"0円の注文帳" 第4話
と尋ねた。
男は松岡修平と名乗った。
昔、団にんでいたという。
「お母様がおくなりになったと聞きまして」
「母をごじなんですか?」
「ええ。ただ……しおのことで確認したいことがあります」
直子は嫌な予がした。
松岡は古いを取りした。
《300万円》
そこには母の名があった。
「30ほど、私の父が野さんに貸したです」
直子は言葉を失った。
母に借があったという話など、度も聞いたことがない。
「返してないんですか?」
「なくとも父の帳簿では、返済済みになっていません」
松岡の父は商で物を営んでいた。
景気のいい期には産投資もしており、へを貸すこともあったという。
「父は10にくなりました。最、実を理していて借用を見つけたんです」
直子はを見た。
署名は確かに母の字に見える。
付。
平成3118。
直子の誕の5だった。
胸がざわついた。
ちょうど専学の続きをやり直そうとしていた期となる。
「母は何のために300万円も?」
「それを私もりたいんです」
松岡は険しい顔をした。
「父の帳には言だけあります」
彼が見せたコピーには、
《野枝 女たちの》
とかれていた。
直子は注文帳をいした。
0円。
いタオル。
久美子。
もし母が、を逃がすためにを使っていたのなら。
300万円もそのためだったのだろうか。
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しかし当の300万円はだ。
の弁当の女性が簡単に返せる額ではない。
松岡が帰ったあと、直子は母の通帳をもう度見た。
《直子学》とかれた128万円は、1110に全額引きされていた。
き先はかれていない。
直子の胸に、しい疑がまれた。
母は自分の学費を貯めていた。
だが、直子が入学を諦めた直。
そのは消えた。
そして同じ期。
母は300万円を借りている。
もしかすると。
母は最初こそ直子を京へかせるつもりだった。
しかし、別の何かのためにそのが必になり、最終に娘のを諦めさせたのではないか。
父だけが悪かった。
そういかけた矢先だった。
直子は再び母を疑い始めた。
直子は翌、隆子へ300万円の話をした。すると隆子は驚くどころか、しばらく目を閉じたあと、「その話までてきたか」と呟いた。
「ってるの?」
「しだけ」
「みんなしだけってて、どうして私だけ何もらないの」
直子の声がくなった。
隆子はらなかった。
「子どもだったからよ」
「20歳だった」
「20歳でも子どもだったよ。なくとも、あの頃のたちはそうってた」
その答えが、直子には腹たしかった。
たちはいつも、
あなたのため。
らない方がいい。
配させたくない。
そう言いながら、本のに関わることまで勝に決める。
「300万円は何に使ったの?」
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隆子はすぐには答えなかった。
「おそのものより、注文帳を最初から見てみなさい」
「見たよ」
「0円のところだけ拾って」
直子はへ戻り、言われた通りに平成元から帳面を読み始めた。
《田 幕の内3 0円》
《 2 0円》
《アリさん 唐揚げ4 0円》
《島 1 0円》
何件もあった。
母はそんなに無料で弁当を配っていたのか。
ところが数ページむと、名の横に別の記録があることに気づいた。
《田 自転修理》
《 米10kg》
《アリさん 棚取付》
《島 番3》
別のページ。
《野菜》
《病院送り》
《子ども預かり》
《夜勤け迎え》
だけではない。
弁当を受け取ったが、自分にできることで別のに返している。
老は野菜を持ってくる。
は棚を直す。
を持つは病院まで送る。
のあるは番をする。
「何これ……」
直子はわず笑った。
弁当の売掛帳ではない。
町のさな交換記録だった。
そして、帳面のろには別のページがあった。
《こもれび箱》
その。
《急にをなければならない》
《子どもを連れてく》
《病気で働けない》
《誰にも言えないだけ》
毎。
100円。
500円。
1,000円。
額のが積みてられている。
名があるもいれば、
《匿名》
とだけかれたもいる。
母がでを助けていたのではなかった。
町のたちがしずつをし、困ったに使えるようにしていた。
座もない。
正式な団体でもない。
弁当の菓子缶に現を入れるだけの、さな仕組みだった。
30以。
公な制度へ相談することさえ怖がる女性たちがいた。
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