みかん小説
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"68歳の誕生日、残高は0円だった" 第17話

終わったというよりは、何かが始まったのかもしれなかった。

でも今ここで、この部つのことが決まった。

それは確かだった。

滝川が「今続きについては改めてご連絡します」と言った。

げてから、玄関に向かった。

千代子が見送りにでた。ドアを閉めて廊に戻る。

さやかがリビングで、テーブルのの茶菓子の皿を片付けていた。

慣れたきで、何も言わずにいていた。

千代子は台所に入り、やかんをにかけた。

特に理由はなかった。ただかしたかった。

やかんがにかかる音がした。

千代子は流し台のち、窓のを見た。

庭の隅に植えた柿のが、オレンジの実をいくつかつけていた。

この期になるとづく、何からあるだった。

さやかが台所に入ってきて、千代子の隣にった。

は並んで、窓のの柿のを見た。

何も言わなかった。やかんがしずつ音をて始めた。

「お父さん、てこないね」

さやかがやがて言った。

斎にいるから」

千代子は言った。

「お義母さんの様子、見てくる」

千代子は言い、台所をた。

さやかは台所に残った。

千代子は奥の部へ向かった。

やがてさやかも追いかけてきた。

に話しかけているさやかの声がした。

柔らかい声だった。

京でどんな仕事をしていても、ではこういう声をせる娘だった。

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千代子はお茶を分入れた。

やかんでお湯が湧いた。急須に注いでし待った。

湯呑みに移した。お茶のい緑からゆっくりと濃くなっていった。

千代子はお盆を持ってさやかのを追った。

の部に入ると、さやかがに座ってを握っていた。

は目をけていた。さやかの顔を見ていた。

その目が、いつもよりも穏やかだった。

千代子はお盆を部の隅の棚に置き、の反対側に座った。

はしばらくの無言でいた。

斎では、総がまだ何もしていないだろう。

あるいは、何かをしているかもしれない。

でも今この瞬は、それを確認しにかなかった。

この部にいるを、千代子は壊したくなかった。

さく何か言った。

さやかがを傾けた。

「なあに、おばあちゃん?」と聞いた。

はもうかした。

言葉にはならなかったが、さやかは笑って「うん。そうだね」と言った。

何が伝わったのかは分からない。でもそれで良かった。

しずつ傾いてきた。

柿の実が、廊の窓からもオレンジに見えた。

それから、が流れた。

季節はになっていた。

の桜並いピンクに染まり、が吹く度にびらががって歩に積もっていた。

千代子は今、その桜並を見ていない。

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でも以は毎この期になると、買い物帰りに回りをしてその並を歩いていた。

、ほぼ欠かさずに。

回りをする必がなくなった。

今の千代子は、裾にある温泉旅館の廊を歩いていた。

の窓からの稜線が見えた。

霞のく浮かぶ形が、絵のようだった。

は磨かれたで、がひんやりとよかった。

千代子はに、柄の浴を着ていた。

旅館が用したものではなく、さやかが選んでくれた枚だった。

「お母さん、こっち」

さやかが廊の先から声をかけた。

千代子はを向けた。

さやかがっているのは、さな縁側のある部だった。

引き戸をけると縁側の向こうに庭が広がっていて、梅の本、を残りなく咲かせていた。

は縁側に腰をろした。

仲居さんがお茶を持ってきた。

の急須から注がれたお茶は、が濃くりがっていた。

千代子は両で湯呑みを持ち、ゆっくりとに運んだ。

温度がちょうど良かった。くもぬるくもない。

「どう?」

さやかが聞いた。

「いいね」

千代子は答えた。

それだけだったが、さやかは笑った。

い言葉のに、千代子が言いたいことが全部入っているのを分かっているような笑い方だった。

のことは、今も記憶のにはっきりとある。

滝川が文を持っていき、そのとの続きが始まった。

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