みかん小説
本棚

"68歳の誕生日、残高は0円だった" 第10話

の最終幹線で帰る。駅まで迎えに来なくていい。荷物は最限にする』

というい文面だった。

千代子はそれを読んで、さやかが何かを決めていていることをじた。

京での彼女の仕事は忙しい。

それでも週の終わりに帰ってくるということのを、千代子なりに受け取った。

千代子は総には、さやかが帰ってくることを伝えなかった。

伝えない理由を自分に問えば、うまく言葉にはできない。

ただ、伝えたに起きることが容易に像できた。

『さやかに余計なことを吹き込んだのか』という詰問が来る。

それだけで、今積みげている何かが崩れそうな気がした。

だから千代子は黙っていた。

の夜、総斎でテレビを見ている

千代子は玄関先でさやかを待った。

夜のし過ぎた頃、にタクシーが止まった。

さやかがりてきた。

スーツ姿のまま、さなキャリーバッグだけを持っていた。

顔は疲れているが、目にい力があった。

さやかは千代子を見て、「お母さん」と言った。

それ以は何も言わずに玄関に入った。

は声を潜めて、台所に移した。

「お父さんは?」

さやかが声で聞いた。

斎にいる」

千代子は答えた。

さやかはキャリーバッグのから、いファイルを取りした。

「これ」

さやかは言いながら、千代子のにファイルを置いた。

広告

に『滝川浩介法律事務所』という文字と話番号が印刷されている。

「同僚の紹介で昨話した。齢者の財産侵害、正移転を専にしている弁護士」

さやかは説した。

「お母さんの話をざっくり説したら、面談を受けてくれると言った」

さやかは千代子の目を見た。

「来週に、事務所に来て欲しいって」

千代子はファイルをに取った。

「費用は?」

千代子が聞いた。

「初回の相談は無料。そのどうするかは、話を聞いてから決めればいい」

さやかは言った。

「弁護士の名、滝川。歳、元検察官」

さやかは続けた。

「お母さん、このかなり本気でやってくれそうなだって、同僚が言ってた」

千代子はファイルを閉じ、胸に当てた。

さやかはテーブルに両肘をついて、に体を傾けた。

「お母さん、区役所で職員さんに聞いた話、もう度ちゃんと話して。詳しく聞きたい」

千代子はお茶を杯入れて、向かいに座った。

そして、区役所での話を最初から語った。

で待っていたこと。職員の顔が変わったこと。

相談に移したこと。

度精神障害者として申告されていると言われたこと。

為能力に欠ける者として、という職員の言葉。委任状との関係。

さやかは途で何も言わずに聞いていた。

は膝のに置いたまま、かなかった。

話し終えると、さやかはしばらく黙っていた。

広告

さやかはやがて言った。

「お父さんは、お母さんを類ので精神障害者にして、税控除を受け続けていたってこと」

「そう聞いた」

千代子は答えた。

さやかはからきく息を吐いた。

理しているような、でもうまく理しきれていないような。

その両方が混じった息だった。

緒にく」

さやかは決然と言った。

「私も話を聞きたい」

その夜、が同じ根のにいた。

はさやかが帰ってきたことを、まだらなかった。

斎のドアは閉まっていて、から微かにテレビの音がしていた。

さやかは客に布団を敷いて、めに休んだ。

千代子はの様子を確認してから、自分の布団に入った。

眠れなかったわけではない。

でも、浅い眠りが続いた。

翌朝、総斎からてきたのは頃だった。

台所で千代子が朝を準備していると、廊の方からさやかの音が聞こえてきた。

さやかはそのまま台所に来て、「おはよう、お母さん」と言った。

その、廊に総の気配がした。

なった。

は台所の入りでさやかを見て、を止めた。

「いつ帰ってきた」

は言った。声は穏やかだが、その奥にが混じっていた。

「昨夜」

さやかはく答えた。

は「連絡もなく」と言ったが、それ以は続けなかった。

さやかは何も言い訳をしなかった。

卓に着いたは、それぞれ黙って朝べた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: