みかん小説
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"温泉旅行を贈った夫の本当の目的" 第4話

結婚記だの妻への謝だの、障りのいい言葉を並べて価な切れを枚恵んでやりさえすれば、尻尾を振って泣いてぶんだよ。畜を飼い慣らすより簡単さ」

ドクン、と臓が鐘を打ち鳴らした。

私の全の毛穴という毛穴がき、血管のを流れる血液が気にの裏から抜け落ちていくような寒気が全を貫いた。指先が氷のようにたくなり、界がチカチカと滅する。

畜――。ちょろい女――。

、彼が営業で成果をせずに荒れた夜も、酔して帰宅して玄関で吐瀉物を撒き散らした夜も、文句つ言わずに介抱し、体を拭い、翌朝には糊のきいたワイシャツと温かい噌汁を用し続けてきた私に向けられた言葉が、それだった。

私は息をすることすら忘れ、震える両元をく押さえた。鳴が漏れそうになるのを必で呑み込みながら、音をてずに歩、また歩と、暗い廊を忍びでリビングへとづいていった。

リビングの引き戸は、指本分だけ隙が空いていた。

そのわずかな隙から漏れに、私は目を凝らした。そこに広がっていた景は、私ののすべてを、無残な瓦礫へと叩き落とすに分な獄絵図だった。

私が今朝、に丹に磨きげたあのダイニングテーブル。

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そのには、私が何から「いつか特別な記けよう」と切にワインセラーの奥にしまっておいた代物の赤ワインのボトルが、無造作に抜栓されて置かれていた。バカラのクリスタルグラスにはの液体が注がれ、その向こう側に、見らぬ若い女がが物顔で座っていた。

な巻き髪に、胸元がきくいたけばけばしいニット。歳は半といったところだろうか。私の息子として変わらない齢のその女は、を組み、私が丁寧に入れをしてきた子の背もたれにふんぞり返っていた。

そしてその隣には、博幸さんがいた。

彼は私がこれまで見たこともないような、だらしなく相好を崩した卑しい笑顔を浮かべ、女の肩にを回し、甲斐甲斐しくワインを注ぎしていたのだ。

「さおり、朝からむワインは格別だろう? これもあいつの定期預から落ちるで買ったやつだ」

「キャハッ、最! さっすが博幸! あのおばさん、今頃で『夫の』に浸って涙ぐんでるんじゃない? 像するだけでウケるわね」

さおりと呼ばれた女は、私の料理が入っていたはずの蔵庫から、私が今朝作り置いたばかりのほうれんの胡麻えのタッパーを取りすと、蓋をけてづけ、骨に嫌そうな顔をして見せた。

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「うわっ、何これ。寄り臭い付け。こんなのべてるから、あんな気のないシワシワのおばさんになるのよ」

そう言うと女は、タッパーをシンクの角コーナーへと乱暴に投げ捨てた。バチャリと鈍い音がして、私が今朝、夫の血圧と健康を祈りながら丁寧にすり鉢で胡麻を擦って作ったおかずが、ゴミのにまみれていく。

それを見た博幸さんは、止めるどころか声をげてを叩いて笑った。

「ハハハ! いいよ、捨てちまえそんなもの! 今で、あいつので最級の寿司でも取ろう。あいつが帰ってくるまでに、このの空気を全部入れ替えて、俺たちのにする準備を始めるんだ」

「ねえ、本当にあの、私の名義にしてくれるんでしょうね? あのおばさんを追いした、あんなダサいカーテンも具も全部ゴミ収集に放り込んで、全部買い直すんだから!」

「もちろんだとも。あいつは僕の言うことなら何でも信じる『掃除付きの都のいい財布』だ。退職の千百万円も、親から継いだこのも、全部僕ののひらのにあるのさ」

品で劣な笑い声が、井に反響し、私の鼓膜を容赦なく切り裂いていく。

私は引き戸ので、壁に爪をい込ませながらち尽くしていた。胸の奥が焼きごてを押し当てられたようにく、それでいて全の皮膚はのようにえ切っていた。

涙はなかった。あまりの屈辱と裏切りのさに、としてのの許容量を完全に突破してしまったのだ。

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