"返されなかった合鍵" 第12話
傘からはみした千鶴の肩は、すっかり濡れていた。
それでも傘をもう本そうとはわなかった。
になり、美咲からさな荷物が届いた。
には、赤いランドセルの革を使って作った3つのしおりが入っていた。
つは美咲。
つは美咲の娘。
最のつは千鶴へ。
《全部は残せませんでしたが、部だけ形を変えました》
には、母親のテープをしずつ聞いているとかれていた。
度に本。
聞いたは、必ずを歩く。
母親の声と緒に部へ閉じこもらないためだという。
墓へもった。
最初は何を話せばいいか分からず、墓ので30分っていた。結局、「遅くなってごめん」とだけ言った。
《母を許したのかは、まだ分かりません。でも、会いにけなかった自分を、しだけ許したいとっています》
千鶴はを仏壇ので読んだ。
雅夫の遺の横に、美咲が持ってきた族写真がある。
「美咲さん、お母さんに会いにったって」
遺へ話しかける。
「あなたが聞きたかったかはらないけど」
返事はない。
千鶴はランドセルのしおりを、読みかけの本へ挟んだ。
雅夫がくなって8か。
暮らしにもしずつ慣れた。
朝はパンとコーヒーだけのが増えた。洗濯物は2に度でりる。夕に雅夫の嫌いだった鯖を焼き、好きだった里芋はあまり買わなくなった。
広告
寂しいとうもある。
自由だとうもある。
その両方をじる自分に、最初は罪悪があった。
今は、どちらも本当だとっている。
10のある、奈から絵画教の展覧会へ来てほしいと言われた。
民センターのさな展示だった。
壁には景画、静物画、物画が並んでいる。奈の絵は番奥にあった。
古い畳。
窓際に机。
机のにはラジカセとカセットテープ。
誰もいない203号だった。
題名は、
《返された鍵》
千鶴は絵のでち止まった。
「部を描いたの?」
奈が隣へ来た。
「写真に撮っておいたから」
「は描かなかったのね」
「誰を描けばいいか分からなかった」
雅夫。
裕子。
美咲。
千鶴。
奈。
あの部には、んでいないのがいくつも置かれていた。
を描けば、そのの物語になる。
誰も描かなければ、見るが自分の記憶を置ける。
「良い絵ね」
千鶴が言うと、奈は疑わしそうな顔をした。
「本当に?」
「母親だから言ってるとってる?」
「し」
「母親だから言ってる部分もある」
奈は笑った。
「正直だね」
絵を見ていると、ろから女の声がした。
「おばあちゃん」
奈の娘・だった。
受験を控えているが、最、について母親と見がわないらしい。は物関係の仕事に興があり、県の専学も調べていた。
帰りに3で喫茶へ入った。
広告
奈が席をした、がさな声で尋ねた。
「お母さん、県はおがかかるって言うんだよね」
千鶴は返事に迷った。
昔なら奈と同じことを言っただろう。
計を考えなさい。
現実を見なさい。
だけでは活できない。
どれも違った言葉ではない。
ただ、それだけで話を終わらせてはいけないことをった。
「おがかかるのは本当でしょうね」
が落胆した顔をする。
千鶴は続けた。
「でも、いくら必なのか、奨学があるのか、自宅から通える学と何が違うのか、全部調べてから話しなさい」
「反対しないの?」
「私が決めることじゃないもの」
奈が戻ってきた。
「何の話?」
「内緒」
が言った。
「おばあちゃん、すぐ孫の方するんだから」
奈は笑ったが、千鶴は真面目に答えた。
「方するのと、何でも賛成するのは違うわよ」
「分かってる」
奈はのにケーキを置いた。
「帰ったら、学の資料見せて」
の顔がるくなった。
千鶴はコーヒーをんだ。
過は変えられない。
奈の18歳をやり直すこともできない。
けれど千鶴が変われば、その先にいるとの会話はし変わる。
が残した悔は、次の世代へ渡すしかないとは限らない。
途で形を変えることもできる。
赤いランドセルが、3枚のしおりになったように。
雅夫の周忌の、族が千鶴のへ集まった。
奈の夫と。
雅夫の弟夫婦。
所にむ従姉。
さな仏はでいっぱいになった。
法が終わり、事を始めた頃、玄関のチャイムが鳴った。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
空港に置き去りにされた妻は、もう帰らない
欧州出張から帰国したゆりを、夫と義母は成田空港へ置き去りにした。「四時間歩いて来い」と笑いながら、彼女を貧しいラーメン屋の娘だと見下して。 彼女は、夫の不倫や会社資金四千八百万円の横領を示す証拠を、すでに揃えていた。 空港から一本の電話をかけた三時間後、取引停止が相次ぎ、夫の会社は大混乱に陥る。嫁姑|夫婦|修羅場1.8万字5 335 -
完結第20話
結婚翌朝、五分遅れの朝食が暴いた秘密
結婚翌朝、朝食が五分遅れただけで、夫から親族全員の前で平手打ちされた管理栄養士の美咲。彼女は謝る代わりに、義父の御膳を床へひっくり返し、「食べさせられません」と告げる。 美咲が遅れたのは、心臓病を患う義父のために味噌汁を作り直していたからだった。義母から渡された“秘伝のタレ”には、義父の薬と組み合わさると命に関わる危険な成分が含まれていた。 しかも瓶の底には、義母自身の筆跡で《服用厳禁/致死性不整脈誘発確認済》と残されていた。単なる嫁いびりではなく、八年前から続く恐ろしい企みが明らかになり、夫と親族の立場は一気に逆転する。怒り|嫁姑|夫婦|裡の顔|修羅場1.9万字5 740 -
