"返されなかった合鍵" 第13話
美咲だった。
「急にすみません」
にはいを持っていた。
千鶴は以、法の付をにいた。来てほしいとは言わなかったが、美咲は覚えていたらしい。
「がってください」
親族へどう説するか迷った。
雅夫が支援していた女性の娘。
それだけで嘘ではない。
美咲は仏壇のへ座った。
遺を見つめ、を供えた。
「野寺さん」
さく呼ぶ。
「母のテープ、全部聞きました」
誰に聞かせるでもない声だった。
「最の本で、母がっていました。私がさい頃、眠るにってくれたでした」
美咲はそこで黙った。
線の煙が、ゆっくりがっていた。
「忘れていたとっていました。でも、最初のところを聞いたら、全部いしました」
奈が美咲の隣へ座った。
2はしばらく遺を見ていた。
血のつながらない2の娘。
は雅夫のそばで育ち、父親がいなかったを覚えている。
もうは雅夫に助けられ、その優しさを覚えている。
どちらの記憶も本当だった。
事のあと、千鶴は美咲へ31本目のテープを渡した。
雅夫が千鶴へ残した録音である。
「これは私宛てですが、あなたのことも話しています」
「聞いていいんですか」
「全部聞かなくてもいいです。持っているかどうかも、あなたが決めてください」
美咲は受け取った。
「野寺さんを、許しましたか」
突然尋ねられた。
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千鶴は遺を見た。
「まだっています」
「そうですか」
「でも、会いたいともいます」
美咲は頷いた。
「私も母に、そうです」
許すことと、会いたいことは別だった。
っていても、声を聞きたい。
違いを認めてほしくても、もう度緒に事をしたい。
の気持ちは、きれいにつにはならない。
美咲が帰ったあと、奈が器を洗ってくれた。
千鶴は仏壇の引きしを理していた。
奥から、さな鍵がてきた。
203号の鍵だった。
退の、すべて返したつもりだったが、雅夫がもう本持っていたらしい。
「どうする?」
奈が尋ねた。
「もう部は別のに貸してるでしょう」
「管理さんに返す?」
千鶴は鍵をのひらに載せた。
25、夫が持ち続けた鍵。
妻のらない部をけた鍵。
美咲の子ども代を閉じ込め、裕子の声を守り、千鶴と奈から夫のを奪った鍵。
返すべきだとった。
けれど翌、理恵へ話すると、な返事が返ってきた。
「その鍵では、もうきません。退に錠を交換しましたから」
「では、捨ててもいいんですね」
「はい。奥さまがお持ちになっても構いません」
千鶴は鍵を捨てなかった。
美しいいだからではない。
夫を許した証しでもない。
自分がらなかった扉を、最には自分でけたことを忘れないためだった。
になり、雅夫の度目の命がづいた頃、千鶴はで松本を訪れた。
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美咲に会うためではない。
以からきたいとっていた美術館があり、い切って泊旅を予約した。
結婚してから、で旅するのは初めてだった。
駅へ着くと、美咲からメッセージが届いた。
《もしがあれば、お茶をみませんか》
千鶴はし迷ってから承諾した。
喫茶には、美咲の娘も来ていた。
16歳になった女は、写真で見たより背がく、母親と同じ目をしていた。
「初めまして」
女は丁寧にをげた。
美咲は娘に、過をすべて話したという。
父親のこと。
母親と逃げていたこと。
13歳でをたこと。
雅夫に助けられたこと。
「娘は、りました」
美咲が笑った。
「自分だけ何もらされていなかったって」
「当然でしょう」
千鶴が言うと、女も頷いた。
「でも、話してくれたから、今はしだけ許してます」
「しだけ?」
「全部許したら、お母さんがまた勝に決めるから」
美咲は困ったように笑った。
千鶴も笑った。
同じことは繰り返される。
親は子どもを守ろうとし、子どもは自分で選びたいとう。
完全になくすことはできない。
ただ、途で話すことはできる。
違えたと気づいた、言い直すこともできる。
喫茶をたあと、美咲たちと別れ、千鶴はで川沿いを歩いた。
バッグの内ポケットには、203号の鍵が入っている。
もう何もかない鍵。
それでも々、指で触れる。
雅夫と過ごした41を、千鶴は今もつの言葉で説できない。
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