みかん小説
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"温泉旅行を贈った夫の本当の目的" 第1話

リビングの井から吊りげられた、琥珀を放つペンダントライト。その柔らかな灯りは、を巡り、なけなしの貯を叩いて購入した無垢材のダイニングテーブルの板を、静かに照らししていた。経変化によって飴まった目には、幼かった息子がフォークでつけたさな傷や、々の活で刻まれた細かな擦れが、無数の輪のように刻み込まれている。

計の針は夜の半を回っていた。夕の焼き魚の脂が残るフライパンを丁寧に洗い、シンクを磨きげ、清潔な布巾で調理台の滴を粒残らず拭き取ってから、私はふうとさく息を吐いてダイニングの定位置へと戻った。

正面には、夫の博幸さんが腰掛けていた。

普段の彼であれば、この帯はテレビのプロ野球継やスポーツニュースに目を奪われ、私がを横切ろうが、お茶を淹れ直そうが、まるで界に入らない置物のように扱うのが常だった。話しかけても返ってくるのは「ああ」「うるさいな」という嫌な息ばかり。それがここに定着した常の景だったはずだ。

しかし今夜の彼は、どこか異様だった。テレビの源は落とされ、静まり返った部で、彼はやけに改まった様子で背筋をピンと伸ばしていた。

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調したきり、滅に着ることのなかったてのチャコールグレーのジャケットを羽織り、膝のに置かれた両は緊張を隠すように微かに張っている。

「……恵美子、ちょっと座りなさい」

その声は、普段の刺々しさを綺麗に削ぎ落としたような、触りの良い滑らかな響きを帯びていた。私が訝しみながらパイプ子の背を引いて腰をろすと、彼は満そうにつ頷き、ジャケットの内ポケットへとを差し入れた。

スッ、と指先がつまみしたのは、見るからに等な細の封筒だった。落ち着いた成りの肌には、繊細なの箔がの川のように散りばめられ、触りの良さが目からでも伝わってくる。博幸さんはその封筒を、まるで神仏に供物を捧げるかのような丁極まりないつきで、テーブルの目を滑らせて私の元へと押しした。

その元には、ここ数――いや、息子の学が決まった以来、度たりとも見たことがないような、底抜けに柔で穏やかな笑みが浮かべられていた。

「恵美子、いつも本当にご苦労様。たまには事も仕事も全部忘れて、羽を伸ばしてゆっくりしておいで。名湯で名い温泉旅館のだ。頃の疲れを全部洗い流してくるといい」

温かな声音が、静かなリビングに染み渡っていく。

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私は瞬、自分のと目を疑った。目ので起きている現実が脳の処理追いつかず、瞬きを何度も繰り返した。差しされたの封筒を恐る恐る指先で引き寄せ、その封をそっと切る。から滑りてきたのは、旅番組や富裕層向けのグラビア雑誌でしか目にしたことのない、の奥座敷に佇む名い最級老舗旅館の宿泊券であった。

券面に躍る、当代の名が認めたというな宿名。そしてその横に鮮烈に印字された「特別貴賓呂付きれ」の文字。

結婚してから。そのみが、私の胸の奥底を激しく打ち据えた。

の終わり、歳そこそこで難関の医療事務資格を取得し、域の核を担う総病院の医事課に就職して以来、私はたりともを抜くことなく働き続けてきた。当の博幸さんは元の零細商社に勤める営業マンで、取りの料はお世辞にもいとは言えなかった。々の費を切り詰め、夫の付きいのみ代を面し、りない活費の赤字を埋め続けてきたのは、紛れもなく私の料だった。

(あの博幸さんが……私のために、こんな級な旅館を予約してくれたというの……?)

込みげてくるいものを喉の奥で必に堪えながら、私は宿泊券を両で包み込むようにして握りしめた。

驚きと、の苦労が報われたという無謝に瞳を潤ませ、夫の顔を真っ直ぐに見つめ返した。

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