"一杯の鍋が変えた人生" 第1話
「よかったら……うちで鍋しませんか」
その言葉をにした瞬、柏優太自が番驚いていた。
なぜ、そんなことを言ったのか。
自分でも分からなかった。
半、ほとんど誰ともまともに話していない。
会社を休職してからというもの、優太の世界は6畳ほどのワンルームのだけになっていた。
朝になってもカーテンをけることはなく、昼になっても布団からられないが何度もあった。
スマホの通音が鳴るだけで胸が苦しくなり、会社からのメールを見ることもできなかった。
以の自分なら、そんな状態のを見て「し休めば丈夫だろう」とっていたかもしれない。
しかし、自分がそこに落ちて初めて分かった。
はが限界を超えると、頑張ることすらできなくなる。
「起きなければ」
そうっても、体がかない。
「べなければ」
そう考えても、台所まで歩くことすらきな負担になる。
優太は半、診療内科で適応障害と診断された。
原因は、職での期にわたるパワハラだった。
入社してから7、優太は真面目だけが取り柄のような社員だった。
頼まれた仕事は断らない。
期限が厳しくても残業して終わらせる。
輩が困っていれば自分の仕事を回しにして助ける。
周囲から見れば「優しい」「頼れる」だった。
しかし、その優しさはしずつ利用されていった。
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司は優太なら何でも引き受けるとうようになり、無理な仕事を次々と押し付けた。
失敗すれば責任を負わされ、成功しても評価されることはなかった。
「柏は独だからあるだろ」
「若いんだからもっと頑張れよ」
そんな言葉を何度も聞いた。
気づいたには、眠れなくなっていた。
休も仕事のことばかり考え、事のも分からなくなった。
そしてある朝。
いつものように会社へこうとした、玄関までくことができなかった。
靴を履こうとしてもが震える。
息が苦しい。
胸の奥が締め付けられる。
その、優太は初めて会社を無断で休んだ。
そして数、医師から告げられた。
「適応障害ですね。今は仕事かられる必があります」
その言葉を聞いた瞬、よりも先に絶望が押し寄せた。
自分はいになった。
そうった。
実に帰ればいい。
田舎には広いがある。
農を営む両親もいる。
帰れば温かく迎えてくれることは分かっていた。
それでも優太は帰れなかった。
親に配をかけたくなかった。
何より、自分自が「逃げた」と認めることが怖かった。
だから、この狭い部に閉じこもっていた。
そんな優太の活を変えるきっかけになったのは、1ヶに隣へ引っ越してきた族だった。
壁越しに聞こえる子供の声。
さな笑い声。
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々聞こえる泣き声。
最初は気にしていなかった。
自分のことで精杯だったからだ。
しかし、毎のように聞こえるその声は、しずつ優太の閉ざされた世界に入り込んできた。
「今も元気だな……」
布団のでそううことが増えていた。
隣に引っ越してきたのは、29歳の女性、若里だった。
そして3の娘を連れていた。
女の美咲は7歳。
学1とはえないほどしっかりした女の子だった。
引っ越しの挨拶に来たのことを、優太は覚えている。
玄関のにった里はし疲れた顔をしていた。
それでも、背筋は伸びていた。
「隣に引っ越してきました若です。よろしくお願いします」
その横で、さな女の子がをげた。
「よろしくお願いします」
声はし緊張していたが、しっかりしていた。
そのろには双子の妹たちがいた。
柚葉とこの葉。
4歳の2は美咲の背に隠れながら、優太の顔を覗いていた。
「こんにちは」
優太が声をかけると、2はそっくりな顔でさく笑った。
その瞬だけ、優太の胸にし温かいものが広がった。
しかし、それ以話す気力はなかった。
「こちらこそ……よろしくお願いします」
それだけ言って、部へ戻った。
それから1ヶ。
優太はある変化に気づいた。
隣から聞こえる子供たちの声が減ったのだ。
以なら夕方になると聞こえていた笑い声。
テレビの音。
り回る音。
それがしずつさくなっていた。
気のせいだといたかった。
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