"余命半年からの再出発" 第8話
夫に捨てられたあと、自分できると決めた。
そのさが、いつのにか、誰にも選ばせない頑固さへ変わり始めていたのかもしれない。
「ごめん」
佳代子は答えた。
「次は連絡する」
「次があったら困るけど」
翔太は子へ座った。
しばらくして、母親のくなった髪を見た。
「その子、自分で作ったの?」
「そう」
「売れそうじゃん」
「病でも同じこと言われた」
「本当に売れば?」
佳代子は笑った。
だが、その言葉はのどこかに残った。
治療始から4か、検査で腫瘍がきく縮んでいることが分かった。
医師は画像を見せながら説した。
「治療への反応は良好です。まだ終わりではありませんが、予定通り続けましょう」
佳代子はぶに、聞き返した。
「治るんですか」
「現点で、治るとも治らないとも断言できません。ただ、最初の治療が効いていることは切な材料です」
半という言葉に怯えていた佳代子は、初めて、その先があるかもしれないとった。
来。
再来。
60歳。
65歳。
像してはいけないとっていたが、しずつ戻ってきた。
しかし同じ週、誠の弁護士から正式な通が届いた。
婚調の申してと、自宅の売却についての話しいを求める内容だった。
佳代子は病院の相談員と、紹介された弁護士のもとへった。
結婚に購入したであり、宅ローンの返済には佳代子の収入や事労働も関わっている。
広告
名義が夫だけでも、婚の財産分与の対象になる能性がいという。
預、退職、分割、誠の交際相との関係が始まった期についても確認が必だった。
「貞の証拠はありますか」
弁護士が尋ねた。
「夫が認めました。でも録音はしてません」
「メッセージや写真は?」
佳代子は何も持っていなかった。
夫を疑いながら、調べることをしなかった。
庭を壊したくなかったから。
正確には、壊れているとりたくなかったからだ。
翔太へ父親の所を聞くと、最初は拒まれた。
「俺を巻き込まないって言っただろ」
「あなたに、お父さんの方をしろとは言わない。所をっているなら教えてほしいだけ」
「それが巻き込むってことじゃん」
「なら、お父さんの弁護士へ直接聞く」
佳代子は話を切ろうとした。
翔太が呼び止めた。
「待って。所はらない。でも、相のの名はってる」
誠は、交際相のを翔太へ話していた。婚、いずれ紹介したいとも言っていたらしい。
佳代子の胸に痛みがった。
夫は息子に、しい女性を紹介しようとしていた。
自分が治療を受けているに。
「お母さん」
翔太が配そうに呼んだ。
「丈夫」
「丈夫じゃないだろ」
「丈夫じゃない。でも、今は話をめないと」
佳代子はの名だけを弁護士へ伝えた。
調査の結果、誠は診断の1以から交際相のマンションへ頻繁に入りしていたことが分かった。
広告
病気を理由に婚を求めたのではないとしても、婚姻関係を壊した責任は誠にもある。
佳代子は婚そのものを拒み続けたいわけではなかった。
夫に戻ってきてほしいとも、以ほどわない。
ただ、自分が病気で働けない期に追いされ、何も持たずにをることは受け入れられなかった。
調の、佳代子は紺の子をかぶって庭裁判所へった。
付き添いは志津子だった。
「までは入れないけど、ここで待ってる」
「先に帰ってもいいのよ」
「またがる」
「本当にくなるかもしれないから」
「くなったら、売でお菓子買ってる」
姉は待へ座った。
誠とは別々に話を聞かれた。
佳代子は、治療で収入がないこと、自宅へみ続けたいこと、夫の交際について説した。
誠側は、夫婦関係は以から破綻しており、自宅を売って公平に分けるべきだと主張した。
度では決着しなかった。
帰りの廊で、誠と顔をわせた。
4かぶりだった。
し痩せ、髪が伸びている。佳代子の子を見て、線を止めた。
「治療は?」
「効いてるって」
「そうか」
誠はしたように息を吐いた。
佳代子は腹がった。
妻が元気になることを望んでいるなら、なぜを奪おうとするのか。配するなら、なぜ病院へ来ないのか。
「私が治ったら、困る?」
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
エレベーターの7時間
5月7日。 東京の大型デパートで突然の停電が発生した。 妊娠6か月の雪は、8人の乗客とともにエレベーターへ閉じ込められる。 救助が来るまでの7時間、彼女は自分の命よりも先に、高齢者や子供たちを守り続けた。 しかし、扉が開いた瞬間―― 救助隊長である夫・明が最初に抱き上げたのは、妻ではなく元恋人の桜だった。 「私と赤ちゃんは、もう彼を待たない」 意識を失う直前、雪が救助隊員へ託した結婚指輪と最後の言葉。 その日から、夫婦の関係は完全に崩れ始める。 なぜ明は、命の危険にある妊娠中の妻より、別の女性を選んだのか。 そして、10年間信じ続けていた桜との“過去”には、誰も知らない秘密が隠されていた。 救助記録と証言が明らかにした真実。 それは、雪が失ったのは夫だけではなく―― 自分を守るはずだった家族そのものだった。夫婦2.0萬字5 0 -
完結第14話
一杯の鍋が変えた人生
柏優太は、職場でのパワハラが原因で心を壊し、半年間ほとんど誰とも話さず部屋に閉じこもっていた。 そんなある日、隣に引っ越してきた母子3人の姿を見かける。 「何も買えなくてごめんね」と泣く母親と、空腹を我慢する子供たち。 過去に大切な友人を救えなかった後悔を抱えていた優太は、思わず声をかける。 「よかったら……うちで鍋しませんか」 一杯の鍋をきっかけに、孤独だった男と傷ついた母子の人生が少しずつ変わり始める。 しかし、温かな時間の裏には、母親が隠していた過去と、子供たちを取り戻そうとする元夫の存在があった。 誰かを救おうとした優太が、実は自分自身も救われていた――。 小さな優しさから始まった、再生と家族の物語。人生逆転|第二の人生|親子関係2.2萬字5 60 -
完結第11話
一つの証拠が暴いた8年間の嘘
八年前、誰にも期待されず、孤独な海外勤務へ送られた男――朝倉洋一。 灼熱のインドで技術を磨き、ただひたすら努力を重ねた彼は、八年ぶりに日本へ帰還する。 しかし、待っていたのは栄光ではなく、同僚からの侮辱と冷たい視線だった。 そんな彼の前に現れたのは、かつて突然姿を消した初恋の女性・七瀬美咲。 「契約の鬼」と恐れられる彼女が、なぜ一介の技術者である朝倉だけを選んだのか――。 やがて社内で発生した機密情報流出事件。 犯人に仕立てられ、すべてを失いかけた朝倉を救ったのは、遠い異国で築いた一つの友情だった。 裏切り、嫉妬、そして八年越しの想い。 忘れられた男の本当の価値が、今、世界を変える。因果応報|人生逆転1.7萬字5 54 -
完結第11話
退職金より失ったもの
「退職金は俺が39年間働いて得た金だ。お前には1円も渡さない」 定年を迎えた夫の一言で、39年間家族を支えてきた妻・佳代の心は静かに壊れた。 夫は、家事も育児も介護も、妻がしてきた全てを「家にいただけ」と言い切った。 しかし翌朝、佳代が残した青いファイルを開いた夫は、初めて知らなかった事実を目にする。 そこには、39年間の家計の記録と、誰が何を支えてきたのかを示す証拠が残されていた。 「では、全部清算しましょう」 妻が選んだのは、夫の退職金を奪うことではなかった。 夫婦として積み重ねてきた時間、その価値をもう一度問い直すことだった。 2760万円の退職金よりも先に、夫が失った本当のものとは――。夫婦|退職金|金銭問題|熟年離婚1.7萬字5 93 -
完結第16話
閉ざされた玄関の暗証番号
田園調布の豪邸で暮らす田中勇気と妻・桜。勇気は一人暮らしになった母・澄子を思い、妹の弓とともに同居を始める。しかし、その優しさは次第に家族の境界線を曖昧にしていった。 勇気が海外出張中、桜は高熱で倒れながらも義母の来客対応を強いられる。初めて「できません」と拒んだ彼女に、澄子は怒りを募らせ、桜本人の意思を無視して荷物をまとめ、家から追い出してしまう。 夫に心配をかけまいと黙って耐える桜。しかし異変を感じた勇気は急いで帰国し、隠されていた真実を知る。 妻を守れなかった自分の過ち、そして母が家族への感謝を「支配する権利」と勘違いしていたことに気づいた勇気は、家族の在り方を見直す決断をする。 本当の家族とは何か。愛情と依存の違いを描く、再生と絆の物語。嫁姑|第二の人生|修羅場2.4萬字5 10 -
完結第14話
返されなかった合鍵
25年間、誰にも知られず借り続けられていた203号室。 夫の葬儀の日、見知らぬ女性から渡された一本の合鍵が、妻・千鶴の人生を大きく揺さぶる。 亡き夫はなぜ、家族に隠れて古い部屋を借りていたのか。 そこに残されていたのは、31本のカセットテープと、一人の少女の思い出だった。 最初は裏切りだと思った秘密。 しかし調べるほどに明らかになる、夫が25年前に背負った約束と、誰にも話せなかった苦悩。 守ることと、信じること。 家族を思う気持ちと、誰かを救おうとする気持ちは、時にすれ違ってしまう。 一つの合鍵から始まった真実の先で、千鶴が見つけたものとは――。人生逆転|相続|修羅場2.0萬字5 42 -
完結第12話
泥まみれの客と黒塗り5台
土砂降りの夜、タクシー運転手の佐藤美咲は、泥だらけで道端に立ち尽くす1人の老人を見つけた。 他のタクシーは、車が汚れることを嫌って次々と通り過ぎていく。中には、老人をあざ笑い、泥水まで浴びせて走り去る運転手もいた。 月末までにノルマを達成できなければクビ。幼い娘の手術を控え、仕事を失うわけにはいかない美咲も、一瞬だけ迷った。 それでも彼女は車を止める。 「シートなんて洗えばいいんです」 そう言って老人を乗せ、傘を差し、温かい缶コーヒーを手渡した。 しかし翌朝、美咲を待っていたのは、汚された車両と突然の解雇通告だった。 泣き崩れる彼女の前に、5台の黒塗りの車が営業所へ現れる。 昨日の泥だらけの老人は、いったい何者だったのか。 たった1本の缶コーヒーが、彼女の人生を大きく変えていく――。因果応報|人生逆転1.8萬字5 11 -
完結第12話
200円の家族
23歳の大学生・高橋翔太は、感情を捨てたように生きていた。 友人の誘いも断り、食事も会話もすべてを「合理的かどうか」で判断する日々。そんな彼が、ある日ファミレスで会計できずに困っている母子と出会う。 所持金は300円。小さな娘を連れた母親は、夫に貯金を持ち逃げされ、住む場所さえ失っていた。 翔太は不足分の200円を支払い、さらに母子を自分の部屋へ連れて帰る。最初はただの合理的な判断。そのはずだった。 しかし、温かい手料理、少女の「ありがとう」、そして夜中に聞こえた小さな泣き声が、5年間閉ざしていた翔太の心を少しずつ揺らしていく。 なぜ彼は笑わなくなったのか。 なぜ「感情は判断を誤らせる」と言い続けるのか。 助けたはずの母子との出会いは、やがて翔太自身が封じ込めてきた過去を呼び覚ましていく――。因果応報|人生逆転1.9萬字5 2 -
完結第12話
復讐とんかつの逆転便
とんかつ弁当を注文した堀川琢磨の前に現れたのは、高校時代に自分を見下していた金持ち令嬢・柏木綾音だった。 かつて高級ブランドを身につけ、貧しい琢磨を笑っていた彼女は今、実家のとんかつ店を守るため、配達員として頭を下げていた。 「お前が配達?令嬢なのに?」 復讐心に火がついた琢磨は、自分の成功を見せつけるため、何度もとんかつ弁当を注文し続ける。 だが、届く弁当の味は想像以上だった。 そしてある日、綾音が差し出した冷凍とんかつの試作品が、琢磨の運命を大きく動かしていく。 過去の屈辱、消えない傷、落ちぶれた令嬢の謝罪。 復讐のつもりで始まった注文は、やがて小さな老舗店を救い、琢磨自身の孤独な人生まで変えていく――。因果応報|人生逆転|修羅場1.7萬字5 2