"消された母の名前" 第6話
夕方、帰ってきた清子のバッグには、折りで作ったが入っていた。
「楽しかった?」
里美が尋ねると、清子は「子ども扱いされた」と答えた。
翌週には、自分から準備して玄関で待っていた。
母の介護が始まった。
事。
薬。
病院。
洗濯。
の確認。
同じ質問へ何度も答える。
夜に起きて、誰もいない玄関へ向かう清子を部へ戻す。
里美のは、しずつ母親の予定で埋まっていった。
仕事を探す余裕もなくなった。
京へ戻ることも考えられない。
親戚は言った。
「里美ちゃんがいて、本当によかった」
その言葉を聞くたび、里美は笑えなかった。
自分がここにいることで、母は助かっている。
では、里美自は誰に助けてもらうのか。
夜、母が眠ったあと、里美は旅会社で使っていた古いノートパソコンをいた。
求報を探した。
正社員は難しい。
通勤のい仕事も無理。
介護の予定があるため、勤務が固定された仕事も選びにくい。
条件を増やすほど、応募できる求はなくなった。
その、以の同僚からメッセージが届いた。
方のさな旅館や商向けに、国旅者用の案内文を作る仕事を始めたという。期の業務委託で、宅でもできる。
《里美さん、昔この辺りのツアーを担当してたよね。観の紹介文、けない?》
里美は画面を見つめた。
広告
旅会社を辞めた、自分の28は役にたないとった。
だが、の歴史、交通、宿泊施設、旅者が困りやすい点をっている。
古い経験が、別の形で使えるかもしれない。
《やってみたい》
里美は返事を送った。
母のの秘密をったばかりの夜、里美は自分のを取り戻すための、さな仕事をつ始めた。
父・孝雄は、に何本かのカセットテープを残していた。
里美が見つけたのは、斎の奥にある具箱のだった。表には付だけがかれている。
最も古い物は19732。
里美がまれた翌だった。
再する械がなかったため、専へ依頼してデジタル化してもらった。
最初の録音には、若い父の声が入っていた。
『211。里美がうちへ来て、3目』
里美はイヤホンをしそうになった。
父は、記代わりに録音していたらしい。
『夜に3回起きた。清子はほとんど寝ていない。ミルクは60んだ。んだあと、し笑ったように見えたが、清子は気のせいだと言った』
父の声は若く、るかった。
『直子さんは、まだ病院にいる。子どもを戻してほしいと言っている。清子は、退院してから話すと言った』
次の録音は2週。
『清子が、里美を養子にしたいと言った。私は賛成した。ただ、直子さんが納得しなければならない。子どものためと言いながら、私たちが欲しいだけではないか。
広告
その区別が難しい』
里美は何度も再を止めた。
父は、自分たちの選択が正しいと決めつけていなかった。
迷っていた。
そのの録音では、直子が退院し、姉妹で激しく争ったことが語られていた。
直子は娘を連れて京へ戻ると言った。
清子は、む所も仕事もない妹へ任せられないと反対した。
祖父は、直子が子どもを連れて町へ戻ることを許さなかった。
『私は直子さんに言った。今すぐ緒に暮らせなくても、母親であることは変わらない。里美がきくなったら、必ず事を話す。そのに、どういう関係を作るかは本に決めてもらう』
父は約束していた。
里美に選ばせると。
なぜ、その約束は守られなかったのか。
19931の録音を再した。
里美が20歳になったの翌だった。
父の声は、以よりくなっていた。
『清子は、まだ話せないと言った。里美は京で暮らしている。今話せば、度と帰ってこないかもしれないと』
『私は、隠し続ける方が里美を失うと言った。清子は、私には分からないとった。自分が里美を育てるために何を諦めたか、私には分からないと』
里美は机のでけなかった。
清子は、確かにくの物を諦めていた。
結婚は学の教員をしていたが、里美を引き取ったあと退職した。当、子どものをめぐる事が学へられることを恐れた祖父が、辞めるようく勧めたらしい。
清子はその、計を助けるために内職を続けた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
元夫の再婚式に招かれた私には、秘密がある
離婚から五か月後、元夫が若い再婚相手を連れ、結婚式の招待状を届けに来た。だが由美が抱く生後二か月の男児を見た瞬間、元夫の笑顔は凍りつく。 由美は離婚時、すでに妊娠していた。さらに彼女の手元には、元夫の裏切りと消えた夫婦の財産を示す証拠も残されていた。 捨てられた妻が過去を暴くだけでなく、息子とともに自分の人生と安心して帰れる家を取り戻す再生の物語。夫婦|親子関係|不倫2.6万字5 3 -
完結第23話
母の小さな食卓
三年ぶりに実家へ帰った直人は、母の誕生日の食卓に、ご飯と味噌汁、漬物しかないことに驚く。冷蔵庫もほぼ空なのに、玄関には弟へ渡す高価なりんごが三箱も積まれていた。 さらに母の通帳には、弟へ毎月八万円を送った記録が残されていた。弟ばかりを優先する母への古い不満がよみがえるが、その金は、直人が失業した三年前から、息子・悠人の学費として渡されていたものだった。裡の顔|親子関係|修羅場2.8万字5 827 -
完結第20話
妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘
事故で下半身不随になった妻を前に、夫・大介は「僕が君の足になる」と誓う。ところが五歳の娘・春だけは冷たく「帰る」と言い、父に病室の毛布の下を見るよう促した。 そこに隠れていたのは、事故当時に妻と一緒にいた浮気相手。家族を置いて密会していた妻は、事故の賠償や介護まで夫に押しつけようとする。 幼い娘の一言で裏切りを知った父が、離婚と親権確保を決断し、娘と二人で新しい生活を始める物語。夫婦|真実|真相|親子関係2.0万字5 2 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 3 -
完結第20話
路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算
娘の顔合わせに路線バスで訪れた庄三は、相手の両親から「車も持てない乞食」と嘲笑される。婚約者まで黙って見ていたため、庄三はわずか五分で破談を告げた。 しかし庄三の正体は、県下一の交通グループを一台の中古バスから築いた創業者。翌日、社運を懸けた大型工事のコンペ会場で、相手親子は上座に座る庄三と再会する。職場逆転|人生逆転|第二の人生|金銭問題2.6万字5 100 -
完結第15話
白米だけの夕飯を出されたので、家を出ました
年度末の仕事を終えて帰宅した麻子を待っていたのは、冷めた白米だけの夕食。夫と義母は特上寿司を食べながら、「反省したらおかずを出す」と笑った。 「外で牛丼でも食べてきたら?」という夫に、麻子は静かに「分かりました」と答える。しかし彼女は半年前から新居や弁護士の手配を進め、大切な荷物も運び終えていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|修羅場2.0万字5 130 -
完結第20話
妻の予定表に書かれた「最終日」
妻の予定表に記された、結婚記念日の「最終日」。夫は離婚を疑うが、その言葉には、十四年間積み重なった妻の孤独が隠されていた。 毎年同じレストランに二人分の席を予約し、来ない夫を一人で待ち続けていた妻。彼女は今年を最後に、待つことをやめようとしていた。夫婦|真相|第二の人生2.8万字5 70 -
完結第12話
母に贈った家を狙う親戚夫婦
母への恩返しに建てた家へ帰ると、親戚夫婦が勝手に住み着き、食卓を囲んでいた。しかも二人は近所に「自分たちの新居だ」と触れ回り、家まで奪おうとしていた。 裕子は怒鳴らず、警備会社への一本の電話をきっかけに、入退室記録、録音、登記、映像を着実に集めていく。 これは家を取り戻すだけでなく、断れずに生きてきた母が初めて「ここは私の家です」と声を上げる物語。静かな反撃と、母娘が本当の安心を取り戻す再生の一篇。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場1.8万字5 1743 -
完結第12話
二十六年目の告白
余命わずかな夫・浩司は、妻ゆみに衝撃の告白をする。二十六年前、ゆみが産んだ息子と愛人の子を、病院で密かにすり替えたというのだ。 だが、ゆみはすべてを知っていた。夫の行動を目撃し、名札を元へ戻していたため、浩司が愛人の子だと信じて溺愛してきた誠は、紛れもなくゆみの実子だった。夫婦|真相|親子関係|修羅場|不倫1.7万字5 1292