"地下室に消えた名前" 第6話
しかし状況の記録も、正式な報告もありません。先は、のをごじですね」
「っています」
「骨が保管されていたことも?」
「はい」
が息を呑んだ。
「では、何があったのか話してください」
川は湯みにを伸ばし、めた茶をんだ。瀬たちの向こうに、い代の病を見ているような目をしていた。
「彼女たちのには、この世界へ戻すことのできない者がいました」
「それは、誰が決めたのですか」
「々です」
「々とは?」
川は答えず、写真へ指を置いた。
「神崎文。坂。藤千鶴。松岡澄子。キヨ。田切枝」
番号しか提示していないにもかかわらず、老は6全員の名を言い当てた。
「よく覚えていますね」
「忘れたはありません」
「彼女たちは、どのようにくなったのですか」
川はようやく瀬を見た。
その目には、怯えも揺もなかった。
「々が終わらせました」
部の空気が変わった。
は無識に録音の作を確認した。瀬は声の震えを抑え、質問を続けた。
「殺したというですか」
「あなた方の言葉で表現するなら、そうなるでしょう」
「ほかに、どんな表現があるというのです」
「解放です」
川の声は静かだった。
「々は、終わりのない苦痛から彼女たちを解放したのです」
瀬は拳を握った。
老は告しているのではなかった。
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半世紀くに自分たちがした判断を、今も正しいと信じたまま説しようとしていた。
川の供述は、そのの夕方まで続いた。
1950代、羽療養所には200を超える患者が収容されていた。定員を幅に回る数に対し、常勤医師はわずか4。護師もし、患者同士の争いや事故が絶えなかった。
当使用できる薬には限界があった。い鎮静作用を持つ薬を投与すれば、患者はかなくなったが、病気そのものが治るわけではない。
「治療の段がなかったことと、命を奪うことは別です」
が言うと、川はさく頷いた。
「今の代なら、そう言えるでしょう」
「当でも同じです」
「あなたは、1晩に何度も壁へを打ちつける患者を見たことがありますか。自分の目を潰そうとし、止めに入った護師の指を噛み切ったを、何も世話したことがありますか」
「だから殺していいということにはなりません」
「々も最初からそう考えたわけではない」
川によれば、最初の判断がされたのは1957だった。
神崎文は入院、に回復し、族へをけるまでになった。しかし夫から届いた返事には、「子どもたちのためにも帰らないでほしい」と記されていた。
その、文の状態は急激に悪化した。事を拒み、自分の腕を噛み、夜ごと子どもの名を呼び続けた。
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衰と興奮を繰り返し、病棟側も対応に疲弊した。
院、副院、担当医、護主任の4は、非公式の話しいをいた。
治療の見込みがない。族も受け入れない。本は苦しみ続け、病棟全体へ響を及ぼしている。
そこで彼らは、通常量を幅に超える鎮静薬を文へ投与した。
「眠るようにくなりました」
川はそう言った。
「最初から命を奪う目だったのですね」
「結果は分かっていました」
「それを殺と言うんです」
瀬の声がくなった。
川は反論しなかった。
文の、院たちは族へ「自」と説した。院内で事件化すれば病院の運営に響し、ほかの患者のきまで失われると考えたからだという。
遺体を通常の続きで葬すれば、診断や部への届けが必になる。そこで古い解剖として使われていたへ運び、元を示す部位と骨を残す処理をった。
瀬は、その具体な方法を話す必はないと制した。
川は淡々と説を続けようとしたが、それは医学な記録ではない。尊厳を奪われたに対する、の冒瀆だった。
「なぜ骨を残したのですか」
「証拠を消したいなら、処分した方が簡単だったはずです」
瀬の問いに、川は初めて迷うような表を見せた。
「忘れないためです」
「誰が?」
「々がです」
の棚は、命を終わらせた患者たちの記録庫として作られた。
表向きは自として処理しながら、内部では番号と氏名、投薬内容を記した別の台帳を残していたという。
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