完結第23話
母の小さな食卓
三年ぶりに実家へ帰った直人は、母の誕生日の食卓に、ご飯と味噌汁、漬物しかないことに驚く。冷蔵庫もほぼ空なのに、玄関には弟へ渡す高価なりんごが三箱も積まれていた。 さらに母の通帳には、弟へ毎月八万円を送った記録が残されていた。弟ばかりを優先する母への古い不満がよみがえるが、その金は、直人が失業した三年前から、息子・悠人の学費として渡されていたものだった。裡の顔|親子関係|修羅場2.8万字5 582 -
完結第12話
母に贈った家を狙う親戚夫婦
母への恩返しに建てた家へ帰ると、親戚夫婦が勝手に住み着き、食卓を囲んでいた。しかも二人は近所に「自分たちの新居だ」と触れ回り、家まで奪おうとしていた。 裕子は怒鳴らず、警備会社への一本の電話をきっかけに、入退室記録、録音、登記、映像を着実に集めていく。 これは家を取り戻すだけでなく、断れずに生きてきた母が初めて「ここは私の家です」と声を上げる物語。静かな反撃と、母娘が本当の安心を取り戻す再生の一篇。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場1.8万字5 594 -
完結第12話
二十六年目の告白
余命わずかな夫・浩司は、妻ゆみに衝撃の告白をする。二十六年前、ゆみが産んだ息子と愛人の子を、病院で密かにすり替えたというのだ。 だが、ゆみはすべてを知っていた。夫の行動を目撃し、名札を元へ戻していたため、浩司が愛人の子だと信じて溺愛してきた誠は、紛れもなくゆみの実子だった。夫婦|真相|親子関係|修羅場|不倫1.7万字5 603 -
完結第16話
赤いガーベラと私の家
母の形見の絵を嫁に勝手に売られ、家事を当然のように押しつけられてきた50歳の愛子。限界を迎えた彼女は、母の保険金で購入した小さな家へ一人で移り住む。 ところが長男夫婦は、新居まで「実家」と決めつけ、家事をしてもらうつもりで強引に引っ越そうとする。愛子は荷物の受け取りを拒み、専門家の助言を得て、同居を認めない意思を書面ではっきり示す。 やがて母の絵は親切な購入者の手によって戻り、愛子は長男夫婦に「この家にあなたたちの部屋はない」と告げる。彼女が去った古い家では、夫も息子夫婦も、これまで愛子が背負っていた家事の重さを初めて知ることになる。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|金銭問題1.6万字5 371 -
完結第20話
祖父の土地を勝手に道路にされたので、自販機を置いた
建設コンサルタントとして働く雪は、祖父の私有地が無断で舗装され、完成間近のタワーマンションの進入路として使われていることを知る。 開発を主導していたのは、学生時代から雪に異常な執着を見せていた川端武郎。彼は土地を「事実上の道路」として申請し、所有者の承諾がないまま建築確認を通していた。怒り|祖父母と孫|裡の顔|修羅場2.1万字5 310 -
完結第12話
私にだけハズレ料理を出す義母の誤算
月に一度の義実家での食事会。真希にだけ、焦げたご飯、肉のない煮物、殻付きのエビ、骨だらけの刺身が出される。しかし夫・隆は「偶然だ」「被害妄想だ」と、母親を庇い続けた。 妊娠を知った真希は、わが子を守るため、記録を残しながら静かに脱出の準備を始める。そんな中、義母は「誰がハズレを引くかしら」と、中身の違うメンチカツを食卓へ並べた。 真希が選んだ一つを切ると、中から現れたのは肉ではなく、形を整えたかまぼこ。長年「偶然」で隠されてきた嫌がらせが、夫と義父の前で初めて暴かれる。怒り|嫁姑|夫婦|修羅場1.3万字5 1392 -
完結第20話
家族投票の三日後
お盆の親族会で、地味な事務員として働く美緒は、姉から「家族の投票で決めた。今すぐ出ていけ」と追放を宣告される。両親も親戚も、姉の婚約者も笑って賛成した。 しかし彼らは知らなかった。倒産寸前だった老舗旅館を救い、土地と建物を買い取った真の所有者が、美緒であることを。彼女が姿を隠して注ぎ続けた資金がなければ、旅館は一か月も維持できなかった。 美緒が援助を止めると、家族の浪費と巨額の不正支出が露見する。さらに姉の婚約者も、旅館の資産を利用して自社の損失を埋めようとしていた。そして三日後、華やかな結納の最中、執行官と弁護士が現れる。怒り|嫁姑|金銭問題|修羅場1.9万字5 965 -
完結第12話
夕飯のカレーを笑った友人が、私のレシピを欲しがった
「夕飯にカレーなんてありえない。家族がかわいそう」 友人・真理子の何気ない一言に傷ついた由美子。ところが後日、その真理子から文化祭で出すカレーのレシピ作りを頼まれる。 試作、材料計算、衛生管理まで担った由美子だったが、完成した料理はいつしか「真理子の家庭の味」として紹介され、自分の名前だけが消されていた。さらにそのレシピは、公民館の料理講座でも真理子の実績として使われようとする。 由美子は初めて「大丈夫」と笑って引き下がることをやめ、自分が担った仕事を記録とともに伝える。これは一皿のカレーをめぐる争いではない。親切と友情の陰で軽く扱われてきた女性が、自分の努力と暮らしに境界線を引き直す物語。怒り|裡の顔|修羅場2.3万字5 307