裏切りにえた。今は、助けたことと裏切ったことは別だとってる」
「助けたことは良かった?」
「美咲さんがきている。それは良かった」
「族に黙ったことは?」
「許してない」
千鶴は迷わず答えた。
「両方でいいのよ。派だったか、ひどいだったか、どちらかに決めなくていい」
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夫婦でいた41にも、正解はつではなかった。
幸せだった。
婚を考えた。
何も話さず夕をべた。
旅先で笑った。
同じにいるのに、だとじた夜。
すべてが結婚活だった。
午、理恵が退の確認に来た。
空になった部を見回し、壁やにきな傷がないかを調べる。
「父から聞いた話があります」
理恵が言った。
「野寺さんが、この部を借りたのことです」
当の管理だった理恵の父は、雅夫へ何度も確認したという。
誰もまない部に賃を払うのか。
保証はどうするのか。
族はっているのか。
雅夫は最の質問に答えなかった。
「父は、奥さまに話した方がいいと言ったそうです」
千鶴は窓を閉めるを止めた。
「主は何と?」
「話せば、妻は緒に背負うと言う。だから話せない、と」
千鶴は笑った。
「勝なですね」
「はい」
理恵があっさり同したので、奈が吹きした。
「管理さん、そこは否定するところじゃないですか」
「父も同じことを言ったそうです。奥さんが背負うかどうかは、奥さんが決めることだと」
雅夫は聞かなかった。
自分だけで背負うつもりだった。
しかし実際には、千鶴も奈も理由をらないまま、そのさを分けさせられた。
黙っていれば、自分の責任になるわけではない。
秘密の周りにいるは、名のない負担を背負う。
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「夫に、きているうちに聞かせたかったです」
千鶴が言った。
「本当に」
理恵も笑った。
片づけが終わると、千鶴は鍵を返した。
のひらに25あった秘密が、ようやくれていく。
理恵は類へ退済みの印を押した。
「い、ありがとうございました」
「私はも借りていませんけどね」
「最に返した方が、借主です」
青葉荘をると、がり始めていた。
奈が傘をく。
千鶴も自分の傘を取りそうとしたが、荷物がくてうまくけない。
「緒に入れば?」
奈が傘を傾けた。
「狭いでしょう」
「子どもの頃は、いつも緒に入ってたよ」
2で本の傘に入った。
肩が濡れた。
駅までのを歩きながら、奈が言った。
「私、また絵を描こうかな」
千鶴はを止めそうになった。
「美術学のこと?」
「今さら学へくわけじゃないよ。民講座に、週末の絵画教があるの」
「けばいいじゃない」
「娘が受験だから、忙しいんだけどね」
「受験は娘がするんでしょう」
奈が笑った。
「お母さんがそれ言う?」
「昔の自分が違っていたなら、今は違うことを言ってもいいでしょう」
「うん」
奈はを向いた。
「申し込んでみる」
千鶴は娘の横顔を見た。
失ったは戻らない。
18歳の奈は、美術学へけなかった。
48歳から絵を始めても、同じにはならない。
けれどは、失ったへ戻ることだけがやり直しではない。
今いる所から、別の歩を選ぶこともできる。
駅へ着く頃には、がくなっていた。
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