みかん小説
本棚

"余命半年からの再出発" 第4話

わずからた。

「?」

「族もいないのに」

奈緒はしばらく黙った。

「族のために治療するんですか」

佳代子は答えられなかった。

これまで、自分の体を切にする理由は族だった。

翔太を育てるため。

誠の事を作るため。

を守るため。

誰かのためなら、病院にもき、薬もめた。

自分のためだけに痛みへ耐える方法を、佳代子はらなかった。

「私は、自分がまだ読みたい本があるから治療してます」

奈緒が言った。

「息子にも会いたいし、仕事もしたい。でも、もし誰もいなくても、に桜を見たい。来る説の続きも読みたい。それくらいでいいとってます」

「そんな理由でいいの?」

「命の理由に、派さが必ですか」

奈緒はそう言って、ラジオの音量をしげた。

静かな音楽が病へ流れた。

佳代子は目を閉じた。

来、何を見たいだろう。

何をしたいだろう。

すぐにはい浮かばなかった。

ただつ、病院へ来る途に見たパンのクリームパンを、元気になったらべたいとった。

それほどさな理由でもいいのかもしれない。

佳代子は吐き気をこらえながら、朝までのをつずつ越えた。

治療始から16目、佳代子の髪が抜け始めた。

朝、枕に数本ついているのを見つけた。洗面所で髪をとかすと、櫛に黒い髪が束になって絡んだ。

分かっていたことだった。

広告

医師から説され、病院の売で子も買っていた。それでも実際に自分の髪が指のから抜けると、病気が体のにあることを改めて突きつけられた。

佳代子は洗面台ので泣いた。

同じ病の奈緒が見つけ、黙って隣へった。

「今、切りますか」

「切る?」

「くした方が、抜けるにし楽です。私は病院の美容で切ってもらいました」

佳代子は鏡を見た。

肩まで伸ばした髪。

髪は増えたが、毎自分で染めていた。誠は結婚した頃、佳代子のい髪が好きだと言った。

最にそう言われたのは、いつだっただろう。

「全部なくなる?」

「によります。でも私は、ほとんど抜けました」

奈緒は子をし持ちげて見せた。

「との形、悪くなかったです」

佳代子は涙のまま笑った。

午、院内の美容で髪をくした。

落ちていく髪を見ながら、33の結婚式をいした。無垢のかつらをしたあと、誠が「やっぱり佳代子は自分の髪の方がいい」と笑った。

その記憶まで、へ落ちていくようだった。

病へ戻ると、スマートフォンに翔太からメッセージが来ていた。

《今週末、しだけ帰れるかもしれない》

佳代子は何度も読み返した。

治療が始まって3週。

息子が初めて帰ってくる。

《何がべたい?》

そう送ってから、佳代子は自分が入院であることをいした。

広告

で料理はできない。

すぐにメッセージを消そうとしたが、既読がついた。

《病院へくから、何もいらない》

曜、翔太は午3に来た。

スーツではなく、紺のパーカーを着ていた。以よりし太り、目のに疲れが見えた。

「久しぶり」

佳代子が言うと、翔太はく頷いた。

「髪、切ったんだ」

「抜けるから」

「ああ」

息子はどこを見ればいいか分からない様子だった。

産に持ってきたのは、駅で買った果物のゼリーだった。佳代子が吐き気で甘い物をべられないことはらない。

それでも、来てくれたことがうれしかった。

「仕事、変なの?」

「まあね」

「お父さんから、どこまで聞いた?」

「病気と婚のこと」

「あなたは、どうってるの」

翔太はベッド横の子に座り、スマートフォンを握った。

「夫婦のことは、2で決めればいいとう」

「私が病気でも?」

「病気だから婚しちゃいけないっていうのも違うだろう」

父親と同じ言葉だった。

佳代子の胸に痛みがった。

「お父さんの方なの?」

「方とかじゃないよ」

「なら、どうして私に何も言わなかったの」

「言ったら、母さんは俺に何とかしてって言うだろう」

「言ってないでしょう」

「今だって、どっちの方か聞いたじゃん」

翔太の声がしきくなった。

「俺、子どもの頃からずっとそうだった。お父さんと喧嘩すると、俺にお父さんの悪を言って、どっちが正しいとうって聞いた。

俺は、どっちの方にもなりたくなかった」

佳代子は言葉を失った。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: