みかん小説
本棚

"0円の注文帳" 第2話

額欄には、

《0円》

とかれていた。

その横には赤い丸がつき、さらにさな字があった。

《いタオル。隆子さんへ連絡。直子には絶対言わない》

直子は何度も読み返した。

母が誕の夜にびした理由。

30「急ぎの配達」だとっていたものは、普通の注文ではなかった。

しかも。

母は最初から、自分には隠すつもりだった。

翌朝、直子は注文帳をバッグに入れ、6号棟へ向かった。若葉台団は昭40代に建てられた規模団で、昔は夕方になると子どもたちの声があちこちから聞こえたものだが、今では杖をついて歩く齢者の方がい。

504号には若い国夫婦がんでいた。30のについて尋ねるわけにもいかず、直子が階段をりていると、入くで買い物袋を提げた女性と顔をわせた。

「直子ちゃん?」

69歳になった坂本隆子だった。

母と同じ商でく品を営んでいた女性で、昔からが悪く、世話好きだった。数にを閉めてからも団にみ続けている。

「お母さんの、片づけてるんだって?」

「うん。隆子さん、ちょっと聞いていい?」

直子が注文帳を見せると、隆子の表がらかに変わった。特に《いタオル》という文字を見た瞬、元から笑みが消えた。

「これ、ってるでしょう」

「もう30以よ」

「だから聞いてるの。6号棟504には誰がんでたの?」

広告

隆子はしばらく黙ってから、くのベンチへ座った。

「野久美子さん。あんたのお母さんよりし若かったかな。9歳の娘と6歳の息子がいた」

久美子の夫は建設関係の仕事をしていた。ではがよく、域の事にも参加する男だったが、では酒をむと妻を鳴り、物を投げることがあったという。

今なら周囲も違う対応をするだろう。

しかし30以。

夫婦の問題は庭内のことだという識がかった。

「枝さんだけは気づいてた。久美子さん、よく弁当買いに来てたからね」

ある、久美子はで支払いをしようとした、銭を落とした。その袖から見えた痣を、枝は見逃さなかった。

それからしずつ話を聞いた。

久美子は子どもを連れてをたいとっていたが、く所がない。実へ帰れば夫が探しに来るし、元にはほとんどもなかった。

枝はの相談窓へった。

女性相談員とも何度か話した。

そして、夫が夜勤でを空けるを選び、久美子親子をな保護先へ移す段取りを組んだ。

「いタオルは、へられるって図だったの」

隆子は言った。

「6号棟のベランダにいタオルが掛かったら、私がをすことになってた」

直子は注文帳を見た。

「あの夜だったの?」

「そう」

「私の誕……」

「ってるよ」

隆子の声がし柔らかくなった。

広告

「枝さん、ずっと気にしてた」

枝は弁当をつ持って504号へ向かった。もし誰かに見られても、いつもの配達にしか見えないようにするためだった。

久美子と子どもたちは、着替えだけをさなバッグへ入れていた。

しかし玄関をる直。

夫が予定よりく帰ってきた。

久美子はけなくなった。

枝も逃げることができず、とっさに「弁当の配達です」と笑った。

夫は怪しんだが、枝を所の弁当の女だとっていたため、そのではく疑わなかった。

その、夫が呂へ入ったわずかなに、久美子と子どもは裏階段からへた。隆子ので別のまで送り、その夜は枝も保護先のくに残った。

「だから帰ってこなかったんだ……」

「久美子さんが怖がって、枝さんのをさなかったからね」

直子は30の自分をいした。

母の帰りを待ちながら、めた唐揚げを箸で突いていた20歳の自分。

「なんで私に説しなかったの」

隆子は首を振った。

「言えるわけないでしょう。久美子さんの居所がられたら困るんだから」

「でも、からなら……」

「からでも同じよ。旦はしばらく久美子さんを探してた。枝さんのにも来た」

直子は初めて聞いた。

「に?」

「『おが女をそそのかしたんだろう』って鳴ったよ」

枝は何もらないと言い続けた。

夫が諦めるまで半以かかったという。

「それで《直子には絶対言わない》だったの」

「そう」

直子はしだけ母への見方を変えた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: