"地下室に消えた名前" 第2話
2、属板の縁と古い蝶番が姿を現した。
直哉と浦がバールを差し込み、体をかけた。最初はびくともしなかったが、3度目に力をわせた、錆びた属が鳴のような音をてた。
隙から、温かく淀んだ空気が噴きした。
湿った、古い薬品、腐った布。いくつもの臭いが混ざりい、直哉はわず顔を背けた。
属板のには、暗へ続く階段があった。
絵里が公式図面を広げ、震える声で言った。
「こんな、どこにも載っていません」
直哉は懐灯で底を照らした。
の先に、コンクリートのが見えた。その脇には錆びた鉄製の寝台が並び、さらに奥にはの背丈ほどある属棚がっていた。
誰にもられないよう、図に閉ざされた空。
直哉は階段へ片をかけた、理由の分からない寒気を覚えた。気よりもたい何かが、暗の底からいがってくるようだった。
へりるに、直哉たちは防マスクと袋を着けた。には2を残し、直哉、浦、絵里の3だけが錆びた階段をりることになった。
部の広さは約30平方メートル。壁は剥きしのコンクリートで、井をる管から定の隔で雫が落ちていた。
懐灯のをかすと、壁際に4台の簡易寝台が現れた。マットレスはなく、属製の枠には革の帯が取りつけられている。
広告
その形を見た瞬、絵里がを止めた。
「これ、患者を固定するためのものじゃありませんか」
革帯は首、首、胸の位置にあった。医療用の寝台というより、がけないよう拘束するための台に見えた。
には褐のガラス製アンプル、変した包帯、注射器の部品が散らばっていた。どれもいを経ていたが、この部が倉庫ではなく、に対して何かをう所だったことはらかだった。
浦は1枚ずつ写真を撮った。
「ここから先は、私たちが触っていい範囲を超えているかもしれない。記録だけしてよう」
その、直哉のが奥の属棚を捉えた。
さは約2メートル、幅は3メートルくある。病院や役所で類を保管する保管庫に似ていたが、扉には側から太い針が何にも巻かれていた。
「これも撮っておきましょう」
直哉がづくと、棚の表面にい文字が残っていることに気づいた。塗料が剥がれ、全体は読めなかったが、「永久」という2文字だけが判別できた。
そのには、古い片が針に挟まっている。
浦が懐灯を寄せた。
「処置保管……関係者扉厳禁」
3のに、い沈黙が落ちた。
「警察を呼んだ方がいい」
絵里の提案に、浦も頷いた。属棚のを確認せず、このままへ戻ることにした。
しかし、直哉が扉かられようとした、元でさな属音がした。
広告
錆びた針の部が自然に切れ、へ落ちたのだ。
その衝撃で、完全に閉じているとわれた側の扉が数センチいた。
隙から見えたのは、に変した布だった。
古い病に似た布が、棚のにいくつもねられている。その1つには麻紐が巻かれ、さな札が結びつけられていた。
直哉は札へを向けた。
「F―0217」
氏名ではなく、番号だけがかれている。
絵里が写真を撮ろうと歩づいた、扉が自でさらにいた。段に置かれていた布包みが傾き、棚の縁から滑り落ちた。
「危ない!」
直哉が絵里の肩を引いた。
布包みはに落ち、乾いた音をてて解けた。からく細いものが転がり、直哉の靴に当たって止まった。
最初は、古い医療器具だとった。
だが、懐灯で照らした途端、その考えは消えた。
丸みを帯びた関節。く滑らかな表面。体模型で何度も見た形だった。
の腿骨だった。
絵里が息を呑み、壁際までずさった。浦は蒼になりながらも、何にも触れないよう2へ指示した。
へ落ちた布のには、ほかにも複数の骨が入っていた。蓋骨は見当たらず、1分が完全に揃っているかどうかも分からない。
直哉は震えるを属棚へ戻した。
同じ形の包みが、からまで隙なく並んでいた。面にはそれぞれ異なる番号がつけられ、なくとも6つあることが確認できた。
F―0217。
F―0342。
F―0519。
番号のにつけられたFは、女性を示しているのかもしれない。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
昭和44年、最終バスから消えた女性車掌
昭和44年、女性車掌・藤村紀子は最終バスの途中で姿を消し、車掌鞄から三万円を盗んで逃げたと噂された。25年後、娘の美和が廃校の屋根裏で十三枚の乗車券を発見する。当夜の公式記録は乗客十二人だったが、十三枚目は家庭で虐待されていた九歳の少年・高瀬誠の切符だった。 紀子は帰宅を拒む誠を継父・大島へ渡さず、夫の英一に託して鉱山会社の不正資料を取りに向かった。事故隠蔽や児童労働の証拠を掴んだものの追われて富山へ逃れ、その後三度手紙を送っていた。しかし英一は、最初は誠を守るため、後には自分の嘘が露見する恐怖から、すべて受取拒否にしていた。三万円の盗難も、運転手や営業所長らが作った偽装だった。 生存していた紀子と再会した美和は、母の潔白を証明しても、25年の不在まで無条件には許さない。会社記録は訂正され、十三枚の切符は廃校の資料室に保存される。父母は離婚し、美和は双方と境界を定めながら関係を築き直す。最後に母娘は一緒に資料室の戸締まりをし、次に会う日を、初めて誰にも決められず自分たちで選んだ。歴史|昭和|ミステリー|真相2.7万字5 454 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 160 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 180 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 66 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 744 -
完結第15話
午前2時17分、亡き妻が病室を訪れる
午前2時17分。夜勤看護師の由衣は、面会時間を過ぎた病棟で黒いコートの女性を目撃する。 女性が立ち止まったのは、家族との連絡を拒み続ける71歳の患者・久世修一の病室前。だが受付記録にも防犯カメラにも姿はなく、乗り込んだエレベーターからも忽然と消えていた。 修一は女性の特徴を聞くと顔色を変え、10年間疎遠だった娘へ連絡してほしいと頼む。やがて判明したのは、黒いコートが10年前に亡くなった妻・美佐子のものと同じだったこと。そして彼女が息を引き取った時刻も、午前2時17分だった。 妻の最期に間に合わなかった父と、その父を許せなかった娘。再び同じ時刻にエレベーターが開く夜、10年間止まっていた家族の時間が静かに動き始める。ミステリー|夫婦|真実|真相1.4万字5 125 -
完結第10話
昭和51年、閉山した炭鉱町から消えた父
昭和51年、炭鉱が閉山した3日後、保安係だった父・修一が姿を消した。玄関には泥のついた長靴と作業帽が残され、母は「探さなくていい」と口を閉ざす。だが娘が父の作業着から見つけた紙片には、閉鎖された坑道の名と、謎の時刻が記されていた。 調べるほどに浮かび上がる、改ざんされた保安記録、帳簿から消された作業員、そして会社が隠そうとする閉山直前の事故。やがて坑道に残された録音から、父が誰かを救おうとしていた事実が明らかになる。しかし数十年後に届いた父の名札には、さらに不可解な言葉が刻まれていた。 「北の出口から出た。家へは戻れない」 父はなぜ、生きて坑内を出ながら家族のもとへ帰らなかったのか――。時代|歴史|昭和|ミステリー|真相1.5万字5 239 -
完結第11話
火曜日だけ「受取済」が増える町
昭和22年、大阪。配給日の火曜日になると、まだ米を受け取っていない家の通帳に、なぜか《受取済》の判が押されていた。 ある日、十六歳の俊夫の家も米を受け取れず、家族は一週間分の食料を失う。印影は母の判子と酷似し、配給所では叔父が帳簿を管理していた。 真相を確かめるため、俊夫は夜の配給所へ忍び込む。そこで見つけた裏名簿には、死亡者や未帰還兵の名義で今も米が支給されていた。 そして、その中には二年前に亡くなった父の名前もあった。 《高橋勇作 一人分》 《受取人 芳江》 母はなぜ、死んだ父の名で米を受け取り続けていたのか。さらに調べるうち、善意から始まった秘密の配給と、それを利用して本当に米を奪っていた人物の存在が浮かび上がってくる。歴史|昭和|ミステリー1.6万字5 